グローバルにビジネスを展開する自動車部品メーカーの株式会社デンソー。製品設計を中心としたエンジニアリング業務の効率化を図るため、多種多様なシステムがグローバルで活用されている。そうした中で課題として浮上していたのが、日々、国内外の社員から電話やメールで寄せられる、システムに関する問い合わせ対応の迅速化と効率化だった。その解決策として選択されたのが、台湾インツミット社のAIプラットフォーム「SmartRobot」を使用したチャットボットシステムだ。導入に際しては伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)がオンプレミス環境での設計、構築を担当。32ヵ国4万人にのぼる社員のシステム利用に関する問い合わせに対して、時差に関係なくリアルタイムに回答できる仕組みと、問い合わせ業務の大幅な効率化を実現した。
課題と効果
- 課題
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- 国内外からのシステム利用に関する問い合わせに迅速に対応したい
- 問い合わせ業務を自動化し効率化を図りたい
- チャットボットの導入・運用コストを抑制したい
「SmartRobot」AIチャットボットシステムの導入
- 効果
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- 日本語・英語に対応したチャットボットによる迅速な回答を実現
- 問い合わせの約3割が自動化により対応可能になり業務効率化に貢献
- デンソーの要件に対応したライセンス体系の適用でコストを適正化
導入事例インタビューデータ
- 会社名
- 株式会社デンソー
- 本社
- 〒448-8661 愛知県刈谷市昭和町1-1
- 設立
- 1949年12月16日
- URL
- https://www.denso.com/jp/ja/
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株式会社デンソー
基幹システム推進部
技術情報システム室 開発1課
課長原田 直和氏
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株式会社デンソー
基幹システム推進部
技術情報システム室 (2020年12月時点)伊藤 大廣氏
グローバルで利用される社内システムの問い合わせ対応の迅速化と効率化が課題に
自動車部品製造大手であり、世界中の自動車メーカーに様々や機器や部品を提供するデンソー。近年では、「電動化」「自動運転」「コネクティッド」「非自動車事業(FA/農業)」の4つを注力分野に定め、グローバルにビジネスを展開している。
2017年には、設計から生産準備までの開発業務プロセス改革のデジタル化を加速させるためEDT(Engineering Digital Transformation)推進部を設置し、モノづくりのデジタル革新を推し進めてきた。そうした中で課題として浮上していたのが、世界32ヵ国4万人の社員が製品設計などのエンジニアリング業務で利用する、各種システムに関する問い合わせ対応の迅速化と効率化だった。
当時、EDT推進部 技術情報システム室 開発1課で課長を務めていた原田 直和氏は、「技術部品表やプロジェクト管理ツール、さらにはこれらの利用申請システムなど、様々な共通システムが世界各国のグループ会社で活用されています。その利用に際して、日々、国内外の社員から多くの問い合わせが寄せられていました」と説明する。
「そうした問い合わせにはメールや電話による対応を行っていましたが、海外からの問い合わせは就業時間の時差により、リアルタイムな回答が困難だったのです」(原田氏)
同じく当時、技術情報システム室に在籍していた伊藤 大廣氏も、「複数の人から同じ問い合わせを受けたり、FAQやマニュアルに回答が記載されている質問が寄せられたりすることもしばしばでした」と話す。
一方、現場からは「24時間365日サポートして欲しい」という要望も上げられていたが、費用対効果の面で難しく、一部のシステムに関しては、海外拠点の担当者が問い合わせに対応していた。とはいえ、日本ほど社員が多くない海外拠点では、サポートに充てられる人員も限られてしまう。また、業務システムが増えるたびにサポート教育が必要だったことや、担当者の退職に伴うサポートレベルの低下といった属人化の解消も課題だった。
CTCが国内販売を手掛けるAIチャットボット「SmartRobot」を導入
これらの課題を解決したのが、CTCが提案した、台湾のインツミットのAIプラットフォーム「SmartRobot」を活用したチャットボットシステムだ。SmartRobotは音声認識や音声対話、自然言語分析・知識検索などを統合した対話型AIサービスのプラットフォームで、台湾の金融サービス企業で採用されている顧客サポート向けチャットボットシステムの80%のシェアを獲得している。
原田氏は「課題解決の手段にチャットボットの導入の検討していたところ、2019年にCTCの年次イベント『CTC Forum』でSmartRobotを知り、すぐに提案を依頼しました。導入の決め手は、日本語・英語に対応していたこと、クラウド版以外にもオンプレミス版が用意されているなど選択肢の幅が広いこと、そして、CTCが当社の要望に合致したライセンス体系を提示してくれたことです」と語る。基本的にSmartRobotは、チャットボットシステムを構築するごとにライセンス料金が発生する。しかし、「コストを抑えながら複数のチャットボットシステムを構築したい」というデンソーの要望に応えるため、今回、CTCは、QA数に上限を設けつつ同一言語内であれば1ライセンスで複数のチャットボットを設置できるという新しいライセンス体系を提供している。
問い合わせ対応の約6割が自動化 OA系システムでの活用も推進
デンソーはCTCの協力のもと、2020年1月からSmartRobotのクラウド環境にてPoC(Proof of Concept)に着手する。正答率80%をベンチマークに設定し約2ヵ月の検証を実施した結果、想定していた以上の正答率を実現できたことや操作性を評価し、本採用を決定。CTCの支援のもと急ピッチでオンプレミス環境の導入作業が進められ、2020年4月の本番運用に漕ぎつけることができた。
現在、SmartRobotを使用したチャットボットは、その利用シーンを多方面に広げている。「当初は利用申請システムやプロジェクト管理ツールから利用を開始しましたが、利便性を評価し、他のエンジニアリング業務で利用するシステムにも適用していきました。最近ではOA系システムの問い合わせ業務にも活用しており、現在、11システムでチャットボットが活用されています」と原田氏は説明する。なお、新システムの立ち上げ時には、同時にチャットボットも稼働させるようにしている。2021年1月の1ヵ月間の実績では、日本や海外からの問い合わせ約2,500件をチャットボットが受け付けているという。
SmartRobotのチャットボットが提供する機能の中でも、特に評価しているのが「サジェスト機能」だ。伊藤氏は、「チャットボットの導入目的には、私たちが用意した回答にいかに早く利用者を導くかということもありました。サジェスト機能は、問い合わせたい内容の入力途中で質問項目を表示し質問内容を絞り込んでくれるので、利用者が回答に辿り着くまでの手間と時間が抑制されています」と説明する。
SmartRobotの導入効果について原田氏は、「国内外からの問い合わせに対して、時差に関係なく24時間365日リアルタイムで回答できるようになりました。問い合わせのうち、チャットボットで対応可能な一般的な問い合わせは6割で、その他4割はチャットボットでは対応が難しい問い合わせになります。現在、一般的な問い合わせの約半分が自動的に回答されるなど業務の効率化が図れています。最終的にはQ&Aや言い回しの追加などを強化し、一般的な問い合わせの全てを自動回答させることを目標にしています」と説明する。新システムの立ち上げ時にも、海外拠点に窓口を設置して担当者を増員したり、教育を行ったりするという負担もなくなったという。
今回のプロジェクトを振り返り伊藤氏は、「この間の新型コロナウイルス感染拡大防止に伴い、現地作業が困難な中、リモートから導入作業にあたってくれたり、問い合わせにも迅速に回答してくれたりするなど、CTCには手厚い対応をいただきました。タイトなスケジュールの中、無事、本番稼働を期日までに間に合わせられ、とても感謝しています」と評価する。
最後に原田氏は、今後のSmartRobotの展開について次のように意欲を語った。「エンジニアリング業務のシステムだけでなく、事務系のシステム領域にもSmartRobotの利用をさらに拡大させていく計画です。そして、CTCには引き続き手厚いサポートを期待しています」