|特別対談|来たるAI新時代、日本はどう生き抜き、私たちは何をすべきか
日本発のフィジカルAIのシステム構築を
寺澤
私は、フィジカルAIに関しては「空間オーケストレーション」というものが日本の勝ち筋になるのではないかと考えています。これは我々の造語ですが、簡単にいえば、フィジカルAIを単体のロボットとして捉えず、異なる技能を持った複数のロボットや設備の集合体と捉え、それらが1つのシステムとして空間全体を統合・運用していくような在り方を指しています。世界でも特に人口減少が進んでいる日本は、どの国よりもこうした空間システムやロボットを必要としています。そのため日本はおそらく、世界で最初にフィジカルAIを本格的に運用する国になる可能性が高いので、その過程で得られる知見やデータを含めたシステム全体を世界に輸出していけば、それも1つのビジネスになるのではないかと考えています。今井さんはどう思われますか。
今井
日本の特性を活かせる良い方法だと思います。ロボットで一番難しいのはエッジケースだといわれます。つまり、工場や農業の現場など、空間の仕様がおおむね一定である場で機能するようにロボットを学習させるのは難しくないものの、エッジケース、例えば個人の家のような、個々に状態が異なり標準化が難しい現場にロボットを対応させるのは容易ではなく、実際に現場に入ってデータを取るしかありません。フィジカルAIが日本で最初に広く実用化されるとすれば、他国に先駆けて多様なエッジケースを学習したロボットやシステムが確立でき、それを海外に出せたら大きな強みになるだろうと思います。
寺澤
日本では今、複数のIT企業がフィジカルAIの領域に参入しつつありますが、私は、フィジカルAIは、ビジネスの構造上、どちらかといえばIT産業よりも自動車産業に近いように感じています。つまり、IT産業のように各企業が個別に動いて個別に開発を進めるより、複数の企業が連携して事業体のようなものを形成し、協力して1つの物を作っていく方が良いように思うのですが、その点はいかがでしょうか。
今井
大きな事業体があった方がいいと思います。おっしゃるように、ロボットの頭脳や筐体といった部分を個別に作って個別に売るのではなくて、それが動く環境も含めたシステム全体を日本のソリューションとして輸出する方向を目指し、さらに、あらかじめその全体を標準化して、それを世界標準にするところまでを狙うと良いのではないでしょうか。
寺澤
そのような標準化競争では、日本はこれまでなかなか結果を出せていないので、ぜひこの分野では各社が協力し合って世界に日本の存在感を見せていきたいところですね。
労働して生きていくということ自体を問い直す段階に
寺澤
ここまでお話を伺ってきて、日本には複数の強みがあり、またこれからできることも色々とあるように感じました。しかし、現状を見ると、日本企業は全体としてまだまだAIに対して投資を含めて様子見をしているような印象を受けています。その点について今井さんは、日本企業はもっと積極的にAIに投資すべきなのか、あるいは、別の視点を持つべきなのかなど、どうお考えでしょうか。
今井
先ほど少し申し上げたように、国や大企業のレベルでいえば、日本は既に相当フィジカルAIに投資していると思います。そしてその方向性は正しいと感じますが、その一方で、現在のAIの進化の状況を考えると、企業はより根本的なところにも目を向ける必要があるように感じています。つまり、そもそも企業という形態がこれからも成立するのかどうか自体を問うてみる、ということです。というのも今後、企業、あるいは資本主義社会、さらにいえば、人間が労働して生きていくという在り方そのものが変わっていくかもしれないからです。私たちが今、当然と考えている、働いて賃金を稼いで生きていくという体制は、長く見積もってもここ300年くらいの話でしかなく、決して人間の普遍的な在り方とはいえません。AIによって今後その体制が大きく変わる可能性は高く、今、既にそういう段階に来ていることを意識しておくことは重要だと思っています。
寺澤
AIによって人間の仕事が奪われ、失業者が街に溢れるとなれば、ベーシックインカムが必要になるといったこともありますし、そもそもの経済システムを組み直さないと人間は先に進めなくなりそうです。
今井
おっしゃる通りです。しかも問題は、経済だけにとどまりません。経済の混乱に伴って政治が不安定化して、とんでもない指導者が次々に出てきたりする可能性もありますし、また何よりも深刻だと思うのは人間の感情の問題です。私たちが仕事で得ているものはお金だけではありません。仕事をすることでコミュニティに参加したり、自分は社会の役に立っているんだという感覚を手に入れたりしています。そういう感情的なことが満たされない中で、人間はどうやって生きていくのか。それはとても重く難しい問題だと思います。
歴史上、最もエキサイティングな時代を生き抜く
寺澤
改めて5年後や10年後、AIが社会により深く浸透していった時、社会はどうなっていくと想像されていますか。最近では、AIによって近い未来に人類が最悪な事態を迎える可能性も議論され、AI開発を減速させるべきだという意見も出てきていますが、今井さんはどう見られていますか。
今井
今や5年後、10年後の予測は難しく、おそらく外れるということを前提にお話ししますが、私は、今後5年くらいの間に、AIによって人類が最悪な事態を迎えるといったリスクはあると考えています。またそこまでには至らずとも、労働問題やデータ著作権の問題など社会を揺るがす問題が多数出てくるでしょう。ただ、そうした段階を乗り越えて、最悪のシナリオも回避することができたとすれば、その後には今よりもずっと豊かな社会が待っているのではないかと私は考えています。難病や環境問題など、現状、人間だけでは解決できない社会課題が世の中には無数にあります。そうした課題が、すさまじい進化を遂げたAIによって次々に解決されれば、人類社会は劇的に変わり、安定した豊かな時代がやってくるのではないかと想像しています。
寺澤
では最後に、今井さんのおっしゃる向こう5年という期間に、日本の企業人、経営者は何をすべきか、何ができるか、メッセージをいただければ幸いです。
今井
私は企業人ではないので具体的な提言はできませんが、大局的な視点で考えると、このAI革命の時代の中で実際に行動を起こせる立場にいる人というのは、人類の歴史全体で見ても非常に特権的なポジションにいるように思います。ホモ・サピエンスの約30万年の歴史の中で、人間を上回る知能が出てくるかどうかという瞬間は初めてのことであり、現在は人類の歴史の中でも際立ってエキサイティングな時代だと思っています。皆さんそれぞれが今、そういう非常に恵まれた環境にいるんだということを自覚して、それぞれのフィールドで、戦略的に考え、行動されていって欲しいと思います。
寺澤
ぜひ私たちも、このエキサイティングな時代を楽しみつつ、SIerとして人類とAIが共存する未来の実現に貢献していきたいと思います。今日は長い時間ありがとうございました。
記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。
