Best Engine

ITの最新動向を紹介する技術情報サイト

数字で見る IT Insight

「11次元」超弦理論による次元の数

読売新聞論説委員

吉田 典之

科学部記者として、基礎科学、宇宙、ナノテクノロジー、環境などを担当してきた。現在は人工知能、インターネットのプライバシー保護などに関心を持つ。

1、2、3と順に10まで足した合計は? 足し算を繰り返してもよいが、簡単な計算方法を子供の頃に考えた人は多いだろう(答えは文末に)。

では、これが10ではなく無限大だとどうなるか。有限の場合の方法は使えない。この答えは驚くべきことに「-1/12」になると、18世紀の数学者、オイラーが複素数の解析学を用いて導き出した。今回の数字「11次元」を導き出す重要な小道具である。

この「次元」とは何か。「1点の位置を決めるのに必要な数値の個数」という説明がわかりやすいだろう。1次元は直線の世界で、原点からの距離だけで位置は決まる。2次元は平面で縦と横の2個の、3次元ならそれに高さを加えた3個の数値があれば良い。我々が住んでいる空間は3次元、時間を加えると4次元の時空間とされる。でも5次元以上は途端に見当がつかなくなる。

無理を承知で言えば、データベースで1つのサンプルが日付、場所、年齢、数量など多くの属性(次元)を持ち、それぞれの値を使えばデータ空間の中の位置を特定できるのと似ているかもしれない。もっとも、データの属性は互いに無関係だし、空間の次元とは本質的に違うが。

話を戻すと、そんな世界を提示するのが、宇宙の究極の成り立ちを探る「超ひも理論」あるいは「超弦理論」だ。

物質の細部を見ていくと、原子、原子核、素粒子と新たな粒子が現れてくる。その先には、1種類の極微の「弦」があると考えるのがその名の由来だ。弦が様々な振動をすることで、多種多様な素粒子が現れる。

弦の振動は1、2、3倍…と整数倍になる。振動はエネルギーでもあり、すなわち質量にも結びつく。

これを超弦理論で光子の質量を求める式に当てはめてみる。詳細は省くが、式は、

2+(次元数-1)×(1+2+3+・・・・)×3=0

と表せる。(1+2+3+…)は、振動数を表す部分だ。ここに先のオイラーの答え「-1/12」を代入する。光子の質量はゼロなので、次元数は9になることが導かれる。

でも現実の世界は3次元。残りの6次元はどこにあるのだろうか。例えとして使われるのが綱渡りだ。綱渡りをする人には、綱は前か後ろにしか進めない1次元の世界。でも綱の上を這うアリがいたら、アリは前後左右と平面のように動ける2次元の世界と認識するだろう。つまりアリの見ている平面は綱渡りをしている人には隠されているということになる。

そう、残りの6次元の空間は、極めて小さくなっていて、認識はできないけれど、この3次元空間の中に畳み込まれている。都合の良いつじつま合わせに聞こえるが、きちんと数学的に示される考えだ。

この超弦理論の9次元は、弦と弦の間に働く力が強くなった特殊な場合には、次元が1つ増えて10次元に。そして時間を足して11次元の時空間になる。

空間が増えたり減ったりするなんて、想像の彼方である。「空間は幻想である」と、理論物理学者の大栗博司氏は著書で表現している。

超弦理論はまだ理論の段階で、実験で確かめられるのはずっと先だ。だが、100年前にアインシュタインが生み出した相対性理論が、今では全地球測位システム(GPS)の正確性を保つのに欠かせないように、超弦理論もいつか実際の技術と結びつくかもしれない。

いつ、どんな形で現実に現れてくるのか。楽しみだ。

1から10までの合計の答え 1+10=11、2+9=11、のように足すと11になる数字の組が5個あるので、11×5=55

【参考】
出典:Best Engine Vol.7

記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。