事例

花王株式会社 様

更新

花王のサステナビリティ経営を支えるデータプラットフォームプロジェクト――成功のカギとなったCTCの総合力

人々の生活に寄り添う製品をグローバルで提供する花王株式会社。同社は今、サステナビリティを経営の中核に据えた取り組みを全社的に推進している。その中心となるのが、世界規模で展開する「ESGデータプラットフォームプロジェクト」だ。

世界各地の花王拠点に点在するESG関連データを、クラウド技術で統合し、経営の意思決定をより確かなものにする。この壮大なプロジェクトを支援したのが、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)である。複雑に入り組んだデータプラットフォームの構造を、どのように実装へと導いたのか。実現までの道のりを担当者の声と共に紐解く。

飯島 健一郎氏、有永 理紗氏

右から花王株式会社 デジタル戦略部門 情報システムセンター エンタープライズビジネスエクセレンス部 PLMグループ 部長 飯島 健一郎氏、有永 理紗氏

膨大なデータを繋ぎ合わせる「職人芸」からの脱却

花王は「未来のいのちを守る~Sustainability as the only path」をビジョンに掲げ、原材料調達から製造、使用、廃棄まで、製品のライフサイクル全体を対象に環境負荷低減に取り組むESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を2019年より推進している。

同社のESG戦略においては、「脱炭素」「ごみゼロ」「責任ある化学物質管理」といった、19の重点テーマに関して目標値が設定され、2030年に向けた進捗がサステナビリティレポートにて報告されている。花王が目指すのは、全社で推進するデータドリブン経営を基盤に、ESG領域も含めて経営全体を高度化・変革していくことである。

しかし、データ環境は複雑を極めていた。

現在、プラスチック製容器を世界中で何トン使用しているのか?容器のリサイクル率はどれくらいか? 特定の化学物質を使っている製品は何で、どれだけ販売されているか?──

「こうした情報を調べるには、世界中の花王拠点に点在する研究・生産・売上情報データを正しく繋ぎ合わせる『職人芸』が必要でした」と、飯島健一郎氏(花王 デジタル戦略部門 情報システムセンター エンタープライズビジネスエクセレンス部 PLMグループ 部長)は語る。

飯島 健一郎氏

花王株式会社 デジタル戦略部門 情報システムセンター エンタープライズビジネスエクセレンス部 PLMグループ 部長 飯島 健一郎氏

さらに、世界的にESG関連情報の法規制が相次いで強まる中、企業にはこれまで以上により精緻で素早い対応が求められている。欧州グリーンディールやプラスチック税への対応はもとより、日本においても有価証券報告書にサステナビリティ情報の開示が義務化された。これまで通り手作業でデータを突き合わせる運用では、正確・迅速な対応は難しかった。

こうした状況を打破し、花王が掲げる「徹底した透明性」を実現すべく、2022年、自社製品にまつわる材料、処方、売上など法令に関わる環境情報を一元的に管理する「ESGデータプラットフォームプロジェクト」が本格始動した。グローバル規模でのデータ統合を進めると共に、製品の成分情報を検索できるアプリケーションの開発を進めることで、ESG情報の可視化・活用を通じた経営判断の高度化を実現することを目指した。

既存システムを変えず、データを活かすプロジェクト

ESGデータプラットフォームプロジェクトの要諦は、既存の業務システムを作り変えるのではなく、「活かす」ことにある。世界中の花王拠点で使用されている基幹システムを作り変えるには、莫大なコストと時間がかかる。そこで、花王はMicrosoft Azure上に巨大なデータの受け皿(データレイク)を構築し、各システムからデータを吸い上げるというアプローチを採用した。

ESGデータプラットフォームプロジェクトの全体像

ESGデータプラットフォームプロジェクトの全体像

しかし、化学物質や容器包装、製品の変更履歴など、膨大なデータを保有する花王にとって、実行は容易ではなかった。ESG関連情報は仕様や算出方法が確定していない項目も多く、何をどこまで測るのか、切り分けていく必要もあった。全ての情報を緻密な粒度で算出することは理想だが、短期的に実現することは難しい。限られた期間の中で、どの範囲まで踏み込むべきかを見極めることから行った。

さらに、日本・欧米・アジア・中東・アフリカといったグローバルな規模で、部門横断的な連携や調整も求められた。

「我々が必要としていたのは、単なるシステム開発ベンダーではありません。複雑な業務要件を整理するコンサルティング能力と、それをクラウド上で実装する技術力。その両輪が必要だったのです」(飯島氏)

ESGに関する専門知識が前提となる上、多言語でのコミュニケーションやドキュメントも作成できなければならない。この複雑かつ大規模なプロジェクトのパートナーに選ばれたのは、CTCだった。CTCは、コンサルティング会社のシグマクシスと共に、上流の構想策定や業務要件の整理、全体PMO、データ基盤の設計・構築と実装を行った。

密に連携したプロジェクト体制ができたことで、プロジェクトは大きく加速した。本プロジェクトでは、統合したデータを使って製品情報を検索・集計するアプリケーション開発も進められたが、アプリの開発担当メンバーである花王 デジタル戦略部門 情報システムセンターの有永 理紗氏は、CTCとの協働を次のように振り返る。

「ひとことでデータと言っても、容器や配合といった研究系のデータから、製品マスタ、購買データ、売上データなど、その種類は多岐にわたります。売上データ1つとっても、日本と欧米ではレイアウトも違えば、社内品目のコード体系も全く異なります。これらを正しくマッピングし、変換するには、単なるITスキルだけでなく、我々の広範な業務知識を深く理解してもらう必要がありました」(有永氏)

有永 理紗氏

花王株式会社 デジタル戦略部門 情報システムセンター エンタープライズビジネスエクセレンス部 PLMグループ 有永 理紗氏

背景として、有永氏は花王社内におけるシステム環境にも触れ、

「既に社内ではグローバルにSAPが導入され、システム基盤や業務プロセスは概ね標準化されています。一方で、運用上の利便性向上や将来の完全統合を見据え、バージョンアップに合わせて一部マスターデータの表現や粒度を順次調整している段階です。そのため、国・地域ごとにコード体系の運用差が一部残っているのが実情となっています。CTCには、こうした複雑な状況を理解していただいた上で、将来の完全統一を見据えた擦り合わせができたことは、大いに助けていただきました」とCTCの臨機応変な対応を高く評価した。

対話を積み重ねて実現した、短期間でのアプリリリース

アプリの開発中に懸念されたのが、システムのパフォーマンスだ。データレイクには膨大なデータが蓄積されるため、そのまま分析ツールで集計しようとすると処理に時間がかかりすぎてしまう。

そこでCTCは、Azure Data Factoryでのデータ処理フローを見直すなど、クラウドの特性を最大限に活かす視点で改善案を提案し、議論を重ねながら1つひとつ丁寧に花王と共に開発を進めていった。

「『苦労を共にしてくれた』という思いでいっぱいです。密な連携と、臨機応変な対応がなければ、短期間でのリリースは難しかったと思います」(有永氏)

2024年7月19日。データレイクを活用したアプリ第1弾となる容器包装分析アプリケーションがリリースされた。花王とCTCは、日々密にコミュニケーションを取りながら、プロジェクトの目的に沿って必要な機能を明確化し、スコープを絞り込んでいった。サステナビリティ経営を着実に実装していくために取り組むべきことは多岐にわたるものの、本プロジェクトでは「いま最も取り組むべき課題」に集中したことで、グローバル規模のデータレイク基盤を構築することができた。

99%の工数削減がもたらした、先手を打つESG情報の可視化

ESGデータプラットフォームと、それに基づくアプリの稼働で、花王の業務は劇的に効率化された。従来、特定の容器包装材の使用状況を調査するには2~3日を要していた。それが容器包装分析アプリの導入により、わずか5分で完了するように。実に99%以上の工数削減である。

また、2024年10月にリリースされた化学物質検索アプリケーションにおいても、同様の成果が出ている。特定の化学物質が製品に含まれているかを調査する作業は、従来の約20分から数十秒へと短縮された。

しかし、真の価値は時間短縮ではない。データが可視化されたことで、業務の質そのものが「守り」から「攻め」へと転換しつつある。

「化学物質検索アプリを使えば、『これから規制がかかりそうな物質』が、自社のどの製品に、どれくらい使われているかを瞬時に把握できます。これまでは一部のスペシャリストしかできなかった調査が、より多くの担当者で扱えるようになり、規制発効前に代替原料を検討するなど、先手を打ったリスク管理が可能になりました」(有永氏)

さらに、サプライヤーからの供給不安が生じた際にも、同等の容器や原料を即座に検索し、調達リスクを最小化するといった副次的な効果も生まれている。

欧州の現地法人では、実際にこれらのシステムを用いてリサイクル率の計算や税務対応が行われており、グローバル経営の現場で不可欠なインフラとなりつつある。

ESG情報の可視化・活用を深化させ、サステナビリティ先進企業を目指す取り組みは続く

ESG情報の可視化・活用を通じた経営判断の高度化に向けた取り組みは現在も進行中だ。化学物質量集計システムをリニューアルしたアプリケーションをCTCが開発し、2025年10月にリリースした。飯島氏は、今後を次のように展望する。

「データレイクを構築して終わりではありません。統合したデータをESGの取り組みにどのように活かしていくかについては、全社全部門を巻き込みながら継続して考えていく必要があります。今回のプロジェクトを通じて、データを上流から下流まで俯瞰して見えるようになったことは、非常に意義深いと思います。今後も、様々なステークホルダーと連携しながら、サステナビリティ先進企業を目指していきます」(飯島氏)

複雑化する社会課題に対し、1社単独で立ち向かうことは難しい。志を同じくするパートナーとの共創こそが、サステナビリティ経営の実効性を高めるための最短距離となるESGデータプラットフォームプロジェクトの躍進は、これからも続いていく。

すみだ事業場

花王は「地域と共に発展する 人と社会と地球にやさしいモノづくり」を目指す(すみだ事業場)

  • このページについてツイッターでツイート(新しいウィンドウで開く)
  • このページをフェイスブックでシェア(新しいウィンドウで開く)

この事例に関するお問い合わせはこちら

※記載内容は掲載当時のものであり、変更されている場合がございます。