Best Engine

ITの最新動向を紹介する技術情報サイト

IT Terminology

ネットワークコーディング

情報の通信量が急激に増加する現在、ネットワーク環境の整備は喫緊の課題です。
その対策として光ファイバーをはじめとしたインフラの増強が進む中、ネットワークの理論面から通信量問題にアプローチすることを可能にするのが「ネットワークコーディング」という技術です。その原理、そして実用化に向けた課題や今後の可能性について解説します。

文/近藤 雄生

IoT時代に対応する新しい通信技術

スマートフォンやタブレットの普及、LTE等の高速通信の発達、そして、数多くの新しいサービス・アプリの誕生といった昨今の変化によって、通信量(通信トラフィック)は急速な増大を続けています。

米大手通信機器メーカーCiscoによれば、2015年から2020年にかけて、世界の通信トラフィックは5年間で約2.7倍(年平均成長率22%)、中でもモバイルデータは5年間で約7.8倍(年平均成長率53%)になると予想されています(図1)。

爆発的に増加する通信量に対応すべく、容量の大きい光ファイバーの開発をはじめとするネットワーク設備増強のための研究開発が進んでいます。しかし今後、本格的にIoT時代が幕をあけ、身近にある様々なモノがインターネットにつながってデータをやりとりするようになれば、通信トラフィックは、現在の予測も遥かに凌ぐような次元で増加することも考えられます。

その場合には、現在の延長線上でネットワークのインフラを強化するのでは間に合わず、通信の方法そのものをより効率的なものへと変える必要があるともいわれます。

そうした時代に向けて研究が進められているのが、「ネットワークコーディング(またはネットワーク符号化)」という技術です。

図1 世界のトラフィックの推移及び予測(トラフィック種別)
図1 世界のトラフィックの推移及び予測(トラフィック種別)

中継点で情報を合成する

現在の通信において、情報は、ネットワーク上のいくつもの中継点を経由しながら送信先へと向かいます。この場合、中継点の果たす役割は、情報を受け取って、そのまま次の中継点へと転送することだけです。しかし、ネットワークコーディングでは、中継点に新たな役割を与えます。それは、中継点に集まった複数の情報を合成して別の情報に変換すること(=コーディング)です。そうして新たに作られた情報を転送することで、通信量を大幅に節約することが可能になります。

例えば、ある時刻に1つの中継点がX、Y、Zという3つの情報を受け取ったとします。現状の通信では、それらの情報は届いた順に1つずつ次の中継点へと転送されます。つまり、回線上にX、Y、Zの3つの情報が並んで送られるイメージです。これは、道路に3台の車が並ぶのと同じです。すなわち、情報の量が多くなると、車と同様に回線で渋滞が起きることが容易に想像できるでしょう。

ところが、ネットワークコーディングでは、X、Y、Zの3つの情報が中継点で合成され、Aという新しい1つの情報として転送されます。するとその先の回線では、3つの情報が1つになるため混雑が抑制できます。X、Y、Zの送信先には共にAが届けられるため、受け取った側はAをそれぞれX、Y、Zという元の情報に戻す(=復号する)作業が必要になりますが、その際は、それぞれ自分宛のデータだけしか見ることができないように復号することが可能です。

極めて単純化した例ですが、このような原理によって、ネットワークコーディングは通信量を減らすことができるのです。

記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。