コラム

SEのためのストレージ講座

第9回 ストレージ概論~接続方式の多様化 その2~

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IT基盤のストレージの役割や課題から仮想化・統合化まで、CTCのエンジニアが解説します

著:クロスファンクショングループ プロダクトマーケティング室
インフラソリューション推進部 菅 博

第8回では接続形式としてDASとFC-SANについて説明しました。今回はIPベースで実装されているIP-SANとNASについて解説します。また、これらの接続形態をどのように使い分けていくべきかという指針についても言及します。

1. IP-SAN (IP – Storage Area Network)

IP-SANは名前の通りに、ストレージ専用のネットワークをIPで実現したものです。TCP/IPのネットワーク上に接続されたストレージのデバイスが、サーバからはSCSIディスクとして認識されるために、IP-SANはiSCSIとも呼ばれます(iSCSIと呼ぶ人の方が多いかも知れません)。

SANを最初に実現したのはFibre ChannelによるFC-SANでしたが、サーバをFCに接続する場合には少なくとも専用のHBAが必要であり、多くの場合はFC-Switchも必要とします。HBAもFC-Switchも高価であり、サーバ本体が低価格であるWindows/Linuxの環境では、FC-SANを構築するときにコストバランスが良くないと感じることがあります。それに比べて、IP-SANはサーバが標準で持っているNICと通常のTCP/IPネットワークを使用するため、基本的にストレージ以外の初期投資を必要としません。

IP-SANは2003年に標準規格として認定されましたが、当初は速度と信頼性の面で批判的な人が多かったのも事実です。Fibre Channelのように最初からストレージ専用のネットワークとして設計されたものとは異なり、一般のTCP/IPネットワークをストレージのネットワークとして再利用するということから、プロトコルのオーバーヘッドが激しくてスピードが出ないのではないかという心配がありました。また、そもそもSCSIはエラーフリーの精緻なプロトコルなのに、TCP/IPのような再送や衝突を前提とした緩いプロトコルでラッピングすることに対して、信頼性を疑問視する見方もありました。

しかし、実際には通常のNICとOS上のiSCSIドライバでも十分の速度と安定性を発揮し、最近ではTOE(TCP Offload Engine)を搭載したNICも登場したことにより、サーバの負荷を軽減して一層の高速化を図ることも可能になっています。こうなると、本来iSCSIが目指していた「安価で管理が簡単」というメリットの方が注目され、DASからiSCSIに移行するシステムが今後は増えてくると思われます。

Unix(Solaris,HP-UX,AIX)、Linux、Windows(2000,2003,XP,Pro)、VMware ESXなどメジャーなOSは全て標準でiSCSIドライバのサポートを開始しているため、今後も少しずつFC-SANの市場を奪いながらシェアを拡大していくことが予想されます。

2. NAS (Network Attached Storage)

図1

SANの用語が定着し始めた際にそれと区別するために、ファイルサーバ専用機をNASと呼ぶようになりました。NASはLAN上に接続され、各種クライアントはLAN(WAN)経由でNASにアクセスを行います。

NASがネットワーク上に共有させるドライブはWindowsからはCIFSを介してネットワークドライブとして認識され、UNIX/LinuxからはNFSを介してサブディレクトリとして認識されます。NFSもCIFSも仮想ファイルシステムのプロトコルなので、クライアントからのアクセスは全てファイル単位でのアクセスになるのが特徴です。

NASのようなファイルサーバ専用機が作られる前でも、ネットワーク上でのファイル共有は個別にファイルサーバを立てることで可能ではありました。しかし、UnixやWindowsのような汎用OSがファイルサーバとなっている場合に、クライアントの数が多くなると性能が著しく劣化し、ファイルの数と容量が増えた場合に適切なバックアップ方法が存在しないなどの問題点がありました。

NASはファイルの貯蔵庫として本来あるべき機能に特化した専用機のため、汎用OSを利用したファイルサーバの欠点を克服しています。NASは導入が容易で、クライアントもTCP/IPとNFSやCIFSのプロトコルは標準装備のため、手軽に大容量のファイルシステムが利用可能になります。

3. SANとNASの使い分け

SANがいいのかNASがいいのかという議論はすでにされ尽くした感がありますが、この章で説明してきた接続形式を見れば結論はおのずと見えてきます。前提条件無しでSANとNASのどちらがいいかを議論するのは意味がなく、データ利用の方法やデータをアクセスするアプリケーションなどを考慮して、適材適所で使い分けるのが最善です。

H/Wの観点からはSANもNASも大差がありません。プロセッサと専用OS、キャッシュメモリの他にデータ保護のためのRAID機能などを持っているのは共通です。

しかしながら、ストレージを利用するサーバやクライアントから見た場合には、大きな違いがあります。SANで提供されるボリュームはSCSIディスクとして認識され、NASが提供するボリュームはネットワークドライブとして認識されて、ファイルシステムの一部としてマッピングされます。このことから、SANは専有ディスクとしてブロックI/Oでアクセスすることになり、NASは他のマシンとの共有領域としてファイル単位でのI/Oが可能になります。

最後にアプリケーションの観点から見ると、Exchange やSQL Server のようにNASをサポートしていないアプリケーションもあるので、こうした場合には選択の自由度は残されていないため、SANかiSCSIのいずれかを選択せざるを得ません。

最近は、ある程度の規模のストレージであれば、全ての接続形式を同一筐体でサポートするようになっているので、データやアプリケーションによって自在に接続形式を選択することが可能になっています。

蛇足かもしれませんが、「NASは遅いのでSANの方がいい」という考え方が今でも根強く残っていたりしますが決してそんなことはなく、絶対速度だけにこだわってNASのメリットを考慮しないなら、管理性に乏しい複雑なシステムになりかねません。しかも、ファイルサーバとして考えた場合、汎用OSで作ったファイルサーバよりもNASの方が圧倒的にパフォーマンスは優れています。

4. DASとFC-SAN、およびIP-SANの使い分け

これらの三つの接続方式は、サーバから見た場合には全てSCSIディスクを提供するという点で共通しています。従ってSANとNASで考えたものとは別の視点で棲み分けを行う必要があります。

まず金額(予算)の面で言えば、DASが最も安く次がIP-SAN、最も高くつくのがFC-SANという順番になります。DASのシステムも前提条件がクリアできるのであれば、安価に構築できるのでお奨めです。例えば、サーバの数が少なくてストレージの構成変更もほとんどないということであれば、むしろDASで組んでしまった方が安いし管理も簡素化されるというメリットがあります。

FC-SANとIP-SANはともにネットワーク接続になりますが、技術的な観点からは大きな差異があります。FC-SANはFibre Channelプロトコルというストレージ専用のプロトコルであり、これをある程度理解していないと設計や構成変更を行うことができません。一方、IP-SANは慣れ親しんだTCP/IPだけで実装できることから、ストレージをネットワーク化するときに新たに修得する技術は最小限度で済むことになります。価格面でもIP-SANはFC-SANよりも安価に構築できるので今後はシェアを伸ばしていくと考えられます。

ただし、簡単で安いにも関わらずIP-SANの浸透は非常に緩やかであるのも事実です。これには主に二つの理由があると考えられますが、ひとつは前述したように「速さと信頼性」に対する懐疑的な見方です。もう一つは、サーバから見たときにIP-SANでなければ実現できない機能というのも存在しないため、取りあえずは枯れた技術であるFC-SANで安全に構築したいという担当者が多いのではないかと考えられます。皆がやり始めたら自分もという考え方はITでも例外ではなく、NASでさえも一般的な認知を受けるには数年かかったことを考えれば、IP-SANも同じ道を辿りそうな気がします。

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