ゲームをきっかけにのめり込んだAIの世界
寺澤
今井さんはもともとゲームがお好きで、ゲームをきっかけに人工知能(AI)の世界に入ってこられたと伺っています。どのような経緯だったのですか。
今井
私は、かつてポケモンのゲームで世界7位になったこともある“ガチ”のゲーマーなのですが、2015年頃に、ポケモンの大会で上位選手の多くが同じような戦略を採用しているのを見て、ある意味、人間の限界を感じました。取れる戦略の種類はほとんど無限にあるのに、人間が思いつけるのは、そのほんの一部でしかないことを実感したからです。一方、ちょうどそんな時に「AlphaGo」(アルファ碁)という囲碁のAIが登場して、世界チャンピオンを倒すということが起きた。囲碁の歴史は4000年ともいわれ、人間はそれだけ長く戦略を磨き続けてきたはずなのに、数ヵ月間学習しただけのAIが、人間の知らない戦略によって人間を破ったのです。私はとても感動して、もしポケモンにAIを導入したらどんなにすごい戦略を使うのだろうと想像して、AIに興味を持つようになりました。ただポケモンは運の要素があるため、AIにとってはおそらく囲碁以上に攻略が難しく、まだ人間には勝てていないのですが。
寺澤
まさにポケモンと深く向き合った結果、AIと出合われたのですね。そしてそれから10年ほどが経過する間にAIは急激な進化を遂げ、今や世界を揺るがす存在となりましたが、まずはその現状からお伺いします。現在、AI革命ともいわれる時代の中心にあるのがChatGPTをはじめとする生成AI、あるいはその派生形といえるAIエージェントで、その次はフィジカルAI、つまり物理的な身体を持つAIの時代になるといわれていますが、AIの進化の流れをそのように捉えることは正しいでしょうか。
今井
はい、正しいと思います。ただ一方で最近は、AIエージェントやフィジカルAIをすっ飛ばして、究極の目的に到達するんじゃないかと言う人もいて、そうなると、少し様相は変わってくるかもしれません。
AGIとASIの違いとは
寺澤
究極の目的というのは何を指すのですか?
今井
いわゆる「汎用人工知能」(AGI、Artificial General Intelligence)を誕生させること、すなわち、人間ができることは何でもできるような人工知能を完成させることです。それが、70年の歴史がある人工知能研究がずっと目指してきたことなのです。例えば今のAIは、囲碁の世界チャンピオンに勝つことはできても、確定申告はできません。数学の難問は解けるけれど、洗濯物は畳めません。人間は、そうしたあらゆることをそれなりのレベルでできるという意味で非常に賢い。そのような人間に匹敵する能力を持つのがAGIです。AGIが完成すると、定義上AGIは人間と同じようにAI研究もできることになるので、AIがAIを開発する段階に入り、AIは加速的に進化し、いずれは桁違いの知能を持つ「超知能」(ASI、Artificial Superintelligence)が誕生するといわれています。そういう進化のフェーズに入ると、もはや、AIエージェントなのかフィジカルAIなのかといった発展の段階はあまり関係がなくなるだろうということです。
寺澤
汎用人工知能(AGI)と超知能(ASI)は、具体的にはどう違うのですか。
今井
はっきりとした定義はありませんが、一般的にAGIとは、人間に可能なことは何でもできるものの、ずば抜けて人間より優れているわけではないようなレベルのAIを指します。一方でASIは、おおむねあらゆる能力において、人間の理解を超えたレベルに達しているAIです。例えるなら、人間とAGIの能力の違いは、一般のサルと、サルの中で一番賢いとされるチンパンジーの違いくらいで、人間とASIの違いは、チンパンジーと人間くらいの違いというイメージです。つまり、AGIがまだ人間が理解できる範囲の存在であるのに対して、ASIはもはや人間には全く理解不能なほど、高度な知能ということになります。
寺澤
とするとASIを作ることは、もはや神を作るみたいなこと……と言ったら言い過ぎでしょうか。
今井
いや、言い過ぎともいえないと思います。というのも、現在シリコンバレーのAI開発者の中には、ASIのような知能のことを「デジタルゴッド」と呼び、それを作ろうというマインドの人たちもいるからです。まさに、神を作るという表現も的外れとはいえない段階に入っています。