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|特集|量子コンピュータの可能性に挑む

量子コンピュータの
可能性に挑む 【特集】伊藤 公平 × 里見 英俊

量子コンピュータの課題

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量子コンピュータと現行のコンピュータとの計算方法の違いについて教えてください。
伊藤
現行のコンピュータが、0か1のいずれかを取る「ビット」というデジタル信号を操作して計算を行うのに対して、量子コンピュータは、0でも1でもある“重ね合わせ”の状態を取ることができる「量子ビット」を操作して計算を行います。例えば、現行のコンピュータでは、3つのビットで、2の3乗=8つの状態(001、010、101……)を表すことができますが、一度に表現できるのはそのうちの1つの値だけ。一方、量子ビットが3つあると、同時に8つの状態を取り、その全ての計算を並列的に行うことができるのです。すなわち、ビット3つで速度は8倍、4つでは16倍、5つでは64倍……といった具合に、ビットの数が増えるほど量子コンピュータの計算速度は、現行のコンピュータに比べて爆発的に速くなる。ただし、実際にその原理をコンピュータとして実現するためには乗り越えるべき数々の課題があるのです。
里見
その課題の一つが、量子ビットの安定性の問題ですね。量子ビットは、情報を失うことなく保持していられる時間(位相緩和時間)がわずかで、計算に使える時間がすごく短い。一度計算すると、また安定させるまでに時間がかかる。それではなかなか使えない。
伊藤

私がシリコンでやってきた研究の大きなテーマの一つがまさに、寿命の長い(=位相緩和時間が長い)量子ビットを作るということでした。2002年には世界最長となる寿命を達成し※3、実験的には大きな前進となりました。ただし、まだ実用できる状態ではなく、更なるブレイクスルーが必要です。

また、もう一つの重要な課題は、量子ビットの数をどうやって増やすかです。現在、一般に公開されている量子コンピュータとして最先端を走っているのは先の「IBM Q システム」ですが、これが2017年に20量子ビットの搭載を実現し、現在は50量子ビットが視野に入っています。しかし例えば、素因数分解をするための「ショアのアルゴリズム」という方法で現行のコンピュータより速い計算を行うためには、万の単位の量子ビットが必要であることもわかっています。それは、個々の量子ビットが完全ではなく、安定させるために7つをまとめて1つの量子ビットにするといったことが必要なためですが、いずれにしても、ビット数を今後、何百、何千と増やしていくことが必須です。

里見 英俊

里見 英俊

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
フェロー

1988年伊藤忠テクノソリューションズ入社。モバイルインターネットの黎明期からデータ通信ネットワークでの大規模システムの開発・構築に携わり、国内インターネットの普及と拡大に貢献し、近年は技監としてCTCの技術戦略やイノベーションを支える。2018年4月から現職。

里見
量子ビットの長寿命化とビット数を増やすこと。この2点がやはり、量子コンピュータを実現するためのハードウェア上の最大の課題と言えそうですね。
  1. 2002年には世界最長となる寿命を達成
    伊藤教授らは2002年に、質量数29のシリコン、核スピン量子ビットの位相緩和時間として、室温で25秒を得ることに成功した。

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