|特集|英国Oxford Quantum Circuits Limited(OQC):特別インタビュー 量子コンピュータは、どこまで実用化に近づいたか

量子コンピュータの開発で世界をリードする英国Oxford Quantum Circuits Limited(オックスフォード クァンタム サーキッツ社、以下、OQC)は、2023年11月、東京都内のコロケーションデータセンターに設置された32量子ビットコンピュータ「OQC Toshiko(トシコ)」の商用提供を開始しました。日本を起点に、これまでに例のない量子コンピュータの商用サービスが始まっています。一方CTCは、2023年10月、OQCとの協業を発表。今後、量子アルゴリズムの開発などを共に進めていくことになります。OQCとはどのような会社で、量子コンピュータはどこまで現実のものになっているのか。そしてOQCとCTCの協業は今後どのように発展していくのか。2024年2月、来日したOQCのメンバーと、CTCの量子コンピュータ技術を牽引する川原仁志氏に聞きました。
取材・文/近藤 雄生
多様性を重んじ、急速に進化する会社

杉浦 敦
Atsushi Sugiura
Oxford Quantum Circuits Limited
Japan Country Manager
日本及び海外のIT企業で30年以上にわたり活躍。リーダーシップの豊富なキャリアを持つ。
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- OQCは2017年の創業以来、目覚ましいスピードで発展しています。2022年2月に8量子ビット※1の量子コンピュータ「OQC Lucy(ルーシー)」をAmazon Braket(米Amazon社の量子コンピューティングサービス)上で公開し、同年、シリーズAの資金調達で3,800万ポンドを獲得。そして2023年、都内のコロケーションデータセンターに設置された32量子ビットコンピュータ「OQC Toshiko(トシコ)」の商用提供を開始し、1億ドル規模の資金調達も進行中です。OQCとはどのような会社なのか、メンバーの皆さんから教えてください。
- 杉浦
- OQCは、2017年にオックスフォード大学の研究室から誕生しました。当社の量子コンピューティングのコア技術である「Coaxmon(コアックスモン)」※2をベースに、2021年末にはOQC Lucyを発表し、欧州圏で初めての商用利用可能な量子コンピュータとしました。そして2023年にはOQC Toshikoを日本のコロケーションデータセンターから全世界に公開し、現在に至ります。
このような展開は、当初から計画していたことですが、進化のスピードは年々加速しています。次のステップに向けた準備も今、順調に進んでいます。そして、グローバル展開の第一の起点として、私たちは日本を選びました。日本は非常に成熟した社会であり、政府や各種技術のコミュニティも、量子技術の開発に真剣に取り組んでいるからです。日本でのこれからの展開が楽しみです。

Owen Arnold
オーウェン・アーノルド
Oxford Quantum Circuits Limited
Lead Software Engineer
量子コンピューティングシステムの運用に不可欠なソフトウェアを担当。
- Owen(オーウェン)
- OQCの務めは、量子コンピューティング技術を通じて、様々な社会課題を解決する手段を広く提供することだと考えています。そのためには、多様な産業の人たちが、より簡単かつ安全に量子コンピュータにアクセスできる環境をいち早く整えることが重要です。実現までにはまだ少し時間が必要ですが、その時を目指して私たちは、できることを一つひとつやってきました。今回、OQC Toshikoを様々なビジネスユーザーに公開できたことは、この技術の発展をますます加速させ、量子コンピュータの時代の到来を早めることに貢献できるのではないかと考えています。
- ―――
- OQC Toshikoという名称は、日本の女性物理学者の先駆け・湯浅年子氏にちなんだものだと伺いました。
- Jamie(ジェイミー)
- 私たちは、当社の全てのコンピュータを、理工系分野で活躍した女性にちなんで名付けています。例えばOQC Lucyは、量子力学のパイオニアの1人とされるドイツの物理学者Lucy Mensing(ルーシー・メンシング)からとっています。同様に、日本から世界への展開を目指すコンピュータに湯浅年子氏の名前を付けることはとても自然な選択でした。彼女はジョリオ=キュリー夫妻と共に長くパリで仕事をし、原子核物理学の分野で素晴らしい業績を残した人物です。
- 杉浦
- 当社のCEOも量子物理学の研究者である女性です。私たちは、科学技術分野で女性がより活躍できる環境を作り出すことに積極的に取り組んでおり、それが、コンピュータに先駆的な女性科学者の名前を付ける理由です。
- Rodrigo(ロドリゴ)
- OQCは多様性をとても重視しています。約100人のスタッフの出身国は、26ヵ国にも及びます。私たちには、量子コンピューティングをリードしていくと共に、様々な背景の人が共に暮らし、働ける社会を作ることに貢献したいという思いも持っています。
知っておきたい
量子コンピュータの用語
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量子ビット
量子コンピュータにおける情報の最小単位。従来のコンピュータの「ビット」が1か0のいずれかの値を取るのに対して、量子ビットは、0でも1でもある“重ね合わせ”の状態を取ることができるなどの特徴を持つ。
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Coaxmon(コアックスモン)
OQCのマシンの根幹をなす同社の特許技術。超伝導方式の量子コンピュータの核となる「超伝導回路」の構造に関する技術で、回路を3次元構造にすることでシンプルさや柔軟性を高めた。その結果、量子ビットの質を落とさずに数を増やすことが可能になった。
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