自動車を軸に航空、エネルギー、半導体向けなどの特殊鋼専業メーカーとして事業を展開する大同特殊鋼。同社の技術開発研究所では航空機向けなど高合金材料の開発を行っているが、従来の熱力学計算ソフトでは材料の機械特性や性能限界、鍛造中の組織変化を予測することは難しかった。そこで、クラウド型材料開発プラットフォーム「ICMD®」を導入、試作回数の大幅な削減を実現している。さらにAIにCAEの計算結果を学習させて計算結果を予測するサロゲートモデルを活用して、渋川工場に導入する大型四面鍛造機向けのシミュレーションの高速化と解析時間の短縮化に成功している。
課題と効果
課題
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- 材料開発における高合金材料の機械特性や性能限界の予測、鍛造中の組織変化のシミュレーションの実現
- プロセス開発における鍛造プロセスでのシミュレーション時間短縮の実現
効果
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- ICMD®で、材料開発における機械特性、鍛造割れ限界などの大量シミュレーションを実現、実験回数低減によりコストを削減、開発スピードアップ
- サロゲートモデル活用で、鍛造プロセスのシミュレーション時間を短縮
導入事例インタビューデータ
- 企業名
- 大同特殊鋼株式会社
- 所在地
- 名古屋市東区東桜1丁目1番10号
- 創業
- 1916年8月
- URL
- https://www.dAIdo.co.jp/
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大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
所長植田 茂紀氏
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大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
溶解・加工プロセス技術研究室 室長中川 純一氏
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大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
ステンレス・高合金材料技術研究室 室長髙橋 茉莉氏
会社の戦略方針に沿って高合金など高度な材料開発に取り組む
1916年創業で、「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」を経営理念に掲げる大同特殊鋼株式会社(以下、大同特殊鋼)。同社は、電動化の進展による自動車エンジン向け鋼材の減少を見据えて、半導体、航空宇宙、医療、クリーンエネルギー、CASE、その他の6つの成長分野への投資を柱にしたポートフォリオ改革を進めている。その中で研究開発を担う技術開発研究所では会社の戦略投資方針に沿う形で、航空機向けの耐熱材料や顧客企業の認定工程が必要な材料の開発、半導体製造装置向けの材料開発などに取り組んでいる。
技術開発研究所で材料設計を担当するステンレス・高合金材料技術研究室では長年、統合型熱力学計算ソフト「Thermo-Calc」を利用して、合金の設計を行ってきた。技術開発研究所 所長 植田 茂紀氏は「2015年に立ち上がった航空機エンジン用材料開発プロジェクトの目標値は非常に高いものでした。Thermo-Calcでは強化に有効な析出物や元素、構成相を定量的に捉え、強度を推定することはできるものの、機械特性への定量的な影響、鍛造中の組織変化などはわかりませんでした。当時は、材料設計のエンジニアリング企業QuesTek Innovations(以下、QuesTek社)から技術紹介を受け、行き来し始めた時期で、困りごとを相談したところコンピュータシミュレーションで可能だと言われ、試してみることにしたのです」と振り返る。例えば、レアメタルのタンタルを利用した開発事例でも、ICMD®があれば、タンタルの量と強度上昇の関係が予想できるので、強度のシミュレーションを非常に効果的に行うことができる。「プロセス側でもタンタルを加えた時の温度変化の影響もわかるので、製造プロセスの目安になります。タンタルは1キロ15万円もするので、わずか100グラム使っただけでも1万5,000円と非常に高価です。当時ICMD®を利用することができていれば、実験回数を減らすことができ、コストの低減と開発時間を短縮することができたはず」と植田氏は語る。
統合型材料開発プラットフォーム「ICMD®」導入 様々な条件下での大量のシミュレーションを短時間で実行
ステンレス・高合金材料技術研究室では、米国の航空機関連プロジェクトに参加する中で、年に何回かQuesTek社を訪れるようになった。そして、創業者で最高科学責任者のグレッグ・オルソン博士が当時教授を務めていたノースウェスタン大学に所員を留学生として派遣すると共に、材料モデルやプロセス最適化などのシミュレーションを委託するようになった。2023年7月、QuesTek社は初期評価ユーザーによる広範なテストを経て、材料モデル、プロセス最適化や特性評価ツールをパッケージ化し、クラウド型材料開発プラットフォーム「ICMD®」としてリリースした。これによって、研究所での材料組成に伴った、構成相、析出物、各元素が機械特性に与える影響のシミュレーションが可能になった。
2023年10月、技術開発研究所では、CTCが提供するICMD®を導入、材料開発とプロセス開発の両方での活用を開始した。材料開発では、ニッケル基合金やマルテンサイト系ステンレス鋼、また最近では積層造形の分野などでも利用している。技術開発研究所 ステンレス・高合金材料技術研究室 室長 髙橋 茉莉氏は「従来、材料開発の際、候補となる成分系を大量に試作・評価するのは難しいため、Thermo-Calcを利用しながら、変動させる元素にあたりを付けて絞り込んでいくやり方を行っていました。それには技術者の経験やセンスが問われると共に、機械特性の予測等が出ないためトライアンドエラーの試作に時間もかかっていました。一方、ICMD®は様々な条件での大量のシミュレーション、機械特性の予測が可能であり、後戻りを大幅に減らし、効率よく開発を進めることができます。研究室でICMD®を活用している様子を見ると、従来とはスピード感が全く違い、本当に世界が変わったと実感しています」と話す。
サロゲートモデル活用で、鍛造プロセスの計算時間を短縮
技術開発研究所でプロセス開発を担っているのが溶解・加工プロセス技術研究室である。高合金の製造プロセス開発ではコンピュータによるシミュレーション(CAE)が欠かせない。技術開発研究所 溶解・加工プロセス技術研究室 室長 中川 純一氏は「近年はコンピュータの性能向上とソフトウェアの進化によって、3D解析もスムーズに行えるようになってきました。ただシミュレーション対象が複雑になるにつれ、計算量も大幅に増大し、時間がかかるようになっていました。計算時間の短縮を検討していた時に紹介されたのがAIにCAEの計算結果を学習させて、結果を予測するCTCが提供する『サロゲートモデル』でした」と語る。
鍛造工程での成果をもとに溶解など他プロセスでの活用を図る
現在、大同特殊鋼では、高合金プロセス改革プロジェクトとして、渋川工場に航空機向け高合金材料を製造する大型四面鍛造機の導入を進めている。鍛造機の加工プロセスの研究では、投入材料の寸法や温度、金敷の形状など様々なパラメーターがあり、それらの影響を個別にシミュレーションすると、1年も2年もかかってしまう。鍛造機の稼働は2028年2月を予定しているため、溶解・加工プロセス技術研究室ではそれに間に合わせるために、ひとつの工程に絞って、サロゲートモデルを活用している。「対象工程の計算時間は1水準1分以内になり、非常に速くなりました。計算速度が速くなると、様々な水準や条件の計算が大量にできるようになり、例えば1,000個計算しても1日以内で済みます。これがサロゲートモデルを活用せずに例えば1水準に1週間かけていたら、20年近くになってしまいます」と中川氏は話す。このように、鍛造工程で大きな成果が出たことから、上工程の溶解など他プロセスでもサロゲートモデルを活用したシミュレーションを行う計画だ。
ICMD®の活用イメージとして、技術開発研究所では、航空機や宇宙関係のメーカーに材料の製造を依頼された時に、ICMD®で製造工程も加味した計算結果を即座に提示できるようになれば、顧客企業からの受注拡大が期待できると考えている。加えて、サロゲートモデルもプロセス全体で連携させて使うことができるようにすれば、営業担当が商談の場で生成AI のように入力して価格まで提示することが可能になるかもしれない。最終的には、技術開発研究所が長年にわたり蓄積してきた実機データと実測に基づくシミュレーションにICMD®とサロゲートモデルを組み合わせることで、より強固なツールとなり、製造の上工程から下工程まで一気通貫で予測可能になることを期待している。今後も研究開発の加速をするためCTCの支援の下、取り組みを進めていく考えだ。