ゴルフダイジェスト編集 心に勝つための実戦ゴルフ学
プレッシャーは克服するのではなく楽しむ気持ちが大切
取材協力/チームセリザワゴルフアカデミー
ゴルフほど、メンタルの力が試されるスポーツはありません。
芝の上の止まっているボールを自分の力と技で動かすだけに、メンタルが大きな要素となり、「ミスしたくない」「うまく打ちたい」などの心の動きがショットに影響してきます。
では、そのプレッシャーにどう向き合えばいいのかをお話ししましょう。

芹澤 信雄
1959年生まれ 59歳
日本プロマッチプレー優勝(1996年)をはじめツアー通算5勝、シニア入りしてから1勝をマーク。現在、主宰として藤田寛之プロ、宮本勝昌プロらと共に「チームセリザワ」を結成。大箱根CCにゴルフアカデミーを開校。わかりやすいレッスンで多くのファンを持つ。
できそうだから「失敗したくない」と思う気持ちがプレッシャーになる

アマチュアが全くの「遊び」でゴルフをしていても、「これを入れたらパー」というような1メートルのパットに“しびれる”ことはよくあります。ましてや、クラブの月例競技やアマチュアの大会に参加するようなゴルファーであれば、普段のゴルフとは全く違う試合の「プレッシャー」に押しつぶされそうになった経験は、一度や二度ではないでしょう。しかし、そもそもプレッシャーというのは、一体何でしょうか。
例えば、目の前に200ヤード以上キャリーしないと越えられない「池」があるとします。もし、ドライバーを使っても200ヤードのキャリーが出せない人の場合、この「200ヤードの池越えショット」にプレッシャーを感じるでしょうか? 答えは「NO」です。自分の技量に照らし合わせて、どうにも「できそうにない」という場合、人はプレッシャーを感じることはなく、すぐさま頭の中を切り替えて淡々と別のやり方を探すのが普通です。では、同じシチュエーションで、3番ウッドや5番ウッドを使えば、ギリギリ池を越えられるゴルファーならどうでしょうか。この場合はおそらく、普通の3番ウッド、5番ウッドのショットとは比べものにならないほど大きなプレッシャーを感じることになるはずです。
つまり、プレッシャーというのは、目の前にある課題が「本来の力を出せばできるはず」のものである場合にのみ生じるものだといえるわけです。これはゴルフに限らず、人生で起こる全てのことに共通の真理でもあります。「できそう」だからこそ、「うまくやりたい」「失敗したくない」という気持ちが芽生え、「成功させたい」と強く思えば思うほどプレッシャーは増大するということです。
プレッシャーを冷静に判断しできることに集中する
プレッシャーを感じたら、それを「跳ねのけよう」とするのではなく、プレッシャーを感じている自分を「認めて」、その中でできることに全力を尽くすというのが正しい対処の仕方です。普段なら何の問題もなく打てるショットでも、プレッシャーがかかった状態では、ショットの成功率は当然下がります。であるならば、「普段なら必ず乗せられる距離だから、絶対にグリーンに乗せたい」と思うのではなくて、「自分は今、プレッシャーを感じているから普段通りのショットはできないかもしれない」と考えて、余裕を持った狙い方をすればいいわけです。「メンタルの強さ」とは、どんな強烈なプレッシャーにも「負けない」という強さではなく、自分の心の状態を一歩引いた視点で見ることができ、その上で、自分ができることとできないことを取捨選択して、できることだけをやりきるという「強さ」のことなのです。
そういう意味では、他のプレーヤーがどんなプレーをしようと関係なく、自分自身のプレースタイルを貫くというのも「メンタルの強さ」の一つです。私の場合、プロになりたての頃は「AON」(青木功、尾崎将司、中嶋常幸の頭文字)の全盛期だったわけですが、その3人と同じようなスタイルで勝負しようと思ったことは一度もありません。私の飛距離は、プロの中では下位のほうですから、飛距離よりも正確性、ドライバーよりもセカンドショット以降で勝負するというのが自分のスタイルと信じて、それを貫き通しました。だからこそ、ツアーで優勝することもできたわけです。アマチュアの場合、飛ばし屋と同組になると、自分も飛ばそうと力んでしまい、プレーがめちゃくちゃになってしまうケースがよくありますが、これは、自分のスタイルに徹しきれていない典型的な例と言えるでしょう。その逆に、ドライバーの飛距離が180ヤードにも満たない高齢のゴルファーが、淡々とプレーしてナイススコアで回ってくるというのは、周りに影響されず、自分だけのプレーに集中しているからといえます。
「ドキドキ感」は真剣さと上達への前向きな姿勢の表れ
プレッシャーをコントロールする「技術」的な話をすると、ショット(あるいはパット)に入る際の一連の動作(ルーティン)を、常に一定にするというのが最も有効な手段です。テニスや野球と違い、ゴルフのボールは「止まっていてくれる」ので、ルーティンを一定にして常に同じセットアップができれば、それだけでショットが成功する確率を上げることができるからです。
また、プレッシャーがかかる状況を再現して練習する方法の一つとして、「〇球連続でカップインするまでパットの練習を続ける」という方法があります。例えば、「1メートル」のパットを「3球連続」で沈めるまで練習グリーンを離れられないとなれば、3球目のパットにはかなりのプレッシャーがかかり、本番を想定した「メンタルの強化」ができるというわけです。
私は、プロとしてプレーする中で、プレッシャーを感じて「ドキドキ」する状況と何度となく対峙してきました。その上で強く思うのは、「ドキドキ」は真剣に取り組む気持ち、うまくなりたいという前向きな気持ちを持っている証拠だということです。私自身、そういう「ドキドキ」が、もしなくなってしまったらプロゴルファーをやめると思います。アマチュアの皆さんにも、「ドキドキ」するのは悪いことじゃない、「プレッシャーも楽しもう」という気持ちを持って、ゴルフを続けて欲しいと思っています。
記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。