コラム

SEのためのストレージ講座

第3回 ストレージ仮想化の現実~ストレージ仮想化の懸念点~

更新

IT基盤のストレージの役割や課題から仮想化・統合化まで、CTCのエンジニアが解説します

著:クロスファンクショングループ プロダクトマーケティング室
インフラソリューション推進部 菅 博

ストレージの仮想化により可能性は広がりましたが、現状はいくつかの懸念点が残されています。今後、ストレージの仮想化が浸透していくにはクリアされるべきいくつかの課題がありますが、現状の課題について整理しておきます。

ストレージ仮想化の懸念点~サーバ仮想化とのギャップ~

サーバの仮想化は完全に市民権を得た感がありますが、ストレージの仮想化についてはまだまだという気がします。このギャップを引き起こしている根本原因は、ストレージ技術に対する関心の薄さと知識不足にあると考えられます。

サーバの仮想化はマルチコアや仮想OSなどで実現されますが、技術的なバックボーンから見ると非常にわかりやすいレイヤで実装されています。そもそもサーバやOSはITの技術者であれば最も馴染み深いものなので、サーバの仮想化も慣れるのにそれほど時間はかからなかったようです。しかし、ストレージそのものが注目されるようになった歴史は浅く、正直言って「地味」な分野なので通常のストレージが持つ機能を正しく理解している人がそもそも少ないにもかかわらず、それを「仮想化」と言われてもピンとこないというのが正直なところだと思います。

サーバの仮想化は古くは筐体内パーツの二重化で行われていましたが、それ以後はHAやクラスターが主流となり、現在ではマルチコアと仮想OSが注目されていることからわかるように、使用する側にとってより身近なところで仮想化が実現されています。しかし、ストレージの仮想化は相変わらずユーザからはあまり見えない領域でこっそりと行われている(そもそもそれが仮想化の定義ですが)ため、相変わらず「よくわからない」という人が多いようです。よくわからないものを売ったり買ったりすることはあり得ないため、ストレージの仮想化が市場で認知されるにはもう少し時間がかかりそうです。

ストレージ仮想化の懸念点~パフォーマンスの問題~

仮想化エンジンの実装方式として、In-Band方式はパフォーマンスが問題になることがある点はすでに述べた通りです。これとは別に、そもそも複数の異なる筐体で仮想化されたストレージの場合には、パフォーマンスに対する保証を与えるのが困難になります。ストレージを仮想化したいという背景に既存資産を流用したいという要求がありますが、これは実際には旧式の低速なストレージと最近の高速なストレージを混在させることを意味しています。仮想化エンジンが大容量のキャッシュを持つことで、旧式の低速なストレージで高速なストレージと同等に扱えるようになるという言い回しはよく聞かれますが、過負荷の状況になった場合の動作にはやはり疑問があります。

ストレージ仮想化によって確実に実現できるのは容量の効率利用であって、仮想化によってパフォーマンスが向上するという考え方は、常に正しいとは言えないために少なくとも現状では信用しないほうが無難です。これが可能なのはグリッド型の拡張ストレージなどの一部の製品に限定されるので、誤った期待値を持たないように注意すべきです。

ストレージ仮想化の懸念点~保守の問題~

ヘテロジニアスなコンピューティング・システムで常に問題視されるのが、保守をどうするのかということです。既存ストレージを流用してストレージの仮想化を行う場合には、それぞれのストレージにすでに保守会社がついていますが、それらを複数集めてひとつの仮想ストレージを構成する場合には、当然ですが複数の保守会社が関係してくることになります。既存環境から仮想化環境への繋ぎ直しが保守サポートの範疇で認められるのか、また新しいシステムにおける保守のスキームを複数の保守会社の間でどのように調整するのかは非常に難しい問題となってきます。

技術としては十分にヘテロジニアスに対応できるとしても、システム運用と保守まで含めた場合には実際に異機種混合というのは現実的とは言えないのが現状です。ベンダーによっては競合他社のストレージとの共存を保守も含めてOKと言っているところもありますが、次フェーズで自社ストレージに入れ替えを狙っているのは明白で、E/U主体の純粋なヘテロ環境というのはストレージでは未だに困難です。

ストレージ仮想化の懸念点~ストレージ管理簡素化の問題~

ストレージ仮想化はストレージ管理を簡素化すると言われますが、一部は正しく一部は誤解を招きやすい主張です。確かに、複数のストレージを束ねてひとつの巨大なストレージプールとすることで、ストレージ毎の使用量を平準化し、容量の制限で実装できていなかったミラーやスナップショット領域を他のストレージから借り受けることで、データ保護をストレージベースで行う事が可能になります。また、ストレージの入れ替え時のデータ移行も、仮想化されたストレージ空間の中だけで行うことができるようになるため、オンラインでのデータ移行が可能になることもストレージ管理の効率を上げていると言えます。

一方で、仮想化されたストレージを構成しているのは個々の物理ストレージですが、基本的な操作(LUNの作成、容量拡張など)は物理ストレージ毎にこれまでと同様の方法で行わなければなりません。つまり、仮想化エンジンからの一元管理はできないということです。サーバ仮想化の場合にはブレード・サーバと仮想OSをEnd-to-Endでサポートできるツールが充実しているために、全体管理が一元化されて簡素になるのに比べて、ストレージの仮想化は操作の大半は物理ストレージに立ち戻って個別に行う必要があるため、「仮想化=管理性の向上」と安易に考えることは出来ません。

ストレージ仮想化導入の決め手

ここではストレージ仮想化の懸念点をいくつか考えてきましたが、ストレージを仮想化しなければ実現できないこともあり、そこが仮想ストレージ導入を決定する要因のひとつとなります。それは、容量もしくはパフォーマンスが単一筐体ではもはや間に合わないが、アプリケーションからは分散環境でなく単一のシステムとしてアクセスしたいという場合です。

アプリケーションによっては単一ファイルシステムでPB単位が必要になるケースがあるかもしれませんし、非常に大量の読み出しが同時にかかることが前提となっているシステムがあったりするので、その場合にはストレージを仮想化して上位のアプリケーションに提供するしか方法がないということになります。このように、MUST条件が明確な場合には仮想ストレージを導入すべきです。

ストレージの仮想化を導入することでいくつかのデメリットが発生するにしても、まずは利用者の利便性向上が最優先となるケースもあります。保守や管理が煩雑になったとしても、利用者が既存の制限から解放されて作業効率があがるようであれば、全体のバランスとしては仮想ストレージの導入は効果有りと判断してよいケースもあるかもしれません。

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