生成AIを用いたAWS利用料の簡単計算
投稿日: 2025/08/19
はじめに
こんにちは、高橋です。
みなさん、AWSを使うとき、事前にどれくらい料金がかかるか試算されていると思います。では、普段どんな方法で試算していますか?
簡単なケースなら、AWS公式サイトの料金表をざっと確認するだけで済むこともありますよね。でも、もっと正確な見積もりが必要な場合は、「AWS Pricing Calculator」を使っている方も多いのではないでしょうか。ただ、このツールは入力項目が多く、利用するにはそれなりの時間と労力がかかります。私も仕事柄、月に何度か社内の営業から料金試算の相談を受けることがあり、その対応にかなり時間を取られています。そんな中、生成AIを使ってこの作業を効率化できないかと考えていたところ、7月にAWSから「AWS Pricing MCP Server」がリリースされました。
https://aws.amazon.com/jp/about-aws/whats-new/2025/07/model-context-protocol-server-price-list/
今回は、AWS Pricing MCP Serverの概要と、具体的な利用方法についてご紹介します。
1.AWS Pricing MCP Serverとは?
AWS Pricing MCP Serverは、AIエージェントがリアルタイムでAWSの料金データにアクセスできるMCPサーバです。
そもそもMCP(Model Context Protocol)とは、2024年にAnthropic社が提唱したプロトコルで、生成AIと外部のシステムやデータソースをつなぐための仕組みです。MCPはクライアント-サーバ型の構成を採用しており、ClaudeやChatGPTなどの生成AIを搭載したアプリケーションが、MCPを通じて外部のツールやデータにアクセスし、その情報をもとに応答を生成することができます。
AWS Pricing MCP Serverは、このMCPの仕組みを活用して、AWSの料金情報をリアルタイムで提供する専用サーバとして動作します。これにより、生成AIは最新のAWS料金データを参照しながら、より正確で役立つ回答を返すことが可能になります。
このサーバは、AWS LabsのGitHubリポジトリで公開されていますので、詳しくは以下をご確認ください。
https://github.com/awslabs/mcp/tree/main/src/aws-pricing-mcp-server
なお、AWS Pricing MCP ServerはリアルタイムのAWSの料金を取得しますが、正確な見積もりを行う場合は、AWS Pricing Calculatorを使用してください。
2.Amazon Q Developer for CLIのインストール
AWS Pricing MCP Serverはさまざまな生成AIアプリケーションから利用可能ですが、今回はこれまで説明をしてこなかったAmazon Q Developer for CLIのセットアップをしながら、Amazon Q DeveloperからAWS Pricing MCP Serverを利用するまでの手順をご紹介します。
Amazon Q Developer for CLIはmacOS 、 AppImage、 Ubuntu 、Fedora、Amazon Linux 2023などの Linux 環境でサポートされています。インストールはGUIとCLIから実行する方法がありますが、CLIで利用を想定し、CLIによるインストールを実施します。動作環境はAmazon Linux2023を使用します。
CLI環境で使用する場合は、glibcのバージョンが2.34以降である必要があるので、現在のバージョンを確認します。Amazon Linux2023であれば対応しているようです。
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$ ldd --version
ldd (GNU libc) 2.34
Copyright (C) 2021 Free Software Foundation, Inc.
This is free software; see the source for copying conditions. There is NO
warranty; not even for MERCHANTABILITY or FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE.
Written by Roland McGrath and Ulrich Drepper.
続いて、Amazon Q Developer for CLIのパッケージを下記コマンドでダウンロードします。(こちらはLinux x86-64用のパッケージとなります。)
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$ curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf "https://desktop-release.q.us-east-1.amazonaws.com/latest/q-x86_64-linux.zip" -o "q.zip"
ダウンロードが完了したら、zipファイルを解凍し、インストーラーを実行します。
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$ unzip q.zip
Archive: q.zip
creating: q/
inflating: q/install.sh
inflating: q/README
inflating: q/BUILD-INFO
creating: q/bin/
inflating: q/bin/q
inflating: q/bin/qterm
inflating: q/bin/qchat
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$ ./q/install.sh
✔ Do you want q to modify your shell config (you will have to manually do this otherwise)? · Yes
✔ Select login method · Use for Free with Builder ID
Confirm the following code in the browser
Code: THHL-RVBV
Open this URL: https://view.awsapps.com/start/#/device?user_code=THHL-RVBV
▰▰▰▱▱▱▱ Logging in...
途中で「▰▰▰▱▱▱▱ Logging in...」という表示で停止するので、別途ブラウザを開いて「Open this URL」に記載されたURLにアクセスします。ページが開いたら、AWS Builder IDでのログインが求められるので、アカウント情報を入力してログインします。もしAWS Builder IDを持っていない場合は、このタイミングで作成してください。

CLIインストール画面の「Code:」の値が表示されるので、一致していることを確認し、「確認して続行」をクリックします。

「アクセスを許可」をクリックすれば、認証が完了となりますので、CLIの画面に戻ります。

CLIに戻ると認証が完了していることが確認できますので、これでインストールは完了です。
Open this URL: https://view.awsapps.com/start/#/device?user_code=THHL-RVBV
Device authorized
Logged in successfully
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$
3.AWS Pricing MCP Server への接続
続いて、Amazon Linux 2023上でAmazon Q Developer for CLI からAWS Pricing MCP Server へ接続するための設定を行います。Amazon Q Developer for CLIからAWS Pricing MCP Serverへアクセスするには以下の準備が必要です。
- AWSアカウントを準備し、AWS プライスリストにアクセス可能な権限を保有するユーザーを作成し、Access keyを発行する
- Amazon Linux上で作成したAccess key用のユーザープロファイルを設定する
- uvでpython3.10をインストールする
- MCP クライアント構成ファイルを作成する
AWS プライスリスト用のポリシーのサンプルは以下の通りとなります。
{
"Version": "2012-10-17",
"Statement": [
{
"Sid": "VisualEditor0",
"Effect": "Allow",
"Action": "pricing:*",
"Resource": "*"
}
]
}
ポリシーの作成が完了したら、IAMユーザーを作成し、アクセスキー(Access Key)を発行します。次に、Amazon Linuxの環境に戻り、ユーザープロファイルの設定を行います。設定方法は以下の通りです(ここではプロファイル名をpricelistとしていますが、任意で変更して下さい)。
[ec2-user@ip-192-168-1-179 ~]$ aws configure --profile pricelist
AWS Access Key ID [None]: AKIXXXXXXXXXXXXXXXXX
AWS Secret Access Key [None]: XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
Default region name [None]: ap-northeast-1
Default output format [None]: json
次にuvでpython 3.10をインストールために、下記のコマンドを実行します。
[ec2-user@ip-192-168-1-179 work]$ uv python install 3.10
Installed Python 3.10.18 in 2.27s
+ cpython-3.10.18-linux-x86_64-gnu (python3.10)
最後にMCP クライアント構成ファイルを作成します。構成ファイルは「~/.aws/amazonq/mcp.json」に下記の内容で作成します。
{
"mcpServers": {
"awslabs.aws-pricing-mcp-server": {
"command": "uvx",
"args": [
"awslabs.aws-pricing-mcp-server@latest"
],
"env": {
"FASTMCP_LOG_LEVEL": "ERROR",
"AWS_PROFILE": [プロファイル名] ##(今回はpricelist)
"AWS_REGION": [リージョン名] ##(us-east-1/eu-central-1/ap-south-1から選択)
},
"disabled": false,
"autoApprove": []
}
}
}
設定が完了したらAmazon Q Developer for CLI を起動し(q chatコマンド)、MCPサーバにアクセスできることを確認します。
[ec2-user@ip-192-168-1-179 ~]$ q chat
✓ awslabs.aws-pricing-mcp-server loaded in 3.89 s ←これが出れば成功
4.AWS料金の見積もりを試してみる
最後に、実際の動作を確認してみたいと思います。
今回は、機械学習基盤として NVIDIA GPUを搭載したEC2インスタンス と 共有ストレージ を組み合わせた構成で、見積もりを作成してみます。せっかくなので、まずは東京リージョンで利用可能なEC2インスタンスの情報を教えてもらおうと思います。
> 東京リージョンで使用可能なNVIDIAのGPUを搭載したEC2インスタンスと搭載されているGPUの種類を教えてください。
> 東京リージョン(ap-northeast-1)で利用可能なNVIDIA GPU搭載のEC2インスタンスとGPUの種類を調べてみます。
🛠️ Using tool: get_pricing_service_attributes from mcp server awslabs.aws-pricing-mcp-server
・
・
・
## 東京リージョンで利用可能なNVIDIA GPU搭載EC2インスタンス
### **G5シリーズ(NVIDIA A10G GPU)**
~ **g5.xlarge**: 1 GPU, 24 GB GPU メモリ
~ **g5.2xlarge**: 1 GPU, 24 GB GPU メモリ
・
・
・
### **P5enシリーズ(NVIDIA H200 GPU)**
~ **p5en.48xlarge**: 8 GPU, 141 GB HBM3e メモリ
・
・
・
### **G5gシリーズ(NVIDIA T4G GPU - ARM Graviton2)**
~ **g5g.xlarge**: 1 GPU, 16 GB GPU メモリ
~ **g5g.2xlarge**: 1 GPU, 16 GB GPU メモリ
~ **g5g.4xlarge**: 1 GPU, 16 GB GPU メモリ
~ **g5g.8xlarge**: 1 GPU, 16 GB GPU メモリ
~ **g5g.16xlarge**: 2 GPU, 32 GB GPU メモリ
~ **g5g.metal**: 2 GPU, 32 GB GPU メモリ
## 主要なGPUの種類
1. NVIDIA H200 - 最新の高性能AI/ML GPU(P5enシリーズ)
2. NVIDIA H100 - 高性能AI/ML GPU(P5シリーズ)
3. NVIDIA A100 - 高性能AI/ML GPU(P4d/P4deシリーズ)
4. NVIDIA L40S - 高性能マルチワークロード GPU(G6eシリーズ)
5. NVIDIA A10G - 汎用GPU(G5シリーズ)
6. NVIDIA L4 - 効率的なAI推論GPU(G6/G6f/GR6シリーズ)
7. NVIDIA T4 - 汎用GPU(G4dnシリーズ)
8. NVIDIA V100 - 高性能GPU(P3/P3dnシリーズ)
9. AMD Radeon Pro V520 - AMD GPU(G4adシリーズ)
これらのインスタンスは、機械学習、AI推論、グラフィックスワークロード、科学計算など、様々な用途に使用できます。
長くなりすぎたので、途中省略していますが、インスタンスファミリーは全部で18種類あり、思っていた以上に選択肢が豊富でした。この様に構成を確認しながら見積もりを作成できる点もいいですね。
最後にGPUの種類についても説明があったので、これを参考に今回は最新のNVIDIA H200を搭載した p5en.48xlarge を使って見積もりを行います。入力するプロンプトは以下の通りとしました。
下記の条件で1年間の利用料を算出してください。
### コンピュートノード
・p5en.48xlargeを2台
・OSはubuntu
・内臓ディスクは100GB
・プライベートサブネットに配置し、直接のインターネット接続はなし
### 共有ストレージ
・Lusterファイルシステムを使用
・容量は10TB
・バックアップも取得
結果は下記の通りでした。
> ## 1年間の利用料金算出結果
指定された条件での**年間総費用は約 $1,396,431.36(約1億9,000万円)**となります。
### 詳細な内訳
#### 1. コンピュートノード(p5en.48xlarge × 2台)
~ **時間単価**: $79.12/時間
~ **年間稼働時間**: 8,760時間(24時間 × 365日)
~ **計算**: $79.12 × 2台 × 8,760時間 = $1,386,739.20
#### 2. EBSストレージ(内蔵ディスク100GB × 2台)
~ **単価**: $0.096/GB-月(gp3 SSD)
~ **容量**: 200GB(100GB × 2台)
~ **計算**: $0.096 × 200GB × 12ヶ月 = $230.40
#### 3. FSx for Lustre共有ストレージ(10TB)
~ **単価**: $0.027/GB-月(HDD、12MB/s per TiB)
~ **容量**: 10,240GB(10TB)
~ **計算**: $0.027 × 10,240GB × 12ヶ月 = $3,317.76
#### 4. FSx for Lustreバックアップストレージ(10TB)
~ **単価**: $0.05/GB-月
~ **容量**: 10,240GB(10TB)
~ **計算**: $0.05 × 10,240GB × 12ヶ月 = $6,144.00
### 年間総費用
| コンポーネント | 年間費用 |
|---|---|
| p5en.48xlarge × 2台 | $1,386,739.20 |
| EBS gp3 200GB | $230.40 |
| FSx Lustre 10TB | $3,317.76 |
| FSx バックアップ 10TB | $6,144.00 |
| 合計 | $1,396,431.36 |
### コスト削減の提案
1. リザーブドインスタンス
~ 1年契約: 約40-50万ドルの節約可能
~ 3年契約: 約60-70万ドルの節約可能
2. スポットインスタンス
~ 最大90%の節約可能(可用性に制限あり)
3. FSx Intelligent Tiering
~ アクセス頻度に応じた自動階層化で20-40%の節約可能
4. スケジューリング
~ 24/7稼働が不要な場合、大幅な節約可能
### 注意事項
~ プライベートサブネット配置のため、インターネット接続にはNAT Gatewayが必要(別途費用)
~ データ転送費用は含まれていません
~ 監視・サポート費用は含まれていません
この構成は非常に高性能なGPUクラスターとなりますが、コストも相応に高額になります。用途に応じてインスタンスタイプやストレージ構成の見直しをお勧めします。
ということで、見積もり結果としては $1,396,431.36 という金額が提示されました。
実際に料金があっているかどうかAWSの公式サイトでEC2やFSx for Lustreの料金を確認したところ、同じ時間単価が使われていることがわかり、正確な値をもとに見積もりが作成されていることも確認できました。

また、単なる料金表示だけでなく、リザーブドインスタンスの購入によるコスト削減の方法や具体的な効果、実際の環境では料金が発生するけれど今回の見積もりには含まれていない要素なども記載されていて、上司やお客様との会話にもすぐ使えそうな状態で結果が出力されました。
最後に、実際に見積もりを行う際は「AWS Pricing Calculator」を使うことになると思うので、そのときに使う入力値を教えてもらえないか、聞いてみようと思います。
> AWS Pricing Calculatorで見積もりを作成したいので、AWS Pricing Calculatorに必要な入力値として纏めてください。
> AWS Pricing Calculatorで見積もりを作成するために必要な入力値を整理いたします。
・
・
・
## AWS Pricing Calculator での入力手順
### Step 1: EC2の追加
1. "Add service" → "Amazon EC2"
2. Region: "Asia Pacific (Tokyo)"
3. EC2 Instance specifications:
~ Instance type: p5en.48xlarge
~ Quantity: 2
~ Operating system: Linux/UNIX
~ Tenancy: Shared
4. Utilization:
~ Utilization: 100%
~ Hours per day: 24
~ Days per week: 7
~ Weeks per month: 4.33
### Step 2: EBSの追加
1. "Add service" → "Amazon EBS"
2. Region: "Asia Pacific (Tokyo)"
3. Storage specifications:
~ Volume type: General Purpose SSD (gp3)
~ Storage amount: 200 GB
~ IOPS: 3,000
~ Throughput: 125 MiB/s
### Step 3: FSx for Lustreの追加
1. "Add service" → "Amazon FSx"
2. Region: "Asia Pacific (Tokyo)"
3. File system specifications:
~ File system type: FSx for Lustre
~ Deployment type: Persistent
~ Storage type: HDD
~ Storage capacity: 10,240 GB
~ Throughput capacity: 12 MB/s per TiB
### Step 4: FSx Backupの追加
1. FSxの設定内でバックアップオプションを有効化
2. Backup storage: 10,240 GB
## 予想される月額費用
| サービス | 月額費用(USD) |
|---|---|
| EC2 p5en.48xlarge × 2 | $115,561.60 |
| EBS gp3 200GB | $19.20 |
| FSx Lustre 10TB | $276.48 |
| FSx Backup 10TB | $512.00 |
| 合計 | $116,369.28 |
## 注意事項
1. リージョン選択: 必ず "Asia Pacific (Tokyo)" を選択
2. 通貨: USD表示での計算
3. 税金: 日本の消費税は別途加算される場合があります
4. データ転送: プライベートサブネット内の通信は無料
5. 追加コスト: NAT Gateway、CloudWatch、サポートプランは別途必要に応じて追加
この情報を使用してAWS Pricing Calculatorで正確な見積もりを作成できます。
各ステップに沿って進める中で、EC2の「4. Utilization」で「On-Demand」を選ぶ指示が抜けていたり、OSの表記が少し違っていたり(Linux/UNIX → Linux)、FSx for Lustreで「Data Compression savings」の入力値の指定がなかったりと、細かい部分でいくつか抜けている点はありました。それでも、全体としては指示に従って進めれば、ほとんど迷うことなくスムーズに入力できました。実際の結果は以下の通りです。

一部の条件が抜けていることで多少の料金差はあるものの、AWS Pricing MCP Serverを使って作成した見積もりとほぼ同じ金額になることが確認できました。
5.さいごに
今回は、生成AIにAWSのリアルタイム料金情報を渡せる「AWS Pricing MCP Server」の紹介と、Amazon Q Developerから使うための設定方法、そして実際の使い方についてご紹介しました。
使ってみると、AIと会話しながら構成を決めて見積もりを作っていけるので、自分でAWSのサービスを調べながら「AWS Pricing Calculator」に一つずつ入力していくより、かなり時間を短縮できます。
もちろん、正確な見積もりを出すには「AWS Pricing Calculator」が必要ですが、概算の見積もりを作成したり、Calculatorに入力する前の準備として使うにはとても便利です。AWSの料金試算にかかる手間や時間をグッと減らせるので、ぜひみなさんも試してみてください!
CTCは、AWSのビジネス利活用に向けて、お客様のステージに合わせた幅広い構築・運用支援サービスを提供しています。
経験豊富なエンジニアが、ワンストップかつ柔軟にご支援します。
ぜひ、お気軽にお問い合わせください。