Best Engine vol.5
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12行き詰まる新薬開発、高まる創薬におけるAI活用への期待 昨今の国内製薬企業は、新薬の創出において厳しい局面を迎えています。過去15年間で、国内企業による医薬品関連の公開されている特許数は年々減少しており※1、国内の医薬品では承認品目の数も同じく減少しています※2。新薬創出の難易度が上がった主な要因として、低分子医薬品※3が開発し尽くされており、新しく候補となる化合物が枯渇してきたこと等が挙げられます。そこでバイオ医薬品開発へのシフトや、オープンイノベーション、新規技術を持つベンチャー企業との提携・M&A等、今や自社リソースのみで研究開発を進める製薬企業は存在しないと言っても過言ではないでしょう。 しかし自社による研究開発、外部提携いずれの場合でも、科学論文や特許技術、医療ビッグデータ、競合の治験動向、提携先となるベンチャー企業情報等、今まで蓄積されてきたデータや情報の活用に加え、日々生じる膨大な情報を網羅・把握した上での、迅速な意思決定が重要となります。この「情報戦」を制するには、もはや人の手による情報収集・解析だけでは難しい時代になりました。 そこで、膨大な情報の学習・解析を確実に行えるAIを活用した創薬に注目が集まっています。人知を超えた発想が得られることも、AIに期待されていることです。製薬業界におけるAI活用のトレンド 様々な業界で、AIが「利用を検討」から「積極的に活用」する段階まで進んできています。これは、ディープラーニング(深層学習)を含む機械学習アプローチが進化し、GPUサーバ等ハードウェアの進歩により、処理速度が向上したことも大きな理由です。製薬業界では、まずMR(医薬情報担当者)やコールセンター業務から始まり、最近では製造・営業・治験・医薬品安全監視(ファーマコビジランス)等開発の全領域にAI活用が広がりつつあります。特に海外の製薬企業では、治験計画や製造業務の品質向上・効率化、MRの活動計画の立案、販売戦略の強化等でAI活用による開発時間とコスト削減を図った事例が増えてきています。またAIに、IoTやモバイル等の技術を融合させてサービス展開しているケースもあります。例えば、投薬後の治療効果や服薬状況を手軽に追跡できるスマートフォン向けモバイルアプリケーションの提供等、市販後、患者様へのサービスを強化する製薬企業が増えているのもトレンドの一つです。 しかし実用的なAIシステムの構築には、まだ多くの課題が残っています。例えば、構築したAIシステムの性能は学習データの品質・量に依存します。そのため、適切な学習データの収集・選択や膨大なデータを学習するための過程に多くの人手を必要とすることも認識すべき重要な点です。製薬企業では、研究の早期段階において「膨大な科学的データはあるが、AIをどう活用していいかわからない」といった悩みによって、AI創薬が進んでいないというのが現状でしょう。ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)への参画 前述したAI創薬の課題への打開策として、2016年11月に、国内でAI創薬を提唱してきた京都大学/理化学研究所 奥野教授を中心として発足した伊藤忠テクノソリューションズ株式会社ライフサイエンス事業部 技術開発部エキスパートエンジニア千葉 徹也(写真左)石橋 太郎(写真右)Technical Report 製薬業界におけるAI活用の最新動向2010年頃の第三次AI(人工知能)ブーム以降、多種多様なAIの新技術が開発され、幅広い業界で普及してきました。製薬業界にもその波が押し寄せてきており、膨大な開発期間を要する、従来型の医薬品開発のパラダイムシフトをもたらす手法として、創薬におけるAI活用が注目されるようになりました。ここでは、国内外製薬企業が取り組むAI活用の最新動向について紹介します。

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