コラム

ネットワークインフラエンジニアから見た5Gシステム

第6回 NPNとローカル5G
-5Gシステムのプライベート利用-(前編)

更新

国内でいよいよ免許の交付が始まったローカル5Gについて解説します。

前回は仮想化されたネットワークの管理や制御を行うMANOの機能について解説しました。今回は予定を変更して、国内でいよいよ免許の交付が始まったローカル5Gについて取り上げます。5Gは既存の4Gまでの技術とは違い、人だけでなくあらゆるモノをつなげるための通信プラットフォームとしての役割を担うことが期待されていますが、なかでもこの技術をプライベートな用途で使うことができるローカル5Gに対する注目度が昨年から高まってきています。

今回は内容が少し長くなりますので、前編・後編の2回に渡って、3GPPでの標準化状況や海外での動向も踏まえながら解説していきます。

1.3GPPでの標準化

3GPPでも、5Gシステムをプライベートネットワークとして利用するケースを考えており、「Non-Public Network(以下、NPN)」として標準化が進められています。NPNは、展開の仕方により、Stand-alone Non-Public Network(以下、SNPN)とPublic Network Integrated Non-Public Network(以下、PNI-NPN)に分類されます。SNPNは5G公衆網とは完全に独立したネットワークとして構築されますが、PNI-NPNはその機能の一部、もしくは、全部を5G公衆網と共有する形で構築されます。

これについて、ドイツの5G Alliance for Connected Industries and Automation(以下、5G-ACIA)が作成した「5G Non-Public Networks for Industrial Scenarios」というホワイトペーパーには、4つの導入シナリオがまとめられています。ちなみに5G-ACIAとは、ドイツ電機電子工業連盟(ZVEI)によって、製造業向けに5G技術と5Gネットワークを最大限適用することを目的に、製造業、ICT業界、研究施設等の主要なメンバーが集まってに設立された団体で、時点で世界各国から60社が参加しています。日本からも5社が参加しており、には、NTTドコモが新たに加入したことを発表しています。

2.5G-ACIA による4つのシナリオ

先ほどご紹介したホワイトペーパーの中で、5G-ACIAはNPNの導入方法として以下の4つのシナリオを定義しています。

① Standalone Non-Public Network
② Shared Radio Access Network
③ Shared Radio Access Network and Control Plane
④ NPN hosted by the public network

4つのシナリオのうち、①は5G公衆網とは完全に独立したネットワークを構築するシナリオ、②~④はネットワーク設備の一部、もしくは、全部を5G公衆網と共有するシナリオになっています。以上を表にまとめると以下のようになります。

5G-ACIAによるNPN導入の4つのシナリオ

表1:5G-ACIAによるNPN導入の4つのシナリオ

ここから、各シナリオについて簡単に説明します。

① Standalone Non-Public Network

Standalone Non-Public Network

図1:Standalone Non-Public Network

5G公衆網とは完全に独立したネットワークとして構築されるパターンで、3GPPで定義された「SNPN」に該当します。極めて独立性の高いネットワークが構築できますが、全ての設備の運用や管理を自らの手で行う必要があります。

② Shared Radio Access Network

Shared Radio Access Network

図2:Shared Radio Access Network

5G基地局だけ5G公衆網と共有するパターンです。3GPPが規定する「RANシェアリング」の形になります。①と異なり、5G公衆網サービスを提供する事業者に、基地局の運用に関する業務を委託することができます。

③ Shared Radio Access Network and Control Plane

Shared Radio Access Network and Control Plane

図3:Shared Radio Access Network and Control Plane

5G基地局に加えて、コアネットワークの制御プレーン(C-plane)機能(第3回参照)を5G公衆網と共有するパターンです。5Gシステムに特有のコンポーネントを5G公衆網と共有できるため、システムの運用に係る負担を軽減できます。また、NPNを流れるデータについてはローカルに留まるため、一定のセキュリティを担保することが可能です。

④ NPN hosted by the public network

NPN hosted by the public network

図4:NPN hosted by the public network

NPNの設備を全て5G公衆網に依存するパターンです。この場合、NPNは他の5G公衆網サービスとは論理的に独立した「ネットワークスライス」として提供されます。物理的な設備負担がないため、NPN導入のハードルは最も低くなります。また、公衆向けサービスとは論理的に独立したネットワークとして提供されるため、最低限のセキュリティを確保することも可能です。

なお、これら4つのシナリオは5G-ACIAがまとめたホワイトペーパーに書かれているもので、上記の共有型のシナリオについては、必ずしも全てのパターンが日本でそのまま展開されるというわけではありませんが、先日ソフトバンクから発表された「プライベート5G」は、基本的には④のようにネットワークスライスとしてサービスを提供しつつ、③のようにユーザープレーン機能をユーザー拠点に設置することもできるようです。(基地局も、ユーザーの敷地内に個別に構築されるようです。)

次回

今回は3GPPにおけるNPNの標準化状況と、これに関連して5G-ACIAがまとめた4つの導入シナリオについて解説しました。ここまでを前編とし、後編では国内で免許申請の受け付けが開始された「ローカル5G」について解説していきます。

著者紹介

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
情報通信第2本部 システム技術統括部
エキスパートエンジニア 高橋 智彦

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