ゴルフダイジェスト編集 森口祐子プロが日本女子プロゴルフの今を語る
世界に羽ばたく
日本女子プロ「Z世代」の強さと原動力
「Z世代」は1990年代後半以降に生まれた世代を指します。日本の女子プロゴルフの世界では、98年生まれの「黄金世代」、2000年生まれの「プラチナ世代」、03年生まれの「ダイヤモンド世代」、そしてそれら世代のすき間を埋めるように、稲見萌寧、笹生優花、山下美優有、岩井姉妹といった逸材が、毎年次々に登場しています。その背景には何があるのでしょうか。
日本女子プロゴルフツアー41勝の戦績をもち、現在、ゴルフ解説者として活躍している森口祐子プロに、Z世代の考え方、そして強さを支えるものを聞きました。

森口 祐子
1975年にJLPGAに入会、78年ワールドレディスで初優勝。日本女子プロ選手権をはじめ、コンスタントに勝利を重ね、41勝をマーク。JLPGAツアー永久シード権を持つ。2019年には日本プロゴルフ殿堂入りした。
憧れのプレーヤーの影響と育成、バックアップ体制の充実
──日本の女子プロゴルフ選手、とりわけZ世代と呼ばれる若い選手たちが世界を舞台に大活躍していますが、その理由は何でしょう。
森口2000年代に入ってから、JLPGAが特に力を入れてきた「ジュニアレッスン」が日本各地で充実したことが大きいと思います。ちょうどその頃、宮里藍さんが活躍して、「私も藍ちゃんみたいにゴルフをやりたい」と思うお子さんが増えたのですが、それを受け入れる体制が整うタイミングが、うまい具合に合致したということですね。
お隣の韓国では、98年にパク・セリさんが全米女子オープンで優勝したのを見てゴルフを始めた選手が、その後たくさん活躍しました。それと同じようなことが、今、日本で起きているんだと思います。
また、日本ゴルフ協会(JGA)が行ってきた、ナショナルチームの強化の影響も見逃せません。ナショナルチームのコーチに、オーストラリアのガレス・ジョーンズ氏を招聘したのが2015年で、それ以降にチームに在籍した選手たちの多くが、プロになってからもずっと活躍しています。
ジョーンズ氏は、練習で弾道計測器を使ったり、コース攻略に「統計学」の考え方を取り入れるなど、現在、世界のプロツアーで誰もが行っている最新のやり方を、いち早くチームのメンバーに伝えました。その経験を世代間で共有することで、プロになってからも自分で考えてレベルアップする力を持った選手が増えたのではないかと思います。
また、女子児童、女子生徒を受け入れて、プロレベルに育成する取り組みを行っていた故・坂田信弘さんが主宰して、古閑美保さんや上田桃子さんなどを輩出した「坂田塾」も、女子ゴルファーの間口を大きく広げたという点で、とても大きな功績を残したと言えるのではないでしょうか。

1998年生まれ、25歳の渋野日向子プロ。2019年に全英女子オープンで優勝し、日本人選手として42年ぶりにメジャーで勝利。日本のファンに驚きと感動を与えた。
ライバルであり仲間の活躍を互いに喜び高め合うパワーに
──Z世代は一般的に、それ以前の世代とは異なる、独特のメンタリティを持っていると言われます。女子ゴルフのZ世代には、どんな特徴がありますか。

2000年生まれ、24歳の古江彩佳プロ。2019年、アマチュアながら富士通レディースに優勝。20年にプロ初優勝。22年、スコティッシュ女子オープンで海外初優勝を飾っている。
森口「黄金世代」や「プラチナ世代」の選手たちを見ていると、個人として強いのはもちろんなのですが、世代全体としての強さがあるなと感じます。
例えば、同年代の誰かが優勝すると、自分が優勝するのと同じくらい「嬉しい」という選手が本当に多いんですね。私なんかは、他の人が優勝すると、まず「悔しい」が先に立ったものですが、Z世代の選手たちは仲間の優勝を心から喜び合えるというのがすごく素敵だし、それがお互いを高め合う力にもなっているような気がします。ジュニア時代から見知った顔の中で切磋琢磨してきているので、プレー中はライバルとして、ホールアウトしたら同じ世代の仲間として尊重するということが、ごく自然にできているんだと思います。
そうした中で、渋野日向子さんが全英女子オープン(2019年)で優勝したり、稲見萌寧さんが東京オリンピック(2021年)で銀メダルを獲ったりといったことが、本当にいい刺激になっている感じがします。国内で、プロとして黄金世代で最初に優勝したのが新垣比菜さん(それ以前に勝みなみさんがアマチュアとして優勝)でしたが、そこから同年代の選手が次々に優勝したのは、みんなが「私にもできる」と本気で思えたからではないでしょうか。
同じように、世界のメジャーで勝つというのは、それまではどこか「遠い目標」だったものが、渋野さんの優勝で一気に身近な目標に変わったんだと思います。それが笹生優花さん、古江彩佳さんと続々メジャーチャンピオンが生まれた原動力になったことは間違いないですし、これから先も日本人選手はどんどんメジャーで優勝すると思います。
最新機器を利用し、自分に最適な環境を作り出す

1998年生まれ、26歳の小祝さくらプロ。2019年にツアー初優勝を飾って以降、安定した力で毎年優勝を重ね、現在11勝をマークしている。
──Z世代は、タイムパフォーマンスを重視する効率主義で、仕事に対して柔軟な考え方、独創的なアイデアを持ち込むのが得意とされているようですが、プロゴルフの世界ではどうでしょうか。
森口弾道計測器を使って練習効率を高めたり、当たり前に動画を活用したりするのは、Z世代ならではだと思います。例えば、山下美優有さんは「トラックマン※」を自分で購入して導入するのがすごく早かったですし、小祝さくらさんなんかは、動画サイトを観てスウィングを研究して、「これは」と思うコーチ(吉田直樹氏)に自分から習いに行く行動力がすごいです。
それに最近は、スウィング、フィットネス、食事、メンタルといった分野ごとに専門家の力を借りて、チームとして活動する選手が増えてきました。これも効率を重視するZ世代の特徴だと思います。
ライバルである仲間と高め合う、そして、いいと思ったことは積極的に取り入れていく。私たちが若い頃にはなかった発想があり、それを実践できる土壌がZ世代にはあります。海外、特にメジャーに対しても恐れず果敢に立ち向かっています。その流れは受け継がれ、これからも日本の若い世代が日本、世界を舞台に活躍していくことは間違いないでしょう。
※ 弾道計測器の一つ。打球の初速、打ち出し角度、ボールのスピン量を計測、レーダーでボールを追跡し、飛距離、弾道(フック、スライス、高低)などを表示。
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