Best Engine

ITの最新動向を紹介する技術情報サイト

Technical Report

製薬業界におけるAI活用の最新動向

ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)への参画

前述したAI創薬の課題への打開策として、2016年11月に、国内でAI創薬を提唱してきた京都大学/理化学研究所 奥野教授を中心として発足したライフ インテリジェンス コンソーシアム(以下、LINC)※4では、アカデミア・IT企業・ライフ系企業89機関(2017年10月24日現在)が、それぞれのアイデアや知見、技術を持ち寄ることで、実用的なAI創薬技術基盤を2020年までに開発し、ライフサイエンス産業の発展に貢献することを目的としています。

CTCは、AI技術の開発を通じて優れた新薬創出に貢献することを目的にLINCに参画し、2つのプロジェクトでAIエンジンの開発を進めています。1つ目のプロジェクトである「バイオロジクス関連AI」では、抗体※5のエピトープ(抗体が認識する抗原の一部分)を予測するAIシステムを構築しています。近年抗体医薬品は、主にがんの有効な治療薬としてシェアが伸びています。それは治療満足度の低いがん治療において、低分子医薬品よりも副作用が少ない傾向があるからです。そのため、本プロジェクトの成果が抗体医薬品の研究開発を促し、患者さまのQOL(Quality of Life)向上に貢献すると期待されています。

2つ目の「結晶形・製剤関連AI」では、製造業務における作業時間やコストの削減を目標としています。粉粒体装置は作業者の目視確認により、内面に付着した粉の検査と手作業による除去が行われています。その作業を、装置内面を撮影した動画から、粉の付着状態を正確に検出するAIエンジンにより効率化させることが狙いです。

究極のトレンドスポッター、"Quid Opus"

世の中のデータの80%以上はテキスト情報と言われていますが、このテキスト情報をコグニティブ解析※6するニーズが高まっています。例えば、業務提携先の探索目的での企業調査を考えた場合、企業情報やその企業が保有する特許情報、関連する文献、またその企業に関するニュースやブログも全てテキスト情報です。これら膨大なテキストそれぞれの内容を把握し、またそれらテキスト間の関連性を導き出し視覚的に表現できれば、我々人間は直感的に新たな洞察を得ることができるかもしれません。米国サンフランシスコのスタートアップであるQuid社が提供するQuid Opusは、まさにそれを実現するソリューション、つまり人工知能の技術を用いて膨大なテキスト情報を視覚的に表現することを可能にします。このQuid Opusが最近製薬企業において様々な用途で活用され始めています。例えば、自社の医薬品に対し医療従事者や患者の皆様がどのような意見を持っているか等の市場調査、また自社と競合する他社の動向分析、更にKOL(Key Opinion Leader)の探索や提携先候補のリストアップ、カンファレンスにおけるトレンドの把握等、多くの活用事例が報告されています。CTCではこのQuid Opusを活用して、製薬企業各社の「知りたいこと」を支援するサービスを開始します。

Quid Opusによる人工知能の技術を用いたテキスト情報を解析・可視化した例
Quid Opusによる人工知能の技術を用いたテキスト情報を解析・可視化した例

Quid Opusが、1,700万の企業を網羅するデータベースから、幹細胞※7の作製や幹細胞治療薬の研究開発等幹細胞関連の最新技術を保有する提携候補企業を探索、技術カテゴリごとに自動分類。

  1. ライフ インテリジェンス コンソ-シアム(LINC)
  2. 抗体:免疫グロブリンというタンパク質の一種で、生体内に入った異物を、その異物にある抗原と特異的に結合する抗体を作り、異物を排除するように機能する。
  3. コグニティブ解析:コンピュータシステムが、膨大なデータを学習し、人間のより良い判断や意思決定を支援するための解析。
  4. 幹細胞:分裂により自分と同じ細胞を増やす能力を持ち、また別の細胞に分化する能力を持つ細胞。幹細胞は、主に再生医療(病気やケガ等によって失った組織や臓器の機能回復を目指した治療)の分野で活用が期待されている。

記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。