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IT Terminology

デジタル・ガバメント

社会全体のデジタル化が急速に進む中、現在、行政もデジタル化によって効率化を図ることが迫られています。
各国が構築する「デジタル・ガバメント」は、単に業務やサービスを効率化するだけのものではありません。
その先には国の新たなあり方が見えてきます。他国の先進的な取り組みを例に解説します。

文/近藤 雄生

最低7回の窓口手続きを1回にしたい

日本国内で引っ越しをする際、一般的に何回、役所の窓口に行かなければならないか知っていますか。

まずは旧住所の市区役所で転出証明書を取って、新住所の市区役所で提出することが必要です。国民健康保険に加入していれば、その手続きにも転出証明書が要りますし、小学生の子供がいれば、学校の転校・転入手続きに加え、児童手当関連の手続きのために税務署に行って所得や課税の証明書も取らなければなりません。免許証の住所変更のためには、今度は新住所の住民票を持って警察署へ…。

首相官邸が公開している資料「世界最先端のデジタル・ガバメントの実現に向けて」によれば、少なくとも旧住所で2回、新住所で5回、事務所や役所の窓口に行く必要があるようです。その度に住所、名前などを記入し、待つといった労力や時間が必要なことは多くの人が経験済みと思われます。

それは利用者の時間的負担や不便さのみならず、行政のコストにも跳ね返ります。また民間企業においては既に業務のデジタル化が進んでいるため、行政がそのままでは様々なプロセスのボトルネックになりかねません。

「デジタル・ガバメント」とは、行政のそうした問題の解消を目指す、電子化された政府を指す言葉です。近年、デジタル技術が急速に発達する中、現在、世界各国の政府が変革を迫られています。

デジタル・ガバメントの枠組み

デジタル・ガバメントを目指す各国の取り組みは、1990年代~2000年代に始まっています。オーストラリア、アメリカ、イギリス、エストニアといった国々がそれぞれに試行錯誤しながらその基盤を作り出し、その後、デジタル技術が格段に発展・普及した2010年代に入るとあらゆる先進国が追随しました。当初後れを取っていた日本も、2018年1月に「デジタル・ガバメント実行計画」※1を打ち出しています。

具体的にはどんなことをするのでしょうか。日本の上記「デジタル・ガバメント実行計画」を見てみると、大きな枠組みとして次の3点が挙げられています。

  1. 行政サービスの100%デジタル化
  2. 行政保有データの100%オープン化
  3. デジタル改革の基盤整備

これらの枠組みは、概ねどの国も共通で、その具体的な方法、すなわち、システムの構築の仕方や民間との連携具合などが国によって異なるようです。日本の場合、上記1点目の中身としては、各種手続きのオンライン化(デジタルファースト)、同じ情報を何度も出さずに済むようにすること(ワンスオンリー)、引っ越しなどの際の手続きで出向く窓口の一本化(ワンストップ)が挙げられています。2点目については、オープンデータを前提として業務やシステムを設計・運用すること、そして3点目としては、個人や法人の基本的な行政データをデジタル化した基盤を作ること、すなわち、個人ではマイナンバー制度によって始まっているデジタルプラットフォームの構築が、その主な中身になります。

IT先進国として注目されるエストニア共和国の首都、タリン。

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