コラム

ネットワークインフラエンジニアから見た5Gシステム

第4回 3GPP SA5における標準化
- ネットワーク・スライスの管理 -

更新

CTCが出席しているWG、SA5における次世代ネットワーク管理の仕様についてネットワーク・スライスの管理を中心に解説します。

前回は5GCのアーキテクチャについて解説しました。今回は、CTCが出席しているもう1つのWG、SA5における次世代ネットワーク管理の仕様についてネットワーク・スライスの管理を中心に解説します。なお、3GPPのWGの構成については、第2回のコラムを参照してください。

1.次世代ネットワーク管理仕様の構成

SA5では、3GPPで5Gシステムが新たに規定されるのに伴い、それに合わせた次世代ネットワーク管理仕様を以下の10件のドキュメントで規定しました。

  • TS 28.530, Management and orchestration; Concepts, use cases and requirements
  • TS 28.533, Management and orchestration; Architecture framework
  • TS 28.532, Management and orchestration; Generic management services
  • TS 28.531, Management and orchestration; Provisioning
  • TS 28.540, Management and orchestration; 5G Network Resource Model (NRM); Stage 1
  • TS 28.541, Management and orchestration; 5G Network Resource Model (NRM); Stage 2 and stage3
  • TS 28.545, Management and orchestration; Fault supervision
  • TS 28.550, Management and orchestration; Performance assurance
  • TS 28.552, Management and orchestration; 5G performance measurements
  • TS 28.554, Management and orchestration; 5G end to end Key Performance Indicators (KPI)

上記のドキュメントは、いくつかのグループに分類することができます。まず、以下の3件のドキュメントはManagement and orchestrationの全体的な概要について記述しており、コンセプト、アーキテクチャ、管理サービスについて規定しています。

  • TS 28.530, Management and orchestration; Concepts, use cases and requirements
  • TS 28.533, Management and orchestration; Architecture framework
  • TS 28.532, Management and orchestration; Generic management services

残りの7件のドキュメントは、Management and orchestrationをもう少し掘り下げて、特定の分野ごとに詳しく記述しています。

TS 28.531は、5Gネットワークのプロビジョニングについて規定しています。

  • TS 28.531, Management and orchestration; Provisioning

TS 28.540と541では、Network Resource Model (NRM)について規定しています。

  • TS 28.540, Management and orchestration; 5G Network Resource Model (NRM); Stage 1
  • TS 28.541, Management and orchestration; 5G Network Resource Model (NRM); Stage 2 and stage3

タイトルにもある通り、TS 28.540がNRMのステージ1、TS 28.541がNRMのステージ2, 3を規定しています(ステージ1,2,3の定義については、第2回のコラムを参照してください)。

TS 28.545は、障害管理を規定しています。

  • TS 28.545, Management and orchestration; Fault supervision

TS 28.550, 552, 554は、性能管理を規定しています。

  • TS 28.550, Management and orchestration; Performance assurance
  • TS 28.552, Management and orchestration; 5G performance measurements
  • TS 28.554, Management and orchestration; 5G end to end Key Performance Indicators (KPI)

ドキュメントの番号が飛んでいたり、数字が順番に並んでいなかったりするのを不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。これは、ドキュメントの作成中に複数のドキュメントをマージしたり、分類を変えたりしたためです。

ここからは、次世代ネットワーク管理仕様のうち、5Gの最大の特徴の一つであるネットワーク・スライスの管理方法について、解説していきます。

2.ネットワーク・スライスのライフサイクル管理

5Gシステムの要件を規定しているTS 22.261には、「5Gシステムは、オペレーターがネットワーク・スライスを生成、変更、および削除できるようにしなければならない」と規定されています。そこで、ここではネットワーク・スライスのライフサイクル管理について解説します。

(1)コンセプト

ネットワーク・スライスを構成するNFのインスタンスとそれに必要なリソースが割り当てられたネットワーク・スライスは、ネットワーク・スライス・インスタンス (以下、NSI)と呼ばれます。TS 28.530では、NSIの管理フェーズを図1の通り4つのフェーズに分けています。

図1:ネットワーク・スライス・インスタンスのライフサイクル管理
(source:http://www.3gpp.org/news-events/3gpp-news/1951-sa5_5g新しいウィンドウで開く)

4つのフェーズは左から順に以下の通りです。

  1. Preparation: NSI生成の準備(ネットワーク・スライス・テンプレート設計、オンボーディング、ネットワーク環境の準備)
  2. Commissioning: NSI生成
  3. Operation: NSIのアクティベーション、変更、ディアクティベーション
  4. Decommissioning: 他と共有していないリソースの削除と、共有リソースからのNSI 特有の設定の削除

Preparationフェーズでは、NSI生成の準備としてネットワーク・スライス・テンプレートの設計をしたり、オンボーディング、ネットワーク環境の準備をしたりします。それが終わると、Commissioningフェーズでネットワーク・スライスの要件を満たすために必要なリソースが割り当てられ、NSIが生成されます。次のOperationフェーズでNSIがアクティベーションされると、実際の通信サービスが提供される状態になり、通信状況に応じてNSIに変更が加えられます。通信サービスの提供が終了すると、そのNSIはディアクティベーションされます。NSIがディアクティベーションされただけではそれまでに確保されていたネットワーク・スライスのリソースは確保されたままになっていますが、最終的にはDecommissioningフェーズでそのリソースも解放されます。

なお、NSIは「コアネットワーク」、「アクセスネットワーク」といった複数のネットワーク・スライス・サブネット・インスタンス(NSSI)に細分化され、NSIとNSSIで独立したライフサイクル管理ができるように規定されています。

(2)ユースケース

TS 28.530では、ネットワーク・スライス管理のユースケースとして、以下の15シーンを挙げています。

図2:ネットワーク・スライス管理のユースケース

上記のユースケースでは、オペレーター自身による管理の他に、サードパーティーに対してその機能を公開するケースも想定されています。これは、TS 22.261にネットワーク・スライスの管理に関して、「サードパーティーに対して適切なAPIを提供しなければならない」と規定されているためです。このため、5Gではサードパーティーが自分自身で使うネットワーク・スライスを生成したり、変更したりできるようになります。また、これらのユースケースに紐づくネットワーク・スライスの管理に関する要件もTS 28.530にはまとめられています。

(3)アーキテクチャ

ネットワーク・スライス管理のアーキテクチャはTS 28.533で規定されています。管理ノードはManagement Function(以下、MF)と呼ばれますが、MFも5GCのC-plane同様、Service-based Architecture(以下、SBA)が使われます。また、VNFを中心とする仮想化環境の管理に関しては、ETSIのNetwork Functions Virtualisation Industry Specification Group(以下、NFV ISG)が規定するManagement and Orchestration(以下、 MANO)と連携することになっています。これに関して、TS 28.533のAnnexに、NFV-MANOとの連携の例が記述されています。

図3:NFV-MANOとの連携の例(TS 28.533, Annex A.4に加筆)

図3:NFV-MANOとの連携の例(TS 28.533, Annex A.4に加筆)

図3では、左側が3GPPの管理システム、右側がETSIのNFV-MANOを表しています。ネットワーク・スライス(・サブネット)のプロビジョニングのリクエストは左側の3GPP管理システムを構成するMF間で処理されますが、その際、VNFの起動が必要な場合は、右側のNFV-MANOと連携して処理を実行します。

このアーキテクチャは、リリース14で規定されたTS 28.500に記述されているManagement Architecture(図4)を基にしています。

図4:The mobile network management architecture mapping relationship between 3GPP and NFV-MANO architectural framework

図4:The mobile network management architecture mapping relationship between 3GPP and NFV-MANO architectural framework

TS 28.500は、仮想化されたNF (VNF)が導入されたモバイルネットワークの管理方法を検討する中で定義されたコンセプトやアーキテクチャ、要件をまとめたドキュメントです。ここでは、仮想化の導入に伴って発生する管理タスク、例えば、VNFのライフサイクル管理などはETSIの規定をそのまま活用し、3GPP側の管理システムでは移動体ネットワークとして管理に必要なタスクのみを行うようになっています。

(4)ネットワーク・スライス管理手順

ネットワーク・スライスのプロビジョニング手順は、TS 28.531で規定されています。TS 28.531では、プロビジョニングに関わるユースケースと要件、そして実際の手順が規定されており、以下のシナリオが挙げられています。

図5:プロビジョニングに関わるユースケース

これらのユースケースは、先ほど、NSI管理のコンセプトで紹介した4つの管理フェーズのいずれかに対応しています。

また、具体的な手順に関しては、以下の通り、規定されています。

図6:ネットワーク・スライスのプロビジョニング手順

こちらも、先ほどのユースケースで必要となるプロビジョニング手順が規定されています。

なおTS 28.531では、図3の左側に描かれているMF間の手順だけが規定されています。3GPP管理システムとNFV-MANOとの間の手順については、TS 28.526, “Telecommunication management; Life Cycle Management (LCM) for mobile networks that include virtualized network functions; Procedures” で規定されています。

3.5Gネットワークのパフォーマンス管理

5Gでは、これまでのモバイルブロードバンドとしての使い方以外に、URLLC (Ultra-Reliable and Low Latency Communication)と呼ばれる高信頼性や低遅延が求められる使い方や、mMTC (massive Machine-Type Communication)と呼ばれる膨大な数の端末が接続される使い方も想定されています。このため、5Gではサービスの品質を確保するためにネットワークの性能管理が重要になってきます。そこで、ここからはリリース15で規定された5Gネットワークの性能管理について解説します。

(1)コンセプト

TS 28.550には、ネットワークの性能データを収集する理由として以下のように記述されています。
「超低遅延、高いデータ容量、厳しい信頼性に対する要件を備えたサービスの場合、ネットワークの障害や性能の問題によりサービス障害が発生し、所有物が壊れたり、体を負傷したりする可能性がある。従って、潜在的な問題を事前に検出し、問題を防止または緩和するための適切な処置を講じるために、分析アプリケーションが使えるようなリアルタイムの性能データを収集する必要がある。」
具体的にどういったデータを取得するかについては、TS 28.552とTS 28.554で規定されています。

(2)Network Functionの性能測定

5Gネットワークの性能を測定するために、TS 28.552では5Gシステムを構成する各NFで測定すべき指標を以下の通り、規定しています。

図7:Network Functionごとに測定する性能値

各NFで測定された値は、NSSIを構成する一連のNFの性能測定値ごとに集約され、そのNSSIのパフォーマンスインジケータとしてまとめられます。またNSIの性能に関しては、これを構成するNSSIのパフォーマンスインジケータが集約され、そのNSIのパフォーマンスインジケータとしてまとめられます。
この性能測定は、NF個別の性能だけではなく、仮想化されたリソース(CPU、メモリ、ディスク)の使用率も計測することになっています。

(3)Key Performance Indicators (KPI)

TS 28.554では、5Gネットワークとネットワーク・スライスでのエンドツーエンドのKPIを定義しています。リリース15では、アクセシビリティ、インテグリティ、使用率に関するKPIだけが定義されていますが、将来的には、Retainability, Availability, Mobilityに関するKPIも定義される予定となっています。

リリース15で定義されたKPIには、以下のようなものがあります。

図8:リリース15で規定されたKPI

アクセシビリティKPIは、あるネットワーク・スライスでレジストレーションした契約者数とその成功率を計測します。インテグリティKPIは、ネットワーク(・スライス)の遅延やスループットを計測します。使用率KPIは、あるネットワーク・スライスでのセッション数や仮想化リソースの使用率を計測します。
このようにして算出されたKPIは、分析用のアプリケーションによって使用されることが想定されています。性能データを分析することにより、事前にネットワーク(・スライス)で発生しそうな問題の兆候を検知したり、発生した場合でも迅速に対応したりできるようにしようとしています。

5Gではネットワーク・スライスを使って様々な要件のサービスが提供されるため、サービス品質を確保することが極めて重要になります。従って、ネットワーク監理システムの重要性がこれまで以上に高くなるものと予想されます。

次回

今回は、5Gにおけるネットワーク・スライスの管理を中心に見てきました。次回は次世代ネットワークの運用管理を実現する技術「MANO」について解説します。

著者紹介

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
情報通信第2本部 システム技術統括部
エキスパートエンジニア 高橋 智彦

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