新マテリアリティ特定にあたり有識者からのコメント

評価できる点

気候変動や生物多様性のような環境課題や、格差や人権などの社会課題が、社会全体に大きな影響を与えるようになっている今、経済活動の在り方を再検討するためのデータマネジメントや、明るい未来に向かうためのイノベーションを加速させるデジタルトランスフォーメーションへの期待が世界的に高まってきています。このような市場環境下において、CTCグループは多くの可能性を有しているといえます。

しかしながら、CTCグループが従来特定していたマテリアリティは、事業そのものと紐づく重要課題になりきれておらず、その結果、中期経営計画に十分に反映されていませんでした。すなわち、事業をどのように変化させていくのかという内容ではなく、「企業の社会的責任」として外部からの要請に対応する内容にとどまっていたと感じます。

一方、今回特定されたマテリアリティは、これからの10年を見据え、CTCグループが社会と共に持続的な成長を中長期的に実現していくため重要課題として再定義されました。マテリアリティを特定するプロセスにおいても、自社の視点だけでなく、取引先や株主、従業員などの重要なステークホルダーの見解を積極的に把握することに努めた姿勢は、高く評価できます。

正のインパクトを発揮する「ITを通じた社会課題の解決」、負のインパクトを抑止する「責任ある企業活動の実行」、そしてそれを実現するための「明日を支える人材の創出」の3つが打ち出されており、包括的に整理されているという印象を受けます。実際に、2021年度から2023年度までの中期経営計画「Beyond the Horizons」の中でも、特定されたマテリアリティが計画の根幹として組み込まれており、サステナビリティと事業が統合されてきていると感じました。

今後大切にすべき点

今回特定されたマテリアリティの表現は抽象度が高く、CTCグループが2030年にどのような姿になろうとしているかを想像することは、社内外のステークホルダーにとって容易ではありません。いずれのマテリアリティも重要な内容であることには疑義はありませんが、具体性が欠ける表現からは、CTCグループの本気度が伝わりづらくなっています。

今後に向けた改善点のひとつは、これからの10年先、2030年という時間軸を意識することです。未来を見据えた課題を特定し解決していくためには、現状ではなく、未来の視点から事業課題を捉え直していく必要があります。今回のマテリアリティ特定プロセスでは、マテリアリティに関する意見を取引先や従業員からも収集しましたが、それらの意見は必ずしも2030年という時間軸を意識したものになっていない可能性があります。収集された意見が現状を起点としたフォワードキャスティング型の意見なのか、未来を起点としたバックキャスティング型の意見なのかを見極めていく必要があるでしょう。

今後に向けたもう一つの課題は、特定されたマテリアリティに対し、いつまでに何をどのように実現していくのかの目標を設定していくことです。目標設定を、「SMART」=Specific(具体的で)、Measurable(測定可能で)、Achievable(達成可能で)、Relevant(経営目標との関連性があり)、Time-based(時間軸を設けた)にしていくことで、グループ全体で達成すべき内容が明確になります。

例えば、CTCグループの「サステナビリティに関する考え方」として、「現代社会は、気候変動による自然災害の激甚化、貧困や飢餓、社会的格差の拡大、国家間の紛争、国内での少子高齢化など、様々な困難に直面しています。」「ITにしても、その恩恵を受ける機会を持つ人と持たない人の間に格差が生まれ、またAI(人工知能)の未来に対する不安なども生じ始めています」と書かれていますが、「ITを通じた社会課題の解決」というマテリアリティの表現では、その達成度合いを測定することはできません。測定できるようにするためには、どのような社会課題を、いつまでに、どの程度解決しにいくのか、といったKPIを定める必要があります。そうしてはじめて、社内外のステークホルダーにCTCグループがどのように将来に向けて飛躍しようとしているのかを伝えられるようになります。

もちろん、CTCグループは数多くの領域で事業を展開しており、グループ全体ではなく事業単位で解決を目指す社会課題やKPIを特定していくのかもしれません。その場合には、各事業部門が対象とする社会課題やKPIを特定するプロセスを、社内でどのように設計し、浸透させていくのかといった組織マネジメント上の目標が必要になります。

マテリアリティを特定することの意義は、特定することそのものではなく、特定した後にどのようなマネジメント課題を見出し、KPIとアクションを設定し、進捗状況を振り返っていくことにあります。今後CTCグループが、どのようなKPIとアクションを設定していくかに注目していきたいと思います。

コメント提供者紹介

  • 夫馬 賢治 氏

    夫馬 賢治

    株式会社ニューラル 代表取締役CEO

    サテナビリティ経営・ESG金融コンサルタントとして企業をサポートする傍ら、環境省、農林水産省、厚生労働省のESG分野の政策会議委員を務め、「Sustainable Japan」編集長も兼任。国内外のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でESGの解説を担当し、国内や海外での講演も多数行っている。

    ハーバード大学大学院サステナビリティ専攻修士/サンダーバード・グローバル経営大学院MBA/東京大学教養学部国際関係論専攻卒

    著書:
    『ESG思考』『超入門カーボンニュートラル』(講談社)
    『データでわかる2030年地球のすがた』(日本経済新聞出版)

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