Best Engine vol.5
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22 1969年、人類初の月面着陸を成し遂げたアポロ11号の司令船の名前「コロンビア」は、小説の中にあったものだった。 ニール・アームストロング船長は、その名の由来を歴史的なSF小説作家、ジュール・ヴェルヌが架空の宇宙船につけた名前だと話している。それはアポロ11号が人類の偉業を成し遂げる、およそ100年前に書かれた物語だ。 月面着陸から約半世紀が経った今、人類は火星への旅を目指している。それも、民間の宇宙開発で――。 市場規模約3391億ドル(日本円で約37兆円※)を持つ宇宙産業は現在、大きな転換点を迎えている。従来は国家主導、重厚長大企業が主人公だった宇宙開発に、民間企業が次々と参入しているのだ。その流れの中心にいる人物こそ、宇宙開発ベンチャー、スペースXを率いるイーロン・マスクだ。 マスクは2017年3月に歴史的偉業を達成した。再利用ロケットによる商用衛星の打ち上げ成功だ。従来は莫大な資金を費やして開発されたロケットの大部分は“使い捨て”だった。再利用が実現したことで、打ち上げコストが大幅に削減され、宇宙開発のハードルが一気に下がる未来が見えてきた。 日本でも、多数の民間ベンチャーが宇宙開発を目指す。2008年設立、超小型衛星の開発を行う「アクセルスペース」の構想は、衛星写真による「地球丸ごとビッグデータ」だ。 同社は地球上の全陸地の約半分(人間が経済活動を行うほぼ全域に相当)を1日に1回撮影する「地球観測網」の実現を目標とする。得られる衛星写真のビッグデータは、大規模商業※ Satellite Industry Association「STATE OF SATELLITE INDUSTRY REPORT」による、2016年の市場規模。日本円の表示は2018年2月現在の為替レートをもとに算出。【参考文献】『月をマーケティングする アポロ計画と史上最大の広報作戦』デイヴィッド ミーアマン スコット、リチャード ジュレック (著) 関根 光宏、波多野 理彩子 (翻訳) 日経BP社『宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌』石田 真康 (著) 日経BP社http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/417245/041000022/?rt=nocnthttps://www.axelspace.com/axelglobe/https://ispace-inc.com/jpn/news/?p=499http://jp.techcrunch.com/2017/12/13/ispace-fundraising-10-bil-yen-over/施設の建設等に先立ち、建設予定地周囲の人の流れや交通量を調べるエリアマーケティング等に活用市場がある。 現在、ビッグデータをAIで分析することで、ビジネスや都市計画において、従来の分析・統計手法ではわからなかった有益な情報が得られる。今後、地上の多種多様なセンサーと人工衛星がもたらすビッグデータが共にAIで分析されることで得られる情報の価値には大きな可能性がある。 独自に無人探査機、着陸船等を開発し、世界初の民間月面探査を目指す宇宙開発企業「ispace」は、2017年12月、シリーズAラウンドで総額101.5億円という巨額の資金調達を行い、話題を呼んだ。これはシリーズAにおける、日本のスタートアップ企業で国内過去最高額、宇宙分野としても世界過去最高額とされる。2010年設立の同社は、2040年には月に1,000人の人が住むと見込み、月の水資源を基軸とする宇宙インフラの構築を視野に入れた事業を進めている。 約150年前は小説の中にあった宇宙開発は今、巨大な産業となって、人類の新しい一歩を踏み出そうとしているのだ。サイエンス・ライター森 旭彦エマージングサイエンス・テクノロジーに関する記事を様々なメディアで執筆している。関心領域は、AI、ロボティクス、宇宙開発等。数字で見るIT Insight宇宙産業全体の市場規模今回の数字は・・・約兆円37

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