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|特別対談|来たるAI新時代、日本はどう生き抜き、私たちは何をすべきか

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汎用人工知能の開発を進めるべきか否かの議論が沸き上がる一方で、AIの果たす役割の大きさは急激に増しており、世界全体が、AIとの向き合い方を模索しています。先が全く予測できないそんな時代の中で、私たちは何を考え、どう行動すべきなのか。今後、物理的身体を持つフィジカルAIが大きな存在感を持っていくだろう中で、日本はどう生き抜いていくべきなのか。今、最も注目を集めるAI研究者である今井翔太氏に、CTCでフィジカルAIの研究に従事する寺澤豊が、AIの現在地と未来、そして今、私たちが知っておくべきことについて聞きました。

取材・文/近藤 雄生

今井 翔太

今井 翔太
Shota Imai

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)教授 株式会社GenesisAI 代表取締役社長/CEO

東京大学大学院 工学系研究科(松尾研究室)でAIの研究に従事し、博士(工学)を取得。人工知能、特に強化学習、AI for Science、マルチエージェント学習を専門とする。国家戦略特区AI戦略アドバイザー、文部科学省 科学技術・学術政策研究所 第5期定点調査委員なども務める。著書にベストセラー『生成AIで世界はこう変わる』 (SBクリエイティブ)、『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)など。

寺澤 豊

寺澤 豊
Yutaka Terasawa

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 CROグループ アソシエイトプリンシパル

統計学、人工知能、数理最適化の専門家として業務改革や新規事業創出を支援。2021年より生成AIを活用したビジネス企画や技術アドバイスを牽引。現在はAIとロボティクスを融合したフィジカルAIなど次世代AI技術の研究開発・事業化に注力し、新産業革命の実現を目指している。CTC総研主任研究員。

ゲームをきっかけにのめり込んだAIの世界

寺澤

今井さんはもともとゲームがお好きで、ゲームをきっかけに人工知能(AI)の世界に入ってこられたと伺っています。どのような経緯だったのですか。

今井

私は、かつてポケモンのゲームで世界7位になったこともある“ガチ”のゲーマーなのですが、2015年頃に、ポケモンの大会で上位選手の多くが同じような戦略を採用しているのを見て、ある意味、人間の限界を感じました。取れる戦略の種類はほとんど無限にあるのに、人間が思いつけるのは、そのほんの一部でしかないことを実感したからです。一方、ちょうどそんな時に「AlphaGo」(アルファ碁)という囲碁のAIが登場して、世界チャンピオンを倒すということが起きた。囲碁の歴史は4000年ともいわれ、人間はそれだけ長く戦略を磨き続けてきたはずなのに、数ヵ月間学習しただけのAIが、人間の知らない戦略によって人間を破ったのです。私はとても感動して、もしポケモンにAIを導入したらどんなにすごい戦略を使うのだろうと想像して、AIに興味を持つようになりました。ただポケモンは運の要素があるため、AIにとってはおそらく囲碁以上に攻略が難しく、まだ人間には勝てていないのですが。

寺澤

まさにポケモンと深く向き合った結果、AIと出合われたのですね。そしてそれから10年ほどが経過する間にAIは急激な進化を遂げ、今や世界を揺るがす存在となりましたが、まずはその現状からお伺いします。現在、AI革命ともいわれる時代の中心にあるのがChatGPTをはじめとする生成AI、あるいはその派生形といえるAIエージェントで、その次はフィジカルAI、つまり物理的な身体を持つAIの時代になるといわれていますが、AIの進化の流れをそのように捉えることは正しいでしょうか。

今井

はい、正しいと思います。ただ一方で最近は、AIエージェントやフィジカルAIをすっ飛ばして、究極の目的に到達するんじゃないかと言う人もいて、そうなると、少し様相は変わってくるかもしれません。

AGIとASIの違いとは

寺澤

究極の目的というのは何を指すのですか?

今井

いわゆる「汎用人工知能」(AGI、Artificial General Intelligence)を誕生させること、すなわち、人間ができることは何でもできるような人工知能を完成させることです。それが、70年の歴史がある人工知能研究がずっと目指してきたことなのです。例えば今のAIは、囲碁の世界チャンピオンに勝つことはできても、確定申告はできません。数学の難問は解けるけれど、洗濯物は畳めません。人間は、そうしたあらゆることをそれなりのレベルでできるという意味で非常に賢い。そのような人間に匹敵する能力を持つのがAGIです。AGIが完成すると、定義上AGIは人間と同じようにAI研究もできることになるので、AIがAIを開発する段階に入り、AIは加速的に進化し、いずれは桁違いの知能を持つ「超知能」(ASI、Artificial Superintelligence)が誕生するといわれています。そういう進化のフェーズに入ると、もはや、AIエージェントなのかフィジカルAIなのかといった発展の段階はあまり関係がなくなるだろうということです。

寺澤

汎用人工知能(AGI)と超知能(ASI)は、具体的にはどう違うのですか。

今井

はっきりとした定義はありませんが、一般的にAGIとは、人間に可能なことは何でもできるものの、ずば抜けて人間より優れているわけではないようなレベルのAIを指します。一方でASIは、おおむねあらゆる能力において、人間の理解を超えたレベルに達しているAIです。例えるなら、人間とAGIの能力の違いは、一般のサルと、サルの中で一番賢いとされるチンパンジーの違いくらいで、人間とASIの違いは、チンパンジーと人間くらいの違いというイメージです。つまり、AGIがまだ人間が理解できる範囲の存在であるのに対して、ASIはもはや人間には全く理解不能なほど、高度な知能ということになります。

寺澤

とするとASIを作ることは、もはや神を作るみたいなこと……と言ったら言い過ぎでしょうか。

今井

いや、言い過ぎともいえないと思います。というのも、現在シリコンバレーのAI開発者の中には、ASIのような知能のことを「デジタルゴッド」と呼び、それを作ろうというマインドの人たちもいるからです。まさに、神を作るという表現も的外れとはいえない段階に入っています。

AIは人間を超える知能へ
AIは人間を超える知能へ

日本の強みをどこに見出すか

寺澤

ではここからは、今後フィジカルAIの時代へ入っていくと考えた時に、日本の勝ち筋はどこにあるのかといったテーマでお話を伺っていきます。今井さんは、日本はAI開発競争において、半導体の材料や半導体チップの製造装置というチョークポイント(要衝)を握っている、とお話しされています。その点について改めてお聞かせください。

今井

現在のAIの性能向上の要となっているのは、何よりも、大量の半導体チップを使って大量のデータを力任せに学習させることです。つまり、半導体チップがないとAIは発展させられないのですが、その材料や製造装置の開発に不可欠な技術を日本は握っています。それが日本の戦略上、大きな強みになるということです。

寺澤

確かにその点は大きいですね。一方、過去を振り返ると、日本は白物家電で圧倒的な優位性を持っていたのに、だんだんと技術が外国に流出するなどして強みを失っていき、またデジタル化の進展の中でも競争力を失っていきました。半導体の製造分野で現状強みを持っていたとしても、今後それを失う可能性もあると思うのですが、そのリスクを考えて半導体以外の分野も強化するとすれば、今どのような分野に投資するのが良さそうだと今井さんはお考えですか。

今井

なかなか難しいところですが、例えば、AIを科学研究に使うAI for Scienceという領域は投資する価値があると思います。これはAIによって科学的発見を加速させ、さらに、そこで得られるデータによってAI自体を進化させるという取り組みです。日本が強みを持つ研究分野においてAI for Scienceのための投資を増やせば、国を支える科学技術の基盤を構築することになりますし、海外から有能な人材が集まることにもつながるでしょう。一方、日本は既にフィジカルAIには大きく投資しており、その方向性も正しいと思います。国産フィジカルAIの開発などを目的として複数の企業や研究者が集まって進めているNoetra※1やAIRoA※2といった取り組みは、とてもロジックが通っている。ただ、AIが今後どう進化していくかの予測は難しく、そのような投資が長期的に見て成功するかどうかはまだ何ともいえません。

※1:Noetra ソフトバンクや本田技研工業をはじめ、国産AIの開発や活用に取り組む国内44社から出資を受ける企業。設立は2026年1月。AIロボットやフィジカルAIの基盤となる国産マルチモーダル基盤モデルの開発を目指す。
※2:AIRoA 一般社団法人AIロボット協会(AI Robot Association)。AIロボットの開発促進や社会普及のために各種取り組みを行う団体で、今井さんの大学院時代の指導教官である東京大学の松尾豊氏など、国内トップのAI研究者らが参画する。2024年設立。

出典:Best Engine Vol.19

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