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「エッジAI」が切り拓くスマートな未来|業界別のユースケースと導入のポイントを知る

1.「エッジAI」とは何か
エッジAIとは、データが生成される現場に設置した端末(エッジ)でAIを実行し、データの処理と分析を行う技術を指します。
例えば、IoTのシステムでは、多数のIoTデバイスが収集した膨大なデータをインターネット経由でクラウドに転送し、そこで分析・解析などの処理を集中して実行するのが一般的です。この仕組みにAIを適用する場合、クラウドに集められたデータに対してAIによる処理をかけるかたちになります。
ただ、こうしたクラウド集中型のアーキテクチャには、IoTデバイスの数が増え、クラウドに送るデータ量が増大すればするほど、通信の遅延やAIによる処理の遅延が起きやすくなります。また、通信コストやクラウドコストが増大してしまうといった問題も内包しています。
これらの問題を一挙に解決しうる技術として注目を集めるとともに、応用も進んでいるのがエッジAIです。
エッジAIの展開形態は、AIを実行させる場所と処理対象のデータ規模の大小によって「大規模なエッジAI」と「小規模なエッジAI」の二つに大別されます。
前者は、工場やオフィスビルのサーバールーム、あるいは店舗のバックヤードなどの場所にエッジサーバーや高性能PCを配備し、その上でエッジAIを実行させる形態です(図1)。
この形態をとると、複数のIoTデバイスのデータをエッジ側で集中して処理することができます。また、監視カメラやセンサーなど、多様なIoTデバイスのデータに一括してAIによる処理をかけることも可能になります。ただし、その場合には、バイナリデータやテキストデータ、画像データといった異なる種類のデータを統合したマルチモーダルな分析・解析を行う能力が、エッジAIに求められることになります。

図1:「大規模なエッジAI」展開のイメージ(製造ラインへの適用イメージ)
一方で後者は、監視カメラ、ウェアラブル端末、ドローン、自律走行車、自律走行ロボットといった各種のデバイスに直接AIを組み込み、リアルタイムにデータを処理させる形態です。この形態では、外部との通信が遮断された状態であっても、AIによる処理が実行され、エッジAIにデバイスを直接制御させることも可能になります。

図2:「小規模なエッジAI」展開のイメージ
このようなエッジAIの仕組みが普及し始めた背景には、以下のような要因があります。
AIプロセッサ(NPU:Neural Processing Unit)を搭載したコンピュータの登場
各種デバイスの高性能化
AIモデルの軽量化をはじめとするソフトウェア技術の発展
特に、近年のAIは「学習」と「推論」を別々に実行するハイブリッドな構造へと変化しており、膨大な計算リソースを必要とするモデルの学習プロセスはクラウド上で行い、学習の結果として得られた学習済みモデルをエッジ側に配信するといった形態が一般化しつつあります。また、エッジAIの採用により、現場での即時判断が必要な業務にはエッジAIを用い、蓄積されたデータに基づく詳細な傾向分析にはクラウドAIを用いるという使い分けも可能になります。
2.エッジAIのメリット
エッジAIの導入がもたらす大きなメリットの一つは、データ処理の「リアルタイム性」が確保される点です。
クラウド上にデータとAIの処理を集中させると、処理や通信の遅延が発生しがちになります。そのような遅延は、生産ラインで稼働する設備・装置、産業用ロボットの障害検知や制御、あるいは自律走行車における障害物回避のような、コンマ数秒の遅れが重大な損失・事故につながる場面では許されません。そのため、エッジAIによって処理のリアルタイム性を確保することが不可欠といえます。
エッジAIは、セキュリティやプライバシー保護の強化にも有効です。
例えば、個人を特定できる顔画像や医療機関における患者データといった機密性の高い個人情報は、外部のネットワークに出すこと自体が大きなリスクです。エッジAIを活用することで、生データをデバイス内部で処理したうえで、プライバシー侵害のリスクのある情報を削除、隠ぺいするなどして、匿名化された分析結果のみをクラウドへ送信することが可能になります。これにより、個人情報保護法やプライバシー保護の要件を満たした安全なAI活用が実現されます。
先にも触れたとおり、エッジAIは、IoTシステムにおける通信コストやクラウドコストの抑制にもつながります。例えば、IoTデバイスが収集したセンサーデータや画像・映像データなどをすべてクラウドに転送し、AIによる処理のリアルタイム性を担保しようとすると、インターネット上で一定以上の帯域幅を確保する必要が生じ、結果として通信に要する費用が大きくなる可能性があります。そのような場面でエッジAIを導入し、エッジ側でデータをフィルタリングして必要なデータのみをクラウドに送信させる構成にすれば、通信コストを抑制することが可能になります。
さらに、AIによるデータ処理をクラウドに集中させることで、クラウドコストが大きく膨らむことになります。それを大幅に抑制する効果もエッジAIには期待できます。
3.各業界でのユースケースと展望
エッジAIはすでに、さまざまな業界に導入され、相応の効果をもたらしています。以下、そうした事例に基づきながら、エッジAIの活用に特に積極的な業界のユースケースと展望を紹介します。
①製造業界
製造業における生産現場では、各種のIoTデバイス(センサーや監視カメラなど)から収集した製造設備・装置のデータを分析し、故障の予兆検知や原因追跡などに役立てられてきました。それが今日では、エッジAIを活用した仕組みによって、故障原因の究明や予兆検知にとどまらず、生産ライン全体の「自動制御」へと発展しつつあります。
これまでは、生産設備・装置の細かな調整は、現場担当者の熟練した技能に頼って行われてきました。しかしこれからは、エッジAIが温度・湿度・材料・振動・振動音といったデータを基にしながら、事象の相関関係をリアルタイムに分析し、製造装置・設備に最適なパラメータをフィードバックしてライン全体を自律的に最適化するようになるでしょう。つまり、微細な不具合の早期発見から大規模なライン制御までをエッジAIが一貫して担うようになるわけです。
また、産業用ロボットの領域では、AIが組み込まれたロボットが現場で学び、自らの動きを自動的に最適化したり、人との共同作業を行ったりといった構想が具現化されつつあります。
このほか、AIを組み込んだ監視カメラ(以下、AIカメラ)によって、生産ライン上の人とモノの動きをリアルタイムに分析し、危険な行動やルール違反の挙動を速やかに検知したり、エッジAIによってトラブルが起きた時点の映像を分析し、人とモノの動きからトラブル原因を割り出し、のちの改善につなげたりといった事例も出始めています。
②モビリティ・交通インフラ業界
エッジAIは、モビリティ業界における自動運転の瞬時判断処理に使われています。また、道路沿いに設置された「マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)ユニット」に車両と車両、交通インフラ間の通信を仲介させ、衝突回避やルート最適化をクラウド接続なしで実現することも可能になっています。
さらに、エッジAIに都市全体の交通流を分析させ、信号機の切り替えタイミングを動的に調整することで、渋滞の削減や平均走行速度の向上を実現した実証実験の事例も報告されています。このほか、ドローンを用いた配送やインフラ点検でも、エッジAIによる自律飛行制御による自動化の実現が期待されています。
モビリティ分野でのエッジAIの適用は多くが検証段階にありますが、将来的な都市物流の最適化や交通の安全確保に大きく寄与することは間違いありません。
③小売業界
小売業界の店舗では、AIカメラに顧客の動きや商品棚・倉庫の映像を分析させ、商品欠品の回避や接客品質の向上、防犯対策などに役立てています。
また、AIカメラがリアルタイムに割り出した客層データ(性別・年齢・表情など)と、店内のデジタルサイネージを連動させ、客層に応じて店内のサイネージ表示を切り替えるといった使い方もあります。さらには、AIカメラによる客層の分析結果とPOSなどをリアルタイムに連携させることで、客層ごとに最適なクーポンをその場で発行することも可能になります。加えて、エッジAIにレジ周辺の音声を分析させ、カスタマーハラスメントの兆候を検知して従業員を保護したり、接客スキルの教育にフィードバックしたりといった研究開発も進められています。
さらに、AIカメラに客層ごとの来客数を日々カウントさせ、それとPOSデータ(販売実績データ)や気象データ、店舗での販促活動の記録などを掛け合わせて分析することで、店舗の来店予測や売上予測を、データを根拠に立てることができるようになります。
④医療・ヘルスケア・介護・福祉業界
医療・ヘルスケア業界では、エッジAIを搭載したモニタリングデバイスが患者のバイタルデータを継続的に解析し、変調を早期に察知するといった取り組みが行われています。また、介護・福祉の業界では、例えば、介護施設入居者をAIカメラに見守らせ、異常を高い精度で検知してアラートを職員に発報する仕組みへの関心が高まっています。この仕組みにより、職員による巡回や不要な駆けつけの頻度を減らし、業務上の負担軽減につなげることができるからです。
このほか、農林畜産業界でもエッジAIの応用が進みつつあります。
例えば、農業の分野ではAIを搭載したロボットによる自動収穫や、ドローンによる病害虫の早期発見、薬剤散布の最適化といった応用例が出始めています。
加えて、エッジAIは、環境センサーのデータを使ったハウス栽培における温度・湿度管理の自動化や、水やり・施肥の自動化を、ハウス内で完結させるうえでも有効です。
4.エッジAI導入におけるポイント
エッジAIを本格的に導入し、継続的な価値を創出するには包括的な戦略が必要となります。以下、その戦略上の主なポイントについて整理しておきます。
①エッジデバイスの管理をどうするか
エッジAIの本格運用の段階で大きな課題になる一つは、地理的に分散して配備された大量のエッジデバイスをどう管理していくかです。各所に散在する多数のエッジデバイスに対して、個別に手作業でソフトウェア更新やセキュリティ設定を行うことは、ほぼ不可能です。
そのため、クラウド上に用意した集中型の管理サーバーから全デバイスの状態を監視し、リモートからAIモデルの更新や脆弱性パッチの適用を一括して実行できるプラットフォームを選ぶ必要があります。
また、AIカメラなどのIoTデバイスの場合、リソース上の制約やファームウェアの独自性などから、脆弱性パッチの適用といったソフトウェア的なセキュリティ施策を講じるのが難しいことがあります。したがって、経済産業省の「JC-STAR」認定ラベル(*1)を取得しているような、セキュリティ対策が施された製品を選ぶことが重要になります。
いずれにせよ、インターネットに直接つながる(あるいは、その可能性が高い)エッジデバイスやIoTデバイスは、サイバー攻撃の標的になりやすく、攻撃者に脆弱性を突かれ、重大なセキュリティ侵害が引き起こされるリスクを孕んでいます。ゆえに、デバイス管理の徹底が必要とされ、その意味で、運用やセキュリティガバナンスの自動化や、セキュリティ強度の高いデバイスの導入は、エッジデバイスやIoTデバイスの運用負荷を低減させながら、工場や店舗などのセキュリティレベルを高く保つうえできわめて有効な手段といえます。
②少ないリソースで高い性能をいかに実現するか
エッジはクラウドと比較して、CPUやメモリなどのコンピューティングリソースに厳しい制約があります。その中で、エッジAIのシステムには、高精度なリアルタイム処理が要求されます。このようにリソース上の厳しい制約がある中で、AIによる処理の高速性、リアルタイム性を追求していくには、デバイスのスペック選定とAIモデルの高速化・軽量化がカギとなります。
AIモデルの軽量化・高速化には、モデル圧縮の技術が一般に用いられています。
AIモデルの圧縮技術には、モデルの重みを示す数値を32ビット浮動小数点による高精度な数値から8ビット整数へと変換して軽量化する「量子化」や、不要な計算経路やパラメータを削除する「剪定(枝刈り)」、大規模なAIモデルの知識を小規模なAIモデルに移転させる「知識蒸留」といった技術があります。
これらの技術を駆使し、比較的安価なエントリーAIプロセッサを搭載した小型デバイス上でも高度な処理を実現することが望まれます。
③デバイスの設置場所をどうするか
エッジAIの運用においては、エッジデバイスの物理的な設置環境への配慮も欠かせません。例えば、工場や屋外に設置されたエッジデバイスやIoTデバイスは、温度・湿度・粉塵・振動といった過酷な環境に常にさらされます。そのため、IEC(国際電気標準会議)が定めた防塵・防水性能の国際規格(IP規格)に準拠し、耐衝撃性も備えたハードウェアを選択することが推奨されます。
④データ活用の基盤と体制をどう整えるか
エッジAIの導入、運用を巡っては、データ活用のための基盤と体制をどう整えるかもポイントとなります。
エッジが収集したデータは、現場での即時判断に使われるだけではなく、のちのトラブル原因の詳細な調査や事象の証明、改善活動の源泉となりえます。一方で、IoTデバイスやエッジデバイスのストレージには限りがあり、現場で収集・処理されたデータを長期的に保管するのが困難です。そのため、クラウド上のデータレイクなどへデータを転送・蓄積し、分析・解析に利用するための環境を整えなければならないことがあります。また、こうした環境を整えておくことで、現場の担当者はエッジAIによるリアルタイムなデータ分析により「いま何が起きているか」「その要因は何か」を把握できるとともに、経営層は、自社の事業を運営する中でさまざまに起きた事象をより細かく分析・解析し、改善に向けて何を変革すべきかをとらえることが可能になります。
*1 JC-STAR:経済産業省が2025年3月から運用を始動させた、IoT機器のセキュリティレベルをラベルによって可視化する制度
5.CTCのエッジAIのソリューション
エッジAIの本格導入に向けてCTCでは、システムインテグレーションの知見と最先端技術を融合させ、包括的に支援しています。
その一つが、米国マサチューセッツ工科大学発のスタートアップであるLiquid AI社が開発した超高効率AI「Liquid Foundation Models(LFM)」です。LFMは「動的システム理論」に基づく軽量・高効率な基盤モデルで、少ない計算資源でも高精度に動作し、長文理解や時系列処理に優れています。
また、日本発のAIスタートアップであるIdein(イデイン)社のエッジAIプラットフォーム「Actcast(アクトキャスト)」に、CTCのデータ活用伴走サービス「D-Native」を組み合わせ、現場のデバイス管理からデータの蓄積・分析までをシームレスに統合した「製造業向けエッジAIソリューション」を開発。初期投資とデバイス運用の業務負荷を抑制しながら、異常検知や品質管理の自動化を実現します。
CTCは、ハードウェア選定からAIモデルの軽量化、セキュアなネットワークの構築、高度な分析に至るまで、システム全体の最適化を図る「インテグレーション力」で、お客様と共創・伴走し、事業の持続的な成長をサポートします。
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