コラム

SEのためのストレージ講座

第7回 ストレージ概論~HDDの進化~

更新

IT基盤のストレージの役割や課題から仮想化・統合化まで、CTCのエンジニアが解説します

著:クロスファンクショングループ プロダクトマーケティング室
インフラソリューション推進部 菅 博

ストレージは広義の意味ではデータを記憶する装置として定義されます。ストレージは内部にデータを記憶する複数のメディアを搭載していますが、特にHDDを搭載したものを単純にストレージと呼ぶことが多いようです。

ストレージも他のIT装置と同様に、高性能・大容量・高信頼を目指して改良が図られてきましたが、ここでは「HDDの進化」、サーバとの「接続方式の多様化」、「データ保護」の技術という三つの観点からストレージを概観します。

HDDとストレージ

図1

図1

HDD(Hard Disk Drive)が使用されるようになってから、すでに50年以上が経過していますが、データを読み書きするための方式は何ら変わっていません。当初は24インチでプラッターは数十枚を搭載しているにも拘わらず、全体容量は5MB程度でした。

HDDは小型化と高速化が進むと同時に、最近では大容量化と低価格化にも注力しています。

HDDも小型化が進み、現在のストレージに挿入されるHDDは3.5インチが主流となっていますが、基本的な構造は後で述べるように変化がありません。ただし、小型化された結果としてHDDはFRU(フィールドで交換可能な部材: Field Replaceable Unit)扱いとなり、手動で簡単に抜き差しが可能な構造になっています。

HDDの構造と属性

図2

図2

HDDの構成要素で理解すべきなのは、プラッターと呼ばれる磁気ディスクとヘッド(またはアーム)の部分で、ディスクが回転、アームはスライドすることで任意のポジションにヘッドの先を移動させてデータの読み書きを行います。電源を投入すると、ディスク部は高速回転(一分間に7,200-15,000回転)を始め、ヘッド部はピボットと呼ばれる付け根の部分を制御することで、ディスクの中心と外周の間を移動します。非常に原始的な構造が今でも使われており、耐久性は他のITコンポーネントと比較するとあまり良い方ではなく、長く使うためには衝撃とほこりは絶対厳禁です。

HDDの属性としては「タイプ(インターフェース規格)」、「容量(MB)」、「回転速度(RPM)」、「転送速度(MB/s)」が一般的ですが、他に「回転待ち時間」とか「シーク時間」といったものもあります。これらはそれぞれ、HDDの回転速度とヘッドの性能に関係しています。図2の絵で、HDDが黄色のポジションにアクセスするには、まずアームが黄色い部分の同心円上にヘッドを移動しなければなりません。この移動に要する時間を「シーク時間」と呼びます。すでにヘッドは同心円上にあるので、あとはディスクが回転して黄色の部分がヘッドに到達するのを待つだけですが、これに要する時間を「回転待ち時間」と呼びます。

HDDの回転数が大きいほど回転待ち時間は小さくてすむ、つまりパフォーマンスが高いことになります。また、I/Oがランダムアクセスになった場合の性能は、シーク時間に大きく依存します。

最後に、HDDのインターフェースについても触れておきます。HDDのインターフェースとしては長い間SCSIが使用されてきましたが、このインターフェースでは種々の限界も見えてきたこともあって、現在では次のようなインターフェースが存在しています。

  • FC (Fiber Channel)
  • SATA (Serial Advanced Technology Attachment)
  • SAS (Serial Attached SCSI)

次の節では、これらのインターフェースについて解説します。

SCSI

図3

SCSIはコンピュータのハードディスク・インターフェースとして最も一般的なものでした。開発当初はバス幅が8ビットで転送速度が5MB/S程度でしたが、どんどん改良が加えられた結果、最終的には16ビットで320MB/Sまで性能向上が図られました。高速転送のためにパラレル転送(複数の信号線を使い、データを同時並列に流す)方式を採用していたことが逆に近年では制限となり、現在の主流はシリアル転送(本の信号線に連続してデータを流す)のインターフェースへと移っています。

パラレル転送の場合にはデータを分割して同時並列で流すために、データの受け手側でデータをまとめて整列する作業が必要になります。この仕組みの欠点として容易に想像できるのは、転送距離が長くなったときには同時転送されたビットがほぼ同時に届くことが困難になることや、エラーが起きた場合の処置が煩雑になるということです。このため、SCSIインターフェースによって接続された装置の両端は、25m以内という制限がありました。距離の問題に加えて、SCSIではサポートできるデバイス数の制限や速度の限界が見えてきたため、それを補うようにしてFibre Channelが開発されました。

ファイバーチャネル

図4

シリアル転送でも十分な高速通信が出来るようになると、データ転送の方式はシリアル転送が主流となってきます。HDDのインターフェースも、SCSIに替わってシリアル転送方式を採用したFibre Channelが登場しました。信号線にはファイバー(Fiber)を使いますが、敢えてスペルがFibre(eとrが逆転)となっているのはFCが物理層からプロトコル層までの全てを含んでいる事を強調するためで、単にファイバー(Fiber)を使ったデータ転送と誤解されないためと言われています。

FC自体はSCSIの拡張として開発されたわけではなく、次の図からも判るようにサポートされるプロトコルは多岐に渡っています。HDDのインターフェースがFCを採用したことにより、転送速度(4Gbps)や装置間の最大接続距離(100Km以上)が大幅に改善されただけでなく、サーバとストレージの接続形態が非常に柔軟になり、接続可能なデバイスの数も大幅に増えました。FCについては後述する「FC-SAN」の項目でさらに詳しく説明します。

SATA(Serial Advanced Technology Attachment)

SATAはSerial ATAの略語で、従来のATAディスクをシリアル化したものです。更にATAはIDEディスクを前身としているので、順を追って説明します。

SCSIディスクが比較的高価であることから、価格帯の低いPCに搭載するのが割に合わないために、信頼性と速度よりも価格と容量を優先させたのがIDEインターフェースです。これが後に1989年にANSIによって標準化されたものがATAと呼ばれるものです。ATAは当初の予定通りにPCの内臓ディスクとして使用されていましたが、速度や容量が改善されるにつれて、ストレージの内臓HDDとして十分に使用可能なレベルに達し、主にバックアップ用途で使われるようになりました。

IDEやATAはパラレル方式を使っていましたが、FCに代表されるようにHDDのインターフェースはシリアル方式が一般的となったことから、上位のプロトコルレベルでは互換性を持たせてATAのシリアル化を図ったものがSATAディスクです。価格と容量を優先させたい領域にはSATAを使うことにより、ストレージシステムの全体コストを抑えることができるようになります。

SAS(Serial Attached SCSI)

従来のSCSIディスクはパラレルインターフェースを使用していたために、すでに転送速度の限界が見えていました。SASは名前が示すとおりに、SCSIドライブをシリアル接続可能にしたもので、2001年にはHP、IBM、Seagateなどによって設計が始まり、近年になってやっと製品化されました。コマンドセットはこれまでのパラレルSCSIと同様のものを利用し、フレームフォーマットはFibre Channel、物理特性はSATAのそれを継承することにより、既存インターフェースであるFC, SATAとの親和性を高めています。

ストレージベンダーの中には、すでにSASを標準サポートしている製品も出始めており、IT管理者にとっては、何種類かのディスクを用途に応じて使い分けることが可能となっています。

FC, SAS, SATAの使い分け

図5

ストレージのディスクとして、現在ではFCとSAS、およびSATAの3種類が存在しており、ほとんどのストレージは同一筐体内での混在をサポートしています。ディスクの特性からわかるように、FCとSASはアクセス頻度の高いオンラインデータ用途に使うべきで、SATAは比較的アクセスの少ない領域で、大容量のデータを一定期間保持する場合に便利です。具体的な使用方法としては、バックアップ用のミラー領域やアーカイブ領域などです。もちろん、この用途以外に使用することが不可能というわけでもなく、アプリケーションの特性やSLA、予算などに応じて検討すべき事項となります。

なお、FCとSASについては使い分けの指針となるものは存在していません。性能・容量・価格などについても差異はなく、今後はどちらが主流になっていくのかは現時点では不明です。ただし、ストレージ本体はどちらもサポートして混在可能なので、ビデオやDVDのように互換性がないために「どちらを買うべきか?」という深刻な問題は発生していません。少なくとも、FCは歴史がありSASは出てきたばかりなので、しばらくの間はFCを購入するケースが続くと思われます。

SSD(Solid State Drive)

磁気ディスクではなく、半導体メモリにデータを記録するタイプのメディアで、HDDと同等のインターフェースを実装することで、OSからはHDDとして認識されてHDDと同等に扱うことが可能です。

SSDはこれまでのHDDと比較して、明確なアドバンテージをいくつか有しています。最も大きな特徴となっているのが、HDDのように回転する必要がないので"回転待ち時間"や"シーク時間"が皆無であり、ランダムアクセスが非常に高速であることです。同時に回転する必要がないということは、アームやディスクなどの可動部が存在しないために衝撃に強く、かつ消費電力も少なくて済みます。しかも軽量で発熱量も少なく、環境に優しい新しいタイプの記憶装置です。

当初は、非常に高価なために大容量化と大量生産が難点となり、エンタープライズ系のストレージに搭載されるのは相当時間がかかると言われていましたが、2008年になって大型ストレージの標準ディスクとして使用が開始されました。

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