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クラウドHPCプラットフォーム「Rescale ScaleX®」上でオープンソースソフトウェアFreeFEMを実装

  • Rescale ScaleX®プラットフォーム

デンソー 熱交換器開発部とソルボンヌ大学FreeFEM開発チームが共同開発を実施し産業用途を拓く

株式会社デンソー(以下、デンソー)の熱交換器開発部では、開発の効率化を図るためにシミュレーションの活用に取り組んでいる。シミュレーションの基盤には、計算資源の確保と運用負荷の軽減、数回のクリックで利用できる使いやすさなどを高く評価し、クラウドHPCサービス「Rescale HPC Platform ScaleX(以下、Rescale ScaleX®)」を採用。さらに、同部は大阪大学サイバーメディアセンターの鈴木厚氏、有限要素法のオープンソースソフトウェアFreeFEM開発チーム、Rescale社と共同開発を行い、Rescale ScaleX®上にFreeFEMを実装した。同部では、シミュレーションの活用により試作回数の大幅な軽減を実現し、コスト削減と開発期間の短縮に貢献。同部による「Rescale ScaleX® × FreeFEM」の取り組みは、FreeFEMの産業用途への道を拓いた。

課題と効果

課題
  • シミュレーションの活用において、計算資源の確保と運用負荷の軽減が課題となっていた。
  • 有限要素法のオープンソースソフトウェアFreeFEMを、Rescale ScaleX®上で簡単に利用したかった。
  • 全社が掲げる開発期間の半減に対する貢献が求められていた。
効果
  • クラウドHPCサービスにより、必要なときに必要な計算リソースの利用が可能になるとともに、運用負荷の大幅な軽減も図れた。
  • Rescale ScaleX® 上にFreeFEMを実装し使いやすさが向上、ライセンス費を意識することなく利用可能になった。
  • 試作回数を大幅に減らすことで、コスト削減と開発期間の短縮を図ることができた。

導入事例インタビューデータ

会社名
株式会社デンソー
所在地
〒448-8661 愛知県刈谷市昭和町1-1
創業
1949年12月16日
資本金
1,875億円
代表者
代表取締役社長 有馬 浩二
従業員数
連結 168,391人、単独 46,272人
URL
https://www.denso.com/jp/新しいウィンドウで開く
  • 株式会社デンソー 熱交換器開発部 熱要素技術開発室 担当課長 小川 洋 氏

    株式会社デンソー

    熱交換器開発部
    熱要素技術開発室
    担当課長

    小川 洋 氏

導入背景

シミュレーションの活用では計算資源の確保と運用管理が課題に

自動車部品メーカーとして、世界35の国とエリアを拠点にグローバルで事業を展開するデンソー。「2030年デンソーグループ長期方針」のスローガン「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい。」を実現するべく、電動化、先進安全/自動運転、コネクテッドの3分野に注力し、新しいモビリティの価値を提供するとともに、非車載事業としてFA(ファクトリーオートメーション)やセンシング技術を活用したスマート農業にも取り組んでいる。

100年に一度の大変革期を迎えた自動車産業。デンソーにおける主力事業の1つであるサーマルシステム事業においても、電気自動車や自動運転のニーズに応える新たな取り組みが進められている。従来のサーマルシステムとの違いについて、デンソー 熱交換器開発部 熱要素技術開発室 小川洋氏はこう話す。

図1.エアコンシステム

「従来のガソリン車ではエンジンという熱源を車内の暖房に利用していました。電気自動車の場合、バッテリーの電力を暖房に利用すると、走行時の電力消費率(電費)に影響します。また、バッテリーには最適動作温度があり、温度によって性能や寿命が左右されます。一方、自動運転では、膨大な数のセンサーを制御するコンピュータの発熱が課題です。当社では、ヒートポンプによる空気や様々な機器で発生する熱を有効活用した電費向上技術や、バッテリーの温度を精密制御する技術等を開発しています」

電気自動車におけるサーマルシステムの製品開発では、これまでとは異なる技術や手法が求められる。新たなアプローチを行う上で、様々な角度からの検討は欠かせない。試作による手作業のチェックでは限界があることから、開発効率を高めるためにシミュレーションの重要性は一層高まる。サーマルシステムの主要部品であるラジエータ等の熱交換器製品を開発する熱交換器開発部において、シミュレーション手法の開発や、ツール化・普及活動を担う小川氏はシミュレーションの活用に向けた課題について話す。

図2.熱交換器

「当初は、スタンドアロンのワークステーションを用いてシミュレーション手法を開発し、製品開発に適用できるツールにまとめたいと考えていました。問題となったのは、計算資源の確保でした。パラメータを少しずつ変更しながら最適解を導き出すためには、同時並行で計算処理を行うことが必要となるからです。また、開発期間中に計算処理が集中する使い方では、サーバを導入した場合の費用と稼働率も課題でした。さらにITの専門家ではない私には、サーバの運用・保守に関する経験も知見もありません」

シミュレーション活用の課題解決に向けて道筋も見えない中、2017年7月に小川氏は有限要素法(FEM)ベースのシミュレーションソフトウェアのセミナーにおいて光明を見出したという。同セミナーで紹介していたクラウドHPCサービスRescale HPC Platform ScaleX® (以下、Rescale ScaleX®)は、「まさに求めていたもの」だった。

導入のポイント

数回クリックするだけでHPCを利用できる使いやすさに驚き

「同セミナーにおいて、シミュレーションソフトウェアの計算処理を Rescale ScaleX®で行う際に、数回クリックするだけで利用できる使いやすさには驚きました。また、クラウドHPCサービスを利用することで、計算資源の確保やサーバの運用負荷の課題も解決できます。さらに、Webベースで操作できるため、別途利用者のインフラを準備する必要もなく、海外拠点も含めオンデマンドで計算資源を利用することも可能です。Rescale ScaleX® なら理想とするシミュレーション環境を構築できると思いました」(小川氏)

Rescale ScaleX®以外にも、社内で利用実績のある計算科学振興財団スーパーコンピュータFOCUSも検討したと小川氏は話す。「FOCUSは、産業用に共同利用するスーパーコンピュータです。計算リソースに限りがあるため、予約で埋まってしまうケースが発生します。設計者が必要なときに必要とする計算リソースを利用できる点を高く評価し、Rescale ScaleX®を選択しました」

2017年9月に、熱交換器開発部はRescale ScaleX®の採用に関する社内申請を行い、セキュリティチェックと社内決裁に1か月、ソフトウェアのライセンスサーバをRescale ScaleX®に立ち上げる準備に1か月を要したという。「自動車業界団体においてクラウドサービスを利用する際のガイドラインに適用しているかどうか、Rescale ScaleX®を取り扱っているCTCを通じて調査し書類を作成しました。またセキュリティ強化の観点から、CTCに依頼してRescale ScaleX®にライセンスサーバを構築してもらいました。社内ネットワークを経由することなく、国内はもとより海外拠点からRescale ScaleX®にアクセスし利用できるようにするためです」(小川氏)

熱交換器開発部では、設計者に対してRescale ScaleX®に関する教育を1時間程度実施、海外メンバーはオンラインで参加した。「Webブラウザで簡単に操作できるため、一度習得することで、みなさん問題なく利用しています」(小川氏)

導入のプロセス

Rescale ScaleX®上にネイティブのFreeFEMを実装

Rescale ScaleX®を基盤とする大規模シミュレーションの開発とツール化の取り組みは3年かけて行われた。その道のりは決して平坦ではなかったと小川氏は振り返る。

2018年に、サービス利用を開始した当初は、既存のシミュレーションソフトウェアと、設計者がアクセスし簡単に計算資源が使える同ソフトウェアのコラボレーションツールを利用。「既存シミュレーションソフトウェアでは並列計算のジョブ数に制限があることに加え、コラボレーションツールを利用する際には計算資源の常時確保も必要でした。また、商用ライセンスのためコストも課題となりました」(小川氏)

図3.解析部位イメージ

2019年に、大規模並列計算とオープンソースライセンスの利用をテーマに改善に着手。熱交換器開発部は、大阪大学サイバーメディアセンターの鈴木厚氏との共同研究で、有限要素法のオープンソースソフトウェアFreeFEMによるシミュレーションの実装に取り組んだ。「FreeFEMの開発・保守を行っているのは、ソルボンヌ大学(旧パリ第6大学)のJ.-L. Lions研究所です。鈴木先生は、J.-L. Lions研究所の元研究員で、FreeFEMを熟知されています」(小川氏)

FreeFEMを使ってRescale ScaleX®で計算処理を行うために、環境づくりが大変だったと小川氏は話す。「オープンソースソフトウェアは、様々な人が作ったソフトウェアを組み合わせて1つのソフトウェアにします。オープンソースソフトウェア群を正しくインストールするには高度なスキルが必要となり、設計者にとっては敷居が高いです。そこで、OSやソフトウェア群、インストールの手順などを1つにまとめて、環境ごと計算機に展開するRescale ScaleX®のSingularityコンテナを使って展開しました。しかしコンテナの利用は、ソフトウェアのバージョンアップに伴うメンテナンスに多くの手間を要することに加え、計算速度も低下しました」

2020年に、「FreeFEM×Rescale ScaleX®」の取り組みは、J.-L. Lions研究所との共同開発という大きなターニングポイントを迎えた。誰もがFreeFEMを簡単に利用できる環境の実現では、Rescale ScaleX®上にネイティブのFreeFEMを実装するのが理想だ。「計算機のプロが利用するFreeFEMに関して、産業領域への応用を検討していたFreeFEM開発チームと、Rescale ScaleX®上にFreeFEMを実装したいという当社と、両者の思いがタイミングよく一致したことで共同開発がスタートしました。鈴木先生のご指導のもとFreeFEM開発チームメンバーのF. Hecht教授、P. Jolivet博士のご協力を得て、Rescale社に尽力いただくことで実現できました」

使いやすさの観点では、FreeFEMが文字ベースのインターフェース(CUI)である点も課題となった。「FreeFEM向けに直感的に操作できるGUIツール「TANATLOC」をFreeFEM開発チームメンバーであるフランスのAirthium社と共同開発しました。現在、熱交換器開発部ではβ版を利用しています。2022年度中には正式版がAirthium社から公開される予定です」

図4.FreeFEM概要

図5.GUIツール

導入効果と今後の展望

試作回数を大幅に軽減しコスト削減と開発期間の短縮に貢献

熱交換器開発部において、Rescale ScaleX®上にFreeFEMを実装した環境を利用して1年が経過した。導入効果について小川氏は「海外拠点を含む設計担当者が計算投入先を意識することなく、自身のPCからRescale ScaleX®の計算リソースを使ってFreeFEMによるシミュレーションを行っています。またFreeFEM向けのGUIツールにより、利用者は5分程度で計算条件を設定し計算投入できるようになり大変好評です」と話し、事業への貢献に言及する。

図6.設計ワークフロー 改善効果

「熱交換器の開発において、シミュレーションにより試作回数を大幅に減らすことができました。コスト削減や開発期間の短縮につながっており、全社が掲げる開発工数の半減にも貢献しています。また仮説を思いついたら、すぐにシミュレーションにより確認することでアイデアも広がります。今後も、正しい結果を導き出すために必要となる良品条件を、シミュレーションで見つけ出すツールなど、開発を支援する生産技術ツールを開発し提供していきたいと思います」

小川氏はCTCのサポートを高く評価する。「ITの専門家ではない私をきめ細かくサポートしていただき、非常に助かっています。問い合わせや質問に対するレスポンスも早く、Rescale社と一体となった支援体制には大きな安心と信頼を寄せています」

熱交換器開発部におけるRescale ScaleX®の活用による成果を受けて、同社は社内オンプレミスHPCとRescale ScaleX®を組み合わせて、より効率的に計算資源を活用する取り組みを進めている。社内オンプレミスHPCをコンパクトにし、開発が集中する時期などにシームレスにRescale ScaleX®を利用可能にすることで、計算環境全体の最適化を図る。「Rescale ScaleX®上で利用できる当社保有のソフトウェアライセンスが増えると、Rescale ScaleX®の活用シーンが広がり、設計者の利便性と効率性の向上につながります」

CTCはRescale社と連携し、Rescale ScaleX®で利用できるソフトウェアライセンスの拡大に注力し導入企業のニーズに応えるとともに、産業の発展に貢献していく。

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