「世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループ」を目指し、持続的な成長と発展に向けて、ESG戦略や事業構造改革、財務基盤の再構築などを推し進める日本航空株式会社(以下、JAL)。同社では、データ活用の高度化を目指し、長年にわたって運用してきたオンプレミスのデータ活用基盤のクラウド化を実施した。その基盤としてクラウド型データウェアハウス「Snowflake」を採用。伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)の手厚い伴走支援により、短期間でのクラウド移行を実現することができた。
課題と効果
課題
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- 業務システムのクラウド化の流れを汲んだデータ連携の簡易化
- 分析ニーズの多様化・高度化に適した柔軟な分析プラットフォームの実現
効果
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- クラウド型データウェアハウス「Snowflake」採用による社内システムとの柔軟な連携の実現
- ライセンス料やハードウェアの保守費用を含め、最大で60%のコスト削減を達成
- 機密情報を秘匿しながらも柔軟な外部とのデータ連携が可能な基盤を構築
導入事例インタビューデータ
- 会社名
- 日本航空株式会社
- 所在地
- 東京都品川区東品川二丁目4番11号 野村不動産天王洲ビル
- 設立
- 1951年8月1日
- URL
- https://www.jal.com/ja/
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日本航空株式会社
デジタルテクノロジー本部
運営企画部
デジタル活用推進グループ田村 哲史氏
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株式会社JALインフォテック
ビジネスイノベーション事業本部
サービスデリバリー事業部
プロジェクト推進第1部
第3グループ中俣 大輝氏
持続的な事業の成長と発展を目指しDXを推進、その一環としてデータ活用基盤の刷新に踏み出す
1951年の設立以来、日本と世界をつなぐ翼として快適な空の旅と航空輸送を担い続けてきたJAL。『安全・安心な社会を創ること』と『サステナブルな未来を創ること』を柱とする「JAL Vision 2030」を掲げ、「世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループ」となることを目指している。
その実現に向けて策定されたのが、「2021-2025 年度JAL グループ中期経営計画」だ。
「ESG戦略」を最上位戦略として位置づけ、その他に「事業戦略」「財務戦略」を経営戦略の柱に据え、グローバルな環境の変化に適応し、JALグループ一丸となって持続的な成長・発展に取り組んでいる。
中でも事業戦略の重点施策として定められているのが「DX推進」だ。JALグループは、顧客に安全・安心な移動と新たな体験を提供するため、デジタル技術を活用した様々な施策を積極的に推進している。
今回、その一環として行われたのが、データ活用基盤の刷新だった。これまでJALでは、12年以上にわたり、オンプレミスのデータウェアハウス(DWH)を利用したデータ活用基盤を運用してきた。そうした中で、数々の課題が浮上していたという。
デジタルテクノロジー本部 運営企画部 デジタル活用推進グループの田村哲史氏は、「従来の旅客サービス以外の事業強化をはじめ、顧客体験価値、および社員体験価値のさらなる向上といった近年の変化に対応するためには、より高度で柔軟なデータの活用を可能とする仕組みが不可欠です。しかし、オンプレミスのデータ活用基盤では、そうしたニーズへの対応が困難でした」と語る。
また、長年にわたる運用の結果、データ活用基盤の総データ量は15.6TB、テーブル数も1154まで増大、運用や定期的なシステム更改に要するコストや負担の削減も喫緊の課題だったという。
JALはこれらの課題解決に向け、データ活用基盤の老朽化対応のための更改が2024年3月に迫っていることを契機にDWHのクラウド化を決断する。クラウド化の狙いには、BCP対策を考慮した耐障害性の強化もあったという。
Snowflakeを採用しDWHをクラウド化、構築のパートナーとしてCTCを選択
DWHのクラウド化に際して、どのような要件が定められたのか。JALインフォテック ビジネスイノベーション事業本部 サービスデリバリー事業部 プロジェクト推進第1部 第3グループの中俣大輝氏は「ハードウェアの運用・更改コスト削減に加え、高い処理性能と、事業環境の変化に対応可能な柔軟なリソースが必須でした。また、社内データだけでなく、外部データとの容易な連携によるデータコラボレーションの実現も要件として掲げました」と説明する。
これらの要件に基づき複数のクラウド型DWHサービスを比較検討した結果、最終的に選択されたのがSnowflakeである。
採用理由について田村氏は、「先に述べた要件を全て満たしていたことに加え、単なるDWHサービスに留まらない、継続的な機能強化と進化により、新たなデータ分析ニーズが生じた際にも対応可能な将来性に共感したことも採用の決め手となりました」と語る。
そして、JALのSnowflakeを用いたデータ活用基盤の刷新をパートナーとして支援したのが、CTCだ。
CTCをパートナーとして選択した理由について田村氏は、「CTCには、2019年に行われたオンプレミスのDWH環境のマイグレーションをサポートしてもらったのですが、そのプロジェクトを成功に導いた実績を高く評価していました。そうした信頼感に加え、前回の更改プロジェクトを通じて、当社のデータ活用基盤の詳細を熟知していることも、選定のポイントとなりました」と説明する。
また、中俣氏も「前回のプロジェクトを成功させたCTCのスタッフが引き続き今回も担当してくれると提案され、大きな安心感を得られたことも採用を後押ししました」と語る。
CTCの手厚いサポートによりスムーズで確実なデータ移行を実現
2023年3月からSnowflakeの導入プロジェクトがスタート。CTC の伴走支援のもと、プロジェクトは円滑に進み、2024年1月には無事本番運用に漕ぎつけることができた。
今回、効率的かつ確実にデータをオンプレミスのDWHからSnowflakeに移行するため、CTCは移行ツールを開発。中俣氏は「オンプレミスのDWH環境からデータを抽出した後、一旦中継サーバにロードしてデータを蓄積、その後、Snowflakeにデータを投入する、という流れで移行作業を進めていきました。これらの一連の移行作業を行うためのツールをCTCに開発してもらえました。また、データ移行が正しく行われたのか、テーブルの件数やデータの内容についても移行前後を比較、検証するツールをCTCは作成してくれました。これらの手厚いサポートにより、移行作業を効率的かつ短期間で行うことができ、結果、スケジュール通りにプロジェクトを進められました」と、評価する。
「このほかにも、CTCのSnowflakeに関する高度な知見に基づくアドバイスには、様々な場面で助けられたと思っています。例えば、データベースの権限設定の考え方など、従来のオンプレミスのDWHとSnowflakeでは大きく異なります。この問題については、CTCから、オンプレミスのDWHで運用していたのと同様の権限設定を、Snowflake上でどのように実現していけばよいのか、的確なアドバイスを受けられたことで解決することができました」(中俣氏)
図版:マイグレーション結果

Snowflakeへの移行により最大60%のコスト削減、社内データの統合も進め、データの民主化を加速
Snowflakeを中軸とした新データ活用基盤では、主に「顧客属性」「予約情報」「搭乗実績」「運航情報」 などを管理している。また、同基盤は、グループ会社であるJALカードも活用しており、「会員属性」「カード利用履歴」「マイル提携企業」 などの情報を格納している。機微な情報も含まれるため、ユーザー、端末、ネットワークに応じてアクセスコントロールをしているが、これらの情報にアクセスしBIツールなどを用いて分析を行っているユーザー数はJALグループ全体で4000人以上に達する。
Snowflakeの導入による効果の1つが、コスト削減だ。田村氏は「オンプレミス環境と比較して、これまでと同等の処理性能を維持しながらも、ライセンス利用料やシステムの保守運用費などを合わせて最大60%のコスト削減を実現しています」と語る。
また中俣氏も、「ハードウェア保守が不要になったほか、パフォーマンスチューニングなどの複雑な設定もSnowflakeでは容易になったため、システム担当者は運用にかかる負担から解放されています。その結果、よりビジネスに貢献するシステム環境の企画・立案などに労力や時間を充てられるようになっています」と評価する。
「このほか、外部データとの連携については社外データの活用だけでなく、今後、他事業者様とのビジネス上のコラボレーションを目的として、当社が保有するデータを提供するケースも想定されます。そうした場合でもSnowflakeの『Data Clean Room』を活用することで、機密データは完全に秘匿化しつつ、互いのデータを連携、分析に利用するといった取り組みも可能になると考えています」(田村氏)
CTCのサポートのもと、Snowflakeの導入により、データ活用基盤のクラウド移行を実現したJALグループ。現在では、社内に散在しているデータ群を統合し、社員が活用可能とするため、Snowflakeの上流に位置するデータレイクおよびデータカタログの整備が行われている。
田村氏は「これにより、共通のプラットフォーム上に蓄積されたデータを部門横断的に活用できるような仕組みを実現し、データの民主化を図っていきたいと考えています。そして、引き続きCTCには、技術とサポートの両面からJALグループのデータ活用を加速させるような支援を期待しています」と語った。
