ITOCHU Techno-Solutions America, Inc. シリコンバレー現地レポート
米国での大企業における
デジタルトランスフォーメーション(DX)の動き

Director, Business Development
ITOCHU Techno-Solutions America, Inc.
松本 渉
北米の先端技術やDXの取り組みを調査し、最新動向を日本へ紹介している。
ソフトウェア開発の内製化
「ソフトウェアが世界を食い尽くす」「あらゆる企業はソフトウェア企業になる」。米ネットスケープ創業者のマーク・アンドリーセン氏が米ウォール・ストリート・ジャーナル紙へ寄稿してから9年、米国の大企業において、ソフトウェアシフトへの動きが進んでいます。
米ゴールドマン・サックスの従業員38,000人の内、9,000人がIT部門や事業部門でのITに関わる仕事をしています。既にIT人材が従業員の24%を占める今もなお、1,500件近く開発者のポジションがオープンになっています。米国ではありませんが、独フォルクスワーゲンも2020年から5年の間に70億ユーロを投じて、ソフトウェアを社内で「作る」比率を10%から60%に引き上げると発表しています。ソフトウェアのバージョンアップを果てしないスピードで継続的に行っていくには都度アウトソースしていては追いつかず、社内で開発チームを抱える動きが進んでいることが背景にあります。
一方で、日本における従業員に占めるIT部門スタッフの比率は非常に低いと言われています。米国ではIT人材の約7割がユーザー企業にいるという事情を加味しても「日本と米国は違うから」と一言では片付けられないくらいの差が開いています。
テック企業の買収
DXを進める上で、「AI(Artificial Intelligence)は最も重要なテクノロジー」と多くの大企業が言っています。そのためAI人材は引く手あまたとなっており、米国の大企業もテック企業との人材獲得競争に苦戦しています。
米マクドナルドは2019年3月、AIを活用して、時間帯、天候などに合わせてメニュー表示を変えるなど、パーソナライゼーションを提供するDynamic Yieldを3億ドルで、同年9月には、AI音声技術を用いて多言語かつアクセントの認識にも対応した、音声注文を自動化するApprenteを買収しました。
Dynamic Yieldの買収は、過去20年間でマクドナルド社にとって最大の案件となりました。同社は2社が持つAIを取り入れて、ドライブスルーの注文がお客様と従業員にとって、よりスムーズでストレスのないものになるよう取り組んでいます。
米ナイキはAIを活用して消費者の購買行動を予測、在庫の最適化を図るCelectを2019年8月に買収しました。Celectを「買う」ことで、メーカーが消費者に直接販売を行うD2C(Direct-to-Consumer)戦略を推進しようとしています。
デジタル・プラットフォーマー化
米スーパーマーケットチェーンのクローガーは2019年1月、米マイクロソフトとRaaS(Retail-as-a-Service)の共同開発を発表しました。クローガーが保持するデータとマイクロソフト社のAzureテクノロジーでデジタル店舗戦略を推進し、これまでにない買い物体験と共に、従業員にとっても在庫状況が一目でわかるなど、働きやすい環境を提供しています。
米スーパー最大手の洞察とAzureを掛け合わせることで、小売業界全体にイノベーションをもたらそうとしています。
同じ小売業界では、米ウォルマートも自社のeコマース事業向けに立ち上げたフルフィルメントのプラットフォームをサービスとして(as-a-Service)他の小売業に展開して「稼ぐ」ことを検討しているようです。
これまで「テクノロジーはIT部門の仕事」とされてきましたが、テクノロジーを活用したDXは事業部門の仕事です。
また、DXは単なるテクノロジーの導入では済まず、「作る」「買う」「稼ぐ」を通じて、仕事のやり方や企業そのものを変えていく必要があるため、経営トップの関与が欠かせません。
DXに関しては、必ずしも米国の大企業のやり方が正しいとは限りません。日本でも、日本流DXの成功が期待されています。
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