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「1891年」― VRが生まれた年

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社
シニア アソシエイト

億田 正貴

製造業の企業でのシステム開発業務を経て、MBAで「企業経営×ビッグデータ」をテーマとして研究を行い、企業に向けてデータマイニング手法を用いた解析システムを構築。2014年伊藤忠テクノロジーベンチャーズに入社。スタートアップ企業への出資及び出資先へのハンズオン支援に従事。

VR(Virtual Reality、仮想現実)は、AR(AugmentedReality、拡張現実)と並び、これからの市場の立ち上がりに期待が集まっている分野だ。VRはコンピュータによって作り出されたCGや音響を利用して、仮想空間の出来事を現実空間の出来事のように体験する技術で、頭部全体を覆うヘッドマウントディスプレイを装着して体験する。視野をディスプレイで覆い、耳にはヘッドフォンを装着することで現実世界の情報を制限し、仮想のデータで現実であるかのような錯覚を生む。仮想的な世界を実体験のように提供することで、人は距離や時間を越えることが可能となる。

身近な例で思いつくのはゲームで、長年、テレビやスマートフォンといった四角い画面で遊んでいたゲームの世界が、今度は視野のすべてに広がり、はるかに現実に近い体験が得られるようになる。その他には、仮想会場でのライブイベントや会議を通した空間の共有や、手術の訓練、飛行機のシミュレータなどでも利用が進んでいる。

今年1月ラスベガスで開催された、世界最大規模の家電見本市である「CES(Consumer Electronics Show)」でもVRが目玉の1つとなっていた。ソニーは「PlayStation®VR」、サムスンは「Gear VR」、Oculusは「Rift」、台湾メーカーのHTCは「Vive」を展示し、連日長蛇の列ができていたという。VR技術に多くの注目が集まり、製品が続々と発売されることを受け、2016年を「VR元年」と呼ぶこともある。

ただ、VRの概念そのものは最近始まったものではない。視野を仮想空間で埋めるという点で、その歴史は1891年にまでさかのぼる。1891年にトーマス・エジソンがキネトスコープを発明している。キネトスコープとは機械の中に投影した映像を付属のスコープをのぞくことによって鑑賞する映写機の一種だ。1968年には頭部を覆うヘッドマウントディスプレイが提案され、1990年代に入るとVRを使ったゲームが発売された。しかし、テレビゲームや映画の代替になるほどには成長せず、いったんブームは下火になった。

再度注目されるきっかけは、2014年のFacebookによるOculusの買収だ。Oculusは頭の動きに連動して表示内容を変えるヘッドマウントディスプレイ「Rift」を開発している。買収前にクラウドファンディングで開発費用を集めたところ、当初25万ドルの想定だったが243万ドルを集めた。また、GoogleのCardboard VRはダンボールと今や誰もが持っているスマートフォンを使うことによってヘッドマウントディスプレイを作り、安価にVRを実現している。プラットフォームについても、名だたる大企業が覇権を争っていて、今やVRのマーケットは多様な思惑が入り乱れている状況だ。

M&Aや投資も活発化しており、約25年前のブームを想起させる状況にもなっているが、市場規模としても提供される製品やサービスの質としてもまだまだで、これからが黎明期と言える。参入すれば簡単にうまくいくマーケットではなく、資本力に依存しない自社にしか作れない製品やサービスを提供できるかどうかが明暗を分けると見ている。2回目のブームで終わらせないために各社が明確なビジョンを持って事業を進めることが必要だ。

出典:Best Engine Vol.1

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