|特集|英国Oxford Quantum Circuits Limited(OQC):特別インタビュー 量子コンピュータは、どこまで実用化に近づいたか

量子コンピュータの利用拡大に寄与する、両者の協業

川原 仁志
Hitoshi Kawahara
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
技術戦略本部 テクノロジーリサーチ第2部 アソシエイトプリンシパル
数値解析、数値流体力学、HPCを専門に、長年にわたり科学分野を担当。現在は、CTCの量子コンピュータに関連するサービスの企画・開発を推進。
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- 続いてOQCとCTCの協業についてお尋ねしますが、CTCの量子コンピューティングへの取り組みについて、ここで概要を教えてください。
- 川原
- 当社は量子コンピューティングに2つの視点から取り組んでいます。1つは、お客様に量子コンピュータを使ってもらう環境を提供することで、そのためのサービスとして昨年から「CUVIC for Quantum」を開始しました。組み合わせ最適化やシミュレーション、機械学習、セキュリティといった幅広い分野で量子コンピュータを活用してもらうべく、必要なサポートを提供しています。そしてもう1つは、環境を提供するだけにとどまらず、お客様の個々の課題に応じて、量子コンピューティングの技術をどのように活用できるのかをR&Dに近い形で見出し、ご提案していくサービスです。つまり、新しい量子アルゴリズムを開発し、それをお客様の価値に変えていくことを目指しています。
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- OQCとCTCが協業することになった背景を教えてください。
- 杉浦
- 当社は日本市場に進出するにあたって、潜在的なお客様にアプローチするための強力なパートナーを探していました。そうした中でCTCと出会い、協業することになりました。CTCは、通信、製造、金融、小売、物流など、日本の様々な業界で確固たる実績を持つシステムインテグレータです。協業の実現をとても嬉しく思っています。とりわけ、CTCとの協業が私たちに必要であったのは、私たちがOQC Toshikoをコロケーションデータセンターに設置したことと関連します。現状、当社以外の全ての量子コンピュータは皆、何らかの研究室の環境に置かれていますが、企業にビジネスで量子コンピュータを活用してもらうためには、コロケーションデータセンターへの設置が必須だと私たちは考えています。というのは、研究室内の量子コンピュータにアクセスするには、公共インターネットを経由するか、研究室へのプライベートネットワークを構築する必要があり、それはコストやセキュリティの面から現実的ではないからです。一方、私たちのシステムはコロケーションデータセンターにあるがゆえに、各企業の既存のデジタルインフラ環境から安全にアクセスできます。そして企業がアクセスする環境を構築する際に、CTCにサポートしてもらえることは、当社にとってもお客様にとっても大きな力になると確信しています。加えて、今後しばらくは、量子コンピュータは、既存のコンピュータとのハイブリッド環境で動作するケースが一般的になると考えられます。その際にも、各種コンピュータ環境からデータセンターまで、幅広いデジタルインフラについてのノウハウを持つCTCをパートナーとして迎えられたことは、私たちにとって本当に大きな力になると考えています。

Minsu Seo
ミンス・ソ
Oxford Quantum Circuits Limited
Cloud Infrastructure Engineer
量子コンピュータシステムのクラウド環境を構築。
- Minsu(ミンス)
- 私もまた、この協業の重要性を感じています。量子コンピューティングの発展のためには、技術を進化させることと同時に、色々な人がそれを正しく活用できる環境を整備することがとても重要だと思うからです。その点からも、このような協業が、世界各地で幅広く実現して欲しいと感じています。量子コンピューティングの発展は、数多くの企業の協力によって初めて実現できるものであろうと思います。
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- CTCにとって、OQCとの協業が持つ意義はどのようなものでしょうか。
- 川原
- 第一に、OQCのマシン(OQC Toshiko)が日本に設置されているという点で、私たちにとっても協業する意味はとても大きいと感じています。量子コンピュータのマシンは基本的には海外にあって物理的に遠いこと、そして現状日本に設置されているマシンについても、様々な制約条件があり、利用上のハードルが低いとは言い難い状況です。その点OQCは、マシンが日本にあることに加え、密なコミュニケーションを通して共に課題に向き合える関係にもあります。今後、色々な面で協力関係を築き、量子コンピューティングの発展という長い“旅路”を、一緒に歩んでいけたらと思っています。

日本のコロケーションデータセンターに設置された32量子ビットのOQC Toshiko。日本はもとよりアジア各国のユーザーにもアクセスしやすいシステムとしてサービスを提供。
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