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クラウドHPCサービス「Rescale ScaleX®プラットフォーム」で設計と解析の融合を加速

  • Rescale ScaleX®プラットフォーム

数日を要した環境解析が大規模並列計算によりわずか十数分で完了

時代を象徴する建物を数多く手掛ける株式会社大林組。「技術の大林」を支える同社の技術研究所では、「自動化」を目的に設計と解析を融合するコンピュテーショナルデザインの活用に向けた最先端研究が進行中だ。同研究では3DモデリングツールRhinoceros®のプラグインでグラフィカルアルゴリズムエディターである、Grasshopper®をモデリング媒体とし、BIM(Building Information Modelling)ソフトやソフトウェアクレイドル社製熱流体シミュレーションソフトウェアSTREAM(以下、STREAM)を連携させ、解析のための計算リソースとしてクラウドHPCサービス「Rescale ScaleX®プラットフォーム」を利用している。16風向の都市モデル解析では、通常数日を要する解析が72並列計算により15分で完了。同研究は実務レベルで運用できる段階に入った。今後、コンピュテーショナルデザインにAIを活用し様々な分野を横断して行う「統合設計」の進化を目指す。

課題と効果

課題
  • 研究を進める上でCFD(数値流体力学)に要する計算負荷が課題となっていた
  • クラウドHPCサービスで熱流体シミュレーションSTREAMをスムーズに利用したかった
  • コンピュテーショナルデザインの活用において解析に要する時間がボトルネックとなっていた
効果
  • 計算リソースを必要なとき手軽に利用できる環境を実現し研究の効率性が向上した
  • SaaS(Software as a Service)型でSTREAMが準備されているためサービスとしてすぐに利用できた
  • 大規模並列計算により解析時間を飛躍的に短縮しコンピュテーショナルデザインの可能性を拓いた

導入事例インタビューデータ

会社名
株式会社大林組
本社
東京都港区港南2丁目15番2号
創業
1892(明治25)年1月
URL
https://www.obayashi.co.jp/新しいウィンドウで開く
  • 株式会社大林組 技術本部 技術研究所 都市環境技術研究部 主任 上田 博嗣氏

    株式会社大林組

    技術本部
    技術研究所 都市環境技術研究部
    主任

    上田 博嗣氏

導入背景

設計と解析を融合するコンピュテーショナルデザインにおいて必要なとき必要なだけ計算リソースを利用できる環境が必須

の創業以来、時代と共に歩み、「優れた技術による誠実なものづくり」を通じて社会に新たな価値を提供してきた大林組。建物・施設に対するニーズの多様化が進む中、同社は企業理念に掲げる「持続可能な社会の実現」に貢献するべく、環境への配慮や安全・安心の実現といった社会課題の解決に向けて高付加価値、高機能の建設サービスの創造に取り組んでいる。

最新鋭の工法を駆使し、時代の要請にいち早く応えてきた「技術の大林」において最重要拠点となるのが、同社の技術研究所だ。現在、同研究所ではAIやIoTの技術も活用し施工や設計の「自動化」に向けた取り組みを進めている。その取り組みの1つとして、最先端を行く設計と解析を融合するコンピュテーショナルデザインの研究開発が進行中だ。大林組 技術本部 技術研究所 都市環境技術研究部 主任 上田博嗣氏は、建築形状や解析の境界条件に指定したパラメーター(数値変数)を変化させてモデル生成や解析を行うコンピュテーショナルデザインに着目した理由についてこう話す。

「設計は形状や仕様に関する情報を扱い、解析は建築、構造、環境、設備、地盤といった物理量に関する情報を扱います。それらをパラメーター(変数)として統合するコンピュテーショナルデザインを行い、最適化アルゴリズムを使えば現実的な制約条件の中で自動的に最適なモデルの作成が可能です。更に、このような解析データをビッグデータとし、AIで瞬時に最適な解を導き出すことも可能になると期待しています。都市やオフィスなどの総合設計ではトータルなエンジニアリング力が勝負となります。本研究は意匠、構造、環境、設備、地盤をそれぞれ専門とする有志で取り組んでおり、建築物の設計において様々な分野を横断して行う『統合設計』を目指しています」

設計と解析を融合するコンピュテーショナルデザインにおいて 必要なとき必要なだけ計算リソースを利用できる環境が必須

上田氏は、同研究を進める上でインフラ面の課題について言及する。「コンピュテーショナルデザインの検討を開始した当初からCFD(数値流体力学)の使用を決めており、計算負荷が課題となることは想定されていました。自社のスーパーコンピュータはあるのですが、1人の研究者が自由に使用するというのは、現実的ではありません。本研究を進めるのと並行して、計算リソースを使いたいときに手軽に利用できる環境を手に入れるためにクラウドHPCサービスの検討を進めました」

導入のポイント

使いやすさ、SaaS型、従量課金でクラウドHPCサービスを選択 CTCの技術支援により様々な解析ツールとのAPI連携を実現

上田氏は、クラウドHPCサービスに詳しくなかったため、同社が使用しているCFDソフトウェアベンダー数社に推奨サービスを聞き、そこで候補に挙がったのが「Rescale ScaleX®プラットフォーム(以下、ScaleX®)」だったと振り返る。

「できるだけ簡単に大規模並列計算を体験し、どれだけ時間短縮効果があるのかを確かめたいというのが最優先テーマでした。ScaleX®はユーザーインタフェースがシンプルで使いやすく、クラウドに詳しくないエンジニアの私でも利用できます。またSaaS型でSTREAMが準備されており、サービスとしてすぐに利用できる点を高く評価しました。特にCFDソフトウェアのGrasshopper用プラグインは実務で使えるものは世界的にも発展途上で、実務で信頼されているSTREAMの利用は必須だったからです。更に今後の実用性を追求するためオープンソースソフトウェアなども利用できることもポイントとなりました」。

STREAMは、熱中症指標、温冷感指標、日射解析など建築向けの標準機能が充実している。また並列化に対応していることから、計算リソースを自在に利用できるクラウドのメリットを活かし、大規模並列計算により解析時間を飛躍的に短縮することが可能だ。

コスト面について上田氏は、「基本料金なしの従量課金制であるScaleX®は試しやすいことに加え、本研究は実務をしながら業務が空いている時間に集中的に行うため、研究に要するコストの最適化も図れます」と付け加える。

、同研究が予算化され正式に動き出した。セキュリティなど社内環境の整備にあたって上田氏は「ScaleX®を取り扱っているCTCのきめ細かなサポートにより、当社のセキュリティ部門や情報システム部門などとの社内調整をスムーズに行うことができました」と振り返る。環境整備の後、ScaleX®による並列化効率の確認は、評価用モデルの準備と比較用システムでのテストを並行して周到に実施した。更に次の2〜3カ月でScaleX®によるクラウド解析を自動化するAPI(Application Programming Interface)の開発を行った。STREAMもAPIを利用し様々なデータベースとの連携が可能で、CFDとクラウド解析を完全に自動化できる。

「気象庁、地図、窓ガラス、熱物性、空調機器など様々なデータベースを、STREAMのAPIにより自動的に解析の境界条件として入力する仕組みをつくりました。APIは簡単に自動連携できるものではなく、それぞれの仕様を理解した上でフォーマット変換などスムーズに連携するためのステップを踏まなければならず、高度な技術と多大な労力が必要となります。CTCからサンプルの提供に加え、RescaleのAPIに熟知したエンジニアのサポートを受けられたことで、大きな山場を上手く乗り越えることができました」(上田氏)

導入のプロセス

約100種類のコンポーネントを用意し様々な解析ニーズに対応 ボタン1つでアップロード、解析実行、CSV形式で解析結果をダウンロード

同研究における仕組みは、3DモデリングツールRhinocerosのプラグインGrasshopperをグラフィカルなモデリング媒体とし、BIMソフトやSTREAMを連携させ、解析のための計算リソースとしてScaleX®を利用する。重要なポイントは、物性や解析条件などをコンポーネントにしてあらかじめ登録しておくという点だ。日本の総合設計事務所などでも海外製コンポーネントを使ってコンピュテーショナルデザインを行っているケースもあるが、同研究ではコンポーネントを自作している。それも数種類ではない。約100種類のコンポーネントを用意し様々な解析ニーズに応える。また簡単な解析であれば約5種類のコンポーネントで解析できる工夫もしているという。

開発者であるのと同時に自分が利用する視点を大事にしているという上田氏は、ScaleX®の使いやすさを高く評価する。「ScaleX®の画面でファイルをアップロードし、使うソフトウェアとしてSTREAMを選んだ後、並列数や利用するコアの種類と数などを設定するだけです。またGrasshopperからボタン1つクリックするだけで、STREAM用解析ファイルとコマンドファイルをZIP化し、アップロード、ScaleX®の設定、解析実行、解析後のダウンロード、結果処理など一連の操作を自動化するコンポーネントをつくりました。クラウドを意識することなく、デスクトップで解析シミュレーションを行うのと同じ感覚で利用できることを重視しました」

クラウドとのデータのやりとりでは通信環境が制約条件となる。「CFDの解析結果は1つのケースで数ギガに及ぶ場合があるため、ダウンロードだけで何時間もかかってしまいます。解析結果からCSV形式で必要な評価値データだけを抜き出すことで、数メガという軽いデータでダウンロードできるようにしました」

導入効果と今後の展望

通常数日を要する解析が大規模並列計算により十数分で完了 圧倒的な計算パワーがコンピュテーショナルデザインの可能性を拓く

ScaleX®を利用したコンピュテーショナルデザインの効果について、上田氏は16風向の都市モデル(約140万メッシュ)を解析した例で説明した。「通常、数日を要する解析が、72並列で計算すると15分で完了しました。1風向当たりではわずか約1.5分、CAD及び解析ファイル出力からアップロード、解析、ダウンロード、結果表示・可視化までトータルで23分でした。また複雑形状にフィットした非構造格子CFDで別問題を解いた場合、2並列を基準とした高速化計測で、ScaleX®は、最大26倍(108並列上限)となり、26分を要していた計算が、1分に短縮されました。ScaleX®ではノード間を通信するインターコネクトを高性能化するラインアップの準備も進められており、それを利用すると20秒を切るのではないかと期待しています」

CTCのサポートについて上田氏はこう評価する。「質問に対する回答が遅いと、そこで研究開発が停滞してしまいます。CTCは、レスポンスが速く、技術的サポートも的確で、非常に助かっています」

同研究は既に実用レベルに達しており、実務利用に向けてセキュリティの考え方やライセンス体系の整理が必要になると上田氏は話し、今後の展望については「大規模並列計算の圧倒的計算パワーは、設計と解析を融合するコンピュテーショナルデザインの可能性を大きく拓きます。今後、ScaleX®の計算リソースを利用してAIを活用する仕組みを構築し、様々な分野を横断して行う『統合設計』の進化を目指します」と語る。

施工や設計の自動化に向けて建設業界に新風を吹き込む大林組 技術研究所の取り組みを、これからもCTCはScaleX®の提供を通じて支援していく。

  • STREAMは、株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
  • Rhinoceros®、Grasshopper®は、TLM, Inc.(Robert McNeel & Associates)の登録商標です。
  • EnergyPlus is funded by the U.S. Department of Energy’s (DOE) Building Technologies Office (BTO), and managed by the National Renewable Energy Laboratory (NREL).
  • Radiance is developed by Lawrence Berkeley National Laboratory
  • LADYBUG is Free&Opensource software developed by Ladybug Tools LLC.
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