CTC Group Global Report from Silicon Valley
AIエージェントを前提とした組織へ
Lyzr AIに見る新しい企業の形
日々、最先端技術が生み出される街、シリコンバレー。
そこで注目を集める動きや、感じられる変化を最前線で活躍する現地社員がレポートします。
Director, Business Development
ITOCHU Techno-Solutions America, Inc.
相山 郭大
大手通信キャリア向けの法人営業を経て、2023年より渡米。北米スタートアップの発掘や商材開発、日本市場への展開支援に従事する中で、シリコンバレーを拠点に創業者たちとの対話を重ね、AIをはじめとする先端技術の事業化やPoC、新規ビジネス創出に携わっている。
AIエージェントの今とこれから ~ Lyzr AIが示す新しい企業の形 ~
米国政府系ベンチャーキャピタル(VC)として知られるIn-Q-Tel(IQT)がLyzr(ライザー)AIへ出資したというニュースがありました。IQTは、CIAをはじめとする米国政府・情報コミュニティ向けに、将来重要となる技術へ投資を行うことで知られています。2023年創業という若い会社ながら、アクセンチュアも出資しており、KPMGやDeloitteなどの大手企業でも活用が進んでいます。企業向けのAIエージェント・プラットフォームを提供するこの会社が、なぜここまで注目されているのでしょうか。
Lyzr AIが注目を集める理由
私が面白いと感じたのは、彼ら自身が営業やマーケティング、コンテンツ作成など様々な業務にAIエージェントを組み込み、そこで得た結果を製品改善へつなげる「ドッグフーディング」を徹底していることです。他社では、CognitionがAIソフトウェアエンジニアのDevin(デビン)を使ってDevin自身を開発した例などがありますが、Lyzr AIは、大規模な資金調達活動においても自社のAIエージェントを活用し、130を超える投資家とのコミュニケーションや質問応答をこなして資金調達を実現しました。単に「AIエージェントを販売する会社」ではなく、AIエージェントを前提に会社運営を自ら行っているのが興味深い点です。
AIエージェントは社員を置き換えるのか?
AIエージェントが普及すると、「社員は不要になるのでは」という議論をよく聞きます。1人あるいは少人数で10億ドル(約1,600億円)規模の企業価値を実現する「1人ユニコーン」が登場する可能性も予想される中、Lyzr AIのようにAIエージェントを徹底活用する企業であれば、社員数をほとんど増やさずに急成長していくのではないか、と思っていました。しかし、Lyzr AIを見ると、会社の成長に合わせて従業員は増えており、AIが人を減らすのではなく、人の生産性を大幅に高めることで、これまでには考えられなかった速度で企業を成長させるということなのかもしれません。これは「効率が10%上がる」という話だけでなく、10倍、100倍という単位で、1人が生み出せる成果が変わる世界です。CTCアメリカも他人事ではなく、情報収集や調査といった私たちの業務は、今後かなりの部分をAIが担うようになるでしょう。
だからこそ、私たちは今まで以上にVCやスタートアップと直接会い、関係を作り、信頼を積み上げていくことが重要になると考えています。ある種のアナログさこそ、AI時代に改めて価値を持つのかもしれません。
AIがもたらす新しい収益源
NVIDIAのJensen Huang CEOが8月の決算で使った「Compute is Revenue」(計算能力はコストから収益源へ)という言葉も、AIが単なるコスト削減手段ではなく、企業の成長速度を高めるものと考えると、違う意味に捉えられます。AI が生み出すのは計算能力だけでなく、その先にある知識や判断、業務成果です。
そう考えると、「Compute is Revenue」のその先に、「Knowledge is Revenue 」(知識が収益を生む)という考え方があるのではないでしょうか。
企業が長年の業務を通じて蓄積してきたKnowledgeを、AIが再利用できる形に変えられれば、これまで社内に眠っていた業務知識が、新しい収益源になり、日本企業が培ってきた「現場力」も、AI製品として世界へ展開できる可能性を秘めています。
ボトルネックは消えず、移動する
では、業務知識をAIが利用できるようにし、AIエージェントを導入すれば、企業の変革は完了するのでしょうか。当然、それほど単純ではありません。Lyzr AIの事例を見ながら、もう1つ強く感じたのが、「ボトルネックは消えず、移動する」ということです。AIは、企業のボトルネックを一度に全て消してくれる魔法ではありません。「次はどこが詰まるのか」まで考え、業務プロセスを継続的に改善していく必要があります。
AIエージェントの「これから」
Lyzr AIはまだスタートアップの中の1社に過ぎませんが、その取り組みは、これからの企業のあるべき姿を少しだけ先取りしているように見えます。AIエージェントを導入することが目的ではなく、AIエージェントを前提として、企業の業務プロセスや働き方を設計していく。AI時代の競争力は「どれだけAIを導入したか」ではなく、「AIを前提とした組織へ、どれだけ早く変われるか」で決まる時代が来るでしょう。Lyzr AIは、その未来を示す1つの興味深い事例として、これからも注目していきたい企業です。
コラム SIDE STORY
スタートアップで注目すべき点
とあるスタートアップの創業者兼CEOにお会いした際、「もう相当な資産家なのでは?」と伺うと、「実はそうでもないんです」と笑顔で返されました。会社の価値を築いてくれるのは、最初に集まってくれる優秀な仲間たち。だからこそ創業初期は、自分以上の報酬を払ってでも良い人材を迎えたい、とのことでした。それ以来、スタートアップを見る際は創業者の経歴だけでなく、最初の10人に誰を迎えられたかにも、目を向けるようにしています。
シリコンバレーから車で1〜2時間。ナパやソノマのワイナリーは、観光地であると同時に、VCやスタートアップ関係者が肩の力を抜いて語り合い、関係を深める場所でもあります。
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