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2026年5月25日

「わたしの“得意”」と「あなたの“好き”」が伝わる仕組みづくりを

~細る互助・町内会の衰弱を、地域を越えて強化 利他が消耗しない地域社会を~

OKAMOTO SHUNICHI

岡本 俊一

岡本 俊一

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 みらい研究所リードスペシャリスト

エグゼクティブサマリー

地域社会の「互助」が細りつつある。人口減少と高齢化により町内会や自治会の「なり手不足」に加え、負担感が重くなる一方であることがその要因である。公助の主要な担い手である自治体もまた深刻な人員不足に直面、暮らしや災害時の支えになることを全面的には期待することが厳しくなる中、互助の衰弱は私たちの暮らしに暗い影を落とす。

しかし、互助そのものに可能性がないわけではない。誰もが持つ“得意”や“好き”を、本人の管理のもとで「緩く可視化」し、地域を越えて伝える仕組みをつくれば、互助は太くなり、担い手の消耗も防げる。そうした仕組みにはデジタル技術は貢献できる。本稿では、地域コミュニティの空洞化と社会的活動の疲弊構造という二つの課題を示した上で、“好き”で集まり“得意”が活きる「気軽な互助の参加モデル」を提案する。政府の進めている地方創生2.0を論議する舞台などで議論を深め、早期に実現させることを求めたい。

「互助」の衰退と人口減少と高齢化により進む地域コミュニティの空洞化

6年前に大阪府下のある地区に移り住んだ私の体験である。地域の町内会は、任意加入という背景もあり、参加世帯比率が低かった。町内会役員や地域清掃などの当番サイクルも短くなり、義務感と負担感ばかり大きく、櫛の歯が抜けるように毎年のように退会が発生していた。ある年、地域貢献にも積極的な某企業の社宅の廃止が、人数減少に拍車をかけたことで、私自身も退会を決めた。町内会の誰も、地域の指定避難所を把握しておらず、自主防災組織の存在や、町内会と民生委員の連携も認識がなかった。

こうした空洞化は私が住んだ町の特殊な事例というわけではない。厚生労働省は「地域の相互扶助の機能が弱まっている」と指摘し、大阪府の調査では地域活動への不参加率が66.2%に達する。自助・互助が必要と考える府民は8割を超えるが、防災訓練への参加率は7.4%にとどまり、「必要だと思うが行動しない」という深刻なギャップが存在する。

担い手は、数が少なくなる一方で負担感が増す。NPO・ボランティア・地域活動に共通する「社会的活動の疲弊構造」だ。第1に「常に参加しなければ」という心理的プレッシャーが重い。第2に「やる人・できる人」が固定化し、奉仕が当然視されるようになる。その結果、第3として「貢献している」という実感が薄れて、利他の心が弱っていき、離脱につながり、担い手不足に拍車がかかる。貢献への地域ポイント付与など(栃木県宇都宮市「まちづくり活動アプリ」など)様々な施策が試みられているが、全国的な趨勢を覆すには至っていない。

町内会や自治会は、災害時には、住民の安否確認や避難誘導といった初動対応の担い手になる。さらに、誰がどこに住んでいるのか、行政だけでは把握しれない「見落とされる人」を拾う機能もあり、日常生活でも一人暮らしの高齢者の孤立死・孤独死を防ぐうえで、日常的に見守る事実上の安全網として機能している。

政府が昨年6月にまとめた地方創生 2.0 基本構想 では、「地方の人手不足の一層の進行」「若者や女性の地方離れ」「地域のステークホルダーが一体となった取組の不足」など、防災に限らず、地域産業、生活サービス、コミュニティ運営、福祉・子育てなど、あらゆる領域で急速な人口減少により、地域の「担い手不足」が構造化していることを示している。

人には誰もが“得意”と“好き”を持っている

利他の心は、強弱の差異はあれ誰しもが持ち合わせており、“好き”と“得意”も誰もが持ち合わせている。人のために動く人をみて「この人、もっと活躍できる場があるはずだ」と感じたことが、皆さんにはないだろうか。例えば、

いずれも私自身が過去に出会った事例である。

「気軽な互助の参加モデル」で下支えする

現実には、こうした力が地域社会で活かされる機会は少ない。そこで、私は、“好き”で集まり“得意”が活きる「気軽な互助の参加モデル」を提案する。着想の原点は、PTA活動における「お助け係」の経験にある。役員や委員会活動はできないが、運動会当日の受付なら手伝えた。小さな参加だったが「何もしていない」という罪悪感は消えたし、委員会側も助かったはずだ。小さな手伝いなら出来る人は、たくさんいるはずである。

目に見えにくく、本人でさえ明確に言語化しづらい “得意”や“好き” を、データとして可視化し、必要な時にスポットで参加に繋がりやすいモデルをつくる。たとえば、被災時、元寿司職人の90歳のお爺ちゃんが持つ「高い調理経験」や「協働性」が、適切な範囲内(この場合は、当該避難所内)で避難所を運営する担当者に伝われば、「体が動く範囲でいいので手伝って欲しい」と声がかかる。お爺ちゃんも「おにぎり5個なら作れる」と応じ、200個のおにぎりの一部を自分が担ったという体感により、少し元気になる。こんな手軽で気軽な互助が、地域とリアル/デジタル空間を越えて束ねられると、自治会やNPO、ボランティアなど「中核的に担うコミュニティ」を下支えし、担い手の消耗を緩和する。気軽な参加を入口に、自分に無理のない範囲で中核メンバーへ移行する人も生まれるだろう。

実現検討において重要な3つの視点

この仕組みを実現するうえでは、三つの視点が必要であり、いずれもITシステムをデザインし、先進技術で実現させる知見により満たすことができる。

まず、“得意”や“好き”をデータ化すること。人は、仕事・学び・地域活動・趣味など多様な場面での「経験」や「周囲からの反応・評価」を通じて“得意”や“好き”を形成している。「経験」に関するデータには、就業証明の履歴や業界ごとのスキル、学位・学修歴・資格、地域活動やボランティアの参加履歴、趣味のイベント参加記録などが含まれる。「周囲からの反応・評価」には、仕事・学び・地域活動などで寄せられる感謝や賛同のリアクション、短いコメントなどが該当する。「経験」「反応・評価」が「データ」になれば、その人の特性を他者が知ることができる。

「データ」が得られる場面は、学校、職場、地域、あるいは仲間内など様々である。多様な場面に現われるデータを連携する仕組みとして「自律分散協調型のデータエコシステム」と呼ばれるものがあり、様々な標準化の取り組みがIT業界内外で進んでいる。

次にプライバシーの保護である。これらのデータはその人の生き方に深く関わる繊細な情報であるため、本人が自身のデータを知っていること(本人へのデータ連携)と本人が自分のために使うこと(本人による管理・制御)を基本原則とすべきである。データの自己主権を巡る論議に繋がり、EU、日本でも議論を重ねてきている。

第3に「緩い可視化」という考え方である。得意なことや好きなことでも、例えば数値化しようとなれば、人は監視されているように感じて反発するだろう。AIなどの技術は、人に取って代わるのではなく、自分でも気づきにくい“得意”や“好き”を見つける手助けとして使い、不用意に人にラベルを貼らないよう、あくまでもやわらかに抽象化することが大切だ。例えば、「IT業界経験」「医療業界経験」「調理経験」「調整力」「改善力」「協働性」「園芸好き」といった事柄について、好きや得意の度合いが色の濃淡で表現されるイメージである。

イメージ

産官学民で論議の深化を

以上の仕組みづくりは、町内会・自治会の機能を補完するにとどまらない。

地方創生2.0で掲げる、地域の担い手不足に対し「関係人口(地域外にいながら継続的に関わる人)の活躍を常態化させる」という方針のもと、2025年度に閣議決定された“ふるさと住民登録制度”が関係人口を準住民として制度的に明確化した。その実効性を担保するうえでも、地域外人材と地域内主体の協働を促す、“好き”で集まり“得意”が活きる「気軽な互助の参加モデル」が意味をもつはずだ。都市部に止まらず、小規模な市町村にも裨益する。

この議論は、企業・教育機関・自治体・サービス事業者など幅広い関係者にまたがるため、単独の組織では実現できない。産官学民で互助・共助の本質的課題を共有し、協力し合える領域の合意形成を進める議論が必要だ。特定の業界に限らない公共・公益分野であることから、広域自治体を中核とした行政機関からの発起が求められる。関係人口を議論してきた内閣官房や総務省、国土交通省、デジタル庁などでの議題に載せて、論議を深めてほしい。

デジタル社会の進展と人間が持つ利他の心を活かすアプローチを両輪に、地域社会の課題を解決する仕組みは、人口減社会を生きる若者に残すべき有意義なレガシーとなるだろう。

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岡本 俊一

著者情報

岡本 俊一OKAMOTO SHUNICHI

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 みらい研究所リードスペシャリスト
一般社団法人 情報サービス産業協会 技術委員会 委員

金融業界で約20年、業務システム、情報系、BPR、DX、プロジェクトマネジメントを経験。その後10年、企画部門の部長職を経て専門職としてデジタルトラスト・アイデンティティを軸に、社会課題解決に向けた研究や業界活動を推進。社外出向の経験も豊富。アカデミアとの協働や先端技術活用にも取り組む。

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