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AIで情シスの仕事は減るのか、増えるのか|現場から考える、情報システム部門の新しい役割

一方、企業全体でAIの利用を広げる段階では、新たな仕事も発生します。利用を認めるサービスを選び、セキュリティ上のリスクを確認し、社内ルールを定め、利用できるデータを整える必要があるからです。社員からの問い合わせへの対応や、出力内容の確認方法を決める仕事も加わります。
AIによって短くできる作業と、AIの利用によって新たに生まれる仕事は、同時に存在します。さらに、ネットワークやインフラ、業務アプリなどの既存環境は、AIの導入中も安定して動かさなければなりません。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社が、年商1,000億円以上の企業でAI・生成AIの業務活用に取り組む情報システム部門の担当者・責任者216名に行った調査からも、既存業務とAI関連業務を並行して担う現場の状況が見えてきました。本記事では、調査結果の一部を根拠として、AI時代に情シスが担う役割を考えます。

- 1. AIで効率化するはずなのに、現場の仕事はなぜ増えるのか
- 1-1. AIを導入した時点から、管理する仕事が生まれる
- 1-2. 増加したのは、全社利用の前提を整える仕事
- 2. AI関連の仕事が増える間も、既存の保守運用は続く
- 2-1. AIも新たな管理対象になる
- 2-2. 現場の負荷を高めるのは、2つの運用が重なる期間
- 3. 現場が感じる経営との認識差を、「忙しい」という訴えで終わらせない
- 3-1. 現場がギャップを感じる理由を、調査データから整理する
- 3-2. 仕事を3つに分けると、必要な体制を説明しやすい
- 4. 情シスの役割の中心は、運用作業から全社利用を支える判断へ移る
- 4-1. 各部門が安全に使える条件を整える
- 4-2. 忙しさは、情シスの価値の証明にはならない
- 5. まとめ:情シスの仕事がなくなるかではなく、何を担うかを決める段階
1. AIで効率化するはずなのに、現場の仕事はなぜ増えるのか
1-1. AIを導入した時点から、管理する仕事が生まれる
AIツールは、文章作成や情報検索、問い合わせへの回答など、個々の作業にかかる時間を短くできます。ただし、企業で利用する場合は、社員がツールを使い始める前から管理が必要です。
利用するサービスを選び、アカウントや権限を設定し、入力してよい情報の範囲を決めます。既存システムや社内データと接続する場合には、安全性や正確性も確認しなければなりません。利用開始後には、問い合わせへの対応や利用状況の確認、ルールの更新も続きます。
個別の作業で効率化の効果が表れても、全社利用を支える仕事が同じ時期に増えれば、情シス部門全体の業務量がすぐに減るとは限りません。
実際、AIエージェントや生成AIの普及前と比べて、情シス部門全体の業務量が増えたと感じる回答者は74.6%に上りました(Q2)。個々の作業を短くする効果と、全社利用のために増える管理業務が並行していると考えると、現場の実感を理解しやすくなります。

1-2. 増加したのは、全社利用の前提を整える仕事
負荷の内訳にも、情シスが担う役割の変化が表れています。
業務量が増えたと回答した161名に、特に増加した領域を尋ねたところ、「AIに関する情報セキュリティ対策の検討・実装」が73.9%で最も高くなりました(Q3)。「AIに関するガイドライン・利用ルールの策定」が65.2%、「AI活用に向けた社内データの整備」が59.6%で続いています。
上位に挙がった仕事は、AIを使って成果物を作る作業ではありません。社員や事業部門がAIを安全に利用できるように、共通の条件を整える仕事です。
AIを導入した部門だけで個別にルールを決めると、部門ごとに情報の扱いや確認基準が変わります。利用範囲が広がるほど、全社で共通する基準を定め、継続して管理する役割が必要になります。情シスの負荷が増えている背景には、AIツールの導入作業に加えて、利用環境を維持する仕事が生まれている点があります。

2. AI関連の仕事が増える間も、既存の保守運用は続く
2-1. AIも新たな管理対象になる
AIの利用環境を整えている間も、基幹システムやネットワーク、業務アプリを止めることはできません。障害を防ぎ、変更を管理し、社員が日常業務を続けられる状態を保つ仕事は残ります。
AIサービスも、利用を始めれば新たな管理対象になります。アカウントや権限、データ連携、利用状況、セキュリティを継続して確認する必要があるためです。AIが既存システムを直ちに置き換えるというより、管理するシステムが1つ増える状態になる場合もあります。
既存の保守運用業務についても、回答者の66.7%がAI普及後に業務量が増えたと感じています(Q5)。ネットワークやインフラ、アプリの運用を続けながら、AIに関する管理が加わっている企業が少なくないことがうかがえます。

2-2. 現場の負荷を高めるのは、2つの運用が重なる期間
既存システムを安定して動かす仕事と、AIの利用を広げる仕事では、求められる対応が異なります。
既存システムの運用では、障害を防ぎ、変更による影響を抑え、決められた水準でサービスを維持します。AIの活用支援では、利用部門と話し合いながら用途を決め、変化する技術やリスクに合わせてルールを見直します。
両方の仕事を同じ人員で担えば、目の前の障害対応や問い合わせが優先され、新しい仕組みを設計する時間を確保しにくくなります。AIの導入によって将来どの程度の余力が生まれるかを考える際には、導入から定着までに発生する運用業務も含めて見積もる必要があります。
3. 現場が感じる経営との認識差を、「忙しい」という訴えで終わらせない
3-1. 現場がギャップを感じる理由を、調査データから整理する
AIは、定型作業を効率化し、情シスの負担を軽くするものとして期待されています。情シス担当者・責任者の84.2%も、経営層は「AIの普及によって情シス部門の業務は効率化・削減できる」と認識していると回答しています(Q9)。これは経営層自身への調査ではなく、あくまで現場から見た受け止めですが、8割を超える担当者が「業務は減るはず」という周囲の見方を意識している状況がうかがえます。

しかし、現場で起きているのは、既存業務の削減よりも新しい仕事の追加です。74.6%がAI普及後に部門全体の業務量が増えたと答え(Q2)、情報セキュリティ対策や利用ルールの策定、社内データの整備などが増加要因に挙がりました(Q3)。既存の保守運用業務も66.7%が増えたと感じており(Q5)、AI関連の新業務が従来の仕事に上乗せされています。
一方、現場では「一部の作業が効率化しても、AIを安全に使うための仕事が増え、部門全体の負荷は下がっていない」という実感が広がっています。つまり、現場から見ると「仕事は減るはず」という周囲の期待と、「仕事は増えている」という実感が食い違っている。本章で扱う認識ギャップは、現場が感じているこの食い違いを指します。
現場がこのギャップを強く感じる背景には、体制面の実態があります。40.7%が現在の人員や体制は業務量の変化に追いついていないと答え(Q6)、そのうち53.4%が、本来取り組むべき戦略的な業務に時間を割けないと回答しています(Q7)。業務が増えているのに人員や体制が変わらない状態が続けば、現場が「業務の増加が十分に認識されていない」と感じるのは自然な流れです。業務の増え方が経営層に十分伝わらなければ、必要な人員や体制を整える判断も、さらに遅れかねません。


3-2. 仕事を3つに分けると、必要な体制を説明しやすい
業務の全体像を共有するには、情シスの仕事を3つに分けて整理する方法が有効です。
第一は、事業継続や安全のために残す既存業務です。ネットワーク、インフラ、基幹システム、セキュリティなど、停止した場合に事業へ大きな影響が生じる仕事が該当します。
第二は、AIの普及によって新たに発生した業務です。AIに関するセキュリティ対策、利用ルール、データ整備、利用部門への支援など、全社利用を進めるために必要となった仕事を整理します。
第三は、標準化、自動化、外部活用によって減らせる業務です。手順が決まっている作業や、繰り返しが多い作業、社内固有の判断をあまり必要としない作業が候補になります。
業務ごとに、費やしている時間、止めた場合の影響、必要な知識、現在の担当者を整理すれば、必要な体制を具体的に説明できます。増員の要否だけでなく、情シスが担う範囲そのものを見直す議論にもつながります。
4. 情シスの役割の中心は、運用作業から全社利用を支える判断へ移る
4-1. 各部門が安全に使える条件を整える
AIの利用が一部の部門に限られている間は、個別の相談に応じる方法でも対応できます。利用者や用途が増えると、情シスが1件ずつ判断する進め方には限界が生じます。
全社で利用を広げるには、利用を認めるサービス、入力できるデータ、出力内容の確認方法、問題発生時の対応先などを共通化する必要があります。各部門が基準に沿って自ら利用できる状態をつくれば、情シスへの問い合わせを減らしながら、利用上のリスクも管理できます。
情シスが全ての活用方法を考え、全ての運用を代行する必要はありません。事業部門は業務上の用途と成果に責任を持ち、情シスは全社で守る条件と共通基盤を整える。役割を分けることで、AI活用を広げやすくなります。
4-2. 忙しさは、情シスの価値の証明にはならない
情シスの業務量が増えている事実だけでは、部門の価値を十分に説明できません。仕事を多く抱えた結果、重要な判断や仕組みづくりに時間を使えなくなれば、全社のAI活用を遅らせる要因にもなります。
情シスが担う価値は、利用範囲や許容できるリスク、データの扱い、責任分担、投資の優先順位を整理し、誰が何を担うかを決める点にあります。
利用部門に任せる仕事、情シスが共通機能として持つ仕事、外部の力を活用する仕事を分ける。慣習で続けている作業も見直す。作業を抱え続けることより、全社にとって適切な分担を設計することが、AI時代の情シスに求められます。
5. まとめ:情シスの仕事がなくなるかではなく、何を担うかを決める段階
AI活用が広がる途中では、情シスの仕事が一律に減るとは限りません。個別作業の効率化が進む一方で、AIを安全に利用するためのセキュリティ対策、ルール策定、データ整備、利用者支援が必要になります。既存システムの保守運用も続きます。
情シスに求められるのは、増えた仕事を全て抱えることではありません。事業継続のために残す仕事、AIの普及に伴って新たに持つ仕事、標準化や自動化、外部活用によって減らす仕事を分け、担当と責任を決めることです。
業務の内訳を整理すれば、経営との会話も「忙しい」「人が足りない」という訴えから、必要な体制と役割を決める議論へ変えられます。情シスの存在意義も、作業量の多さではなく、全社がAIを安全に利用するための判断と設計によって説明できるようになります。
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