|特集|CTCが新たな中期経営計画を策定 2020年を見据えたITサービスの姿とは
ITサービス業界の中でも強靭なビジネス基盤を持つことで知られる伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)。同社はさらなる成長を目指し、2018~2020年度を期間とする3カ年の中期経営計画「Opening New Horizons」を策定した。社長就任から6年。常にチャレンジングな戦略で持続的な成長を牽引してきたCTC社長 菊地 哲が構想する今後のビジネス展開について、日経BP総研 フェローの桔梗原 富夫が話を聞いた。
- 2018年10月~12月で掲載した日経xTECH Specialの記事から抜粋、再編集しています。
さらなる視野(Horizons)を広げ、活動の場を切り拓く
- 桔梗原
- 現在の経済環境や、デジタルトランスフォーメーションに代表されるIT市場の動向をどのように見ていますか。
- 菊地
- 経済環境は世界的に成長基調にあり、国内でも個人消費や企業収益の拡大を含めて堅調な推移を見せています。IT市場でも、企業のデジタルトランスフォーメーションの推進に伴う新しいテクノロジーの活用や、5Gを中心としたネットワークインフラの機能拡充など、大きな潮流が動き出しています。ITに対する経営者の意識も急速に変化しており、数年前まで「コスト」と捉えられていたのが今では「経営の武器」と認識され、IoTやAI、FinTechやRPAなどを誰もが口にする時代となりました。システム更改でも新技術の採用が常に意識されるようになってきたため、IT投資の拡大とともに、私たちシステムインテグレーターの重要性と存在感は、一段と増していると考えています。
- 桔梗原
- 菊地社長が就任された2012年以降、CTCグループは、売上収益や純利益、時価総額などで持続的な成長を遂げてきました。その要因はどこにあるのでしょうか。
- 菊地
- IT業界の環境変化に向けて展開してきた、様々な施策や方向性が間違っていなかったということだと思います。お客様の基幹システムやその周辺システムを最新の環境で構築し、しっかり動かし続けるというCTC本来の役割が、その下地にあるのはもちろんですが、革新的なテクノロジーやビジネスモデルにも常に目配りをしてきました。今後はそういったお客様の足元固めと、その上で展開されるデジタルトランスフォーメーションをバランス良く、強力にサポートしていくことが重要だと考えています。
菊地 哲
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
代表取締役社長
[きくち・さとし]1952年秋田県生まれ。76年東京大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。伊藤忠商事で、英国に6年、オマーンに4年の駐在経験を持つ。金属・エネルギー経営企画部長、業務部長、執行役員、代表取締役常務取締役などを歴任。2012年6月伊藤忠テクノソリューションズ代表取締役社長(現任)に就任。
- 桔梗原
- そうした中、CTCは3カ年の中期経営計画「Opening New Horizons」を策定しました。そこに込められた思いを、聞かせていただけますか。
- 菊地
- 会社は、会社の意志と社員の考えが同じ方向を向くことで高いパフォーマンスを発揮します。中期経営計画は、社員と思いを共有することを念頭に作成しました。
- 通常、単数形の“horizon”は「地平線」という意味ですが、サブタイトルにある複数形の“Horizons”となると、人の「視野・展望」という意味になります。新たな中期経営計画には「新しい景色を見るために、視野を広げ、活動の場を切り拓いていく」という思いを込めているのです。その手段が、「上に広げる」「前に伸ばす」「外に出る」「足元を固める」という4つの重点施策になります。これら“4つのHorizons”に取り組むことで、CTCグループ全体を成長させ、新たな未来へとつないでいきたいと考えています。
桔梗原 富夫
日経BP社
日経BP総合研究所
フェロー
インフラとアプリケーション双方で強みを打ち出す
- 桔梗原
- “4つのHorizons”ではストレートな言葉でメッセージを打ち出していますが、具体的にどのような戦略をお考えですか。
- 菊地
- まず「上に広げる」ですが、これはビジネス変革への挑戦を示しており、「重点顧客とのデジタルビジネス共創」と「アプリケーションレイヤー拡充への挑戦」という2つの目標を掲げています。
- 今、お客様の中では、デジタルトランスフォーメーションを加速させるため、様々なデータを分析し、有効活用することで新たなデジタルビジネスを創出しようとする動きが活発化しています。私たちIT企業に求められる役割も大きく変わりました。お客様が求めるシステムを言われた通りに構築して納めるだけでなく、お客様とともにITを活用して新たなビジネスを創出していく――そういうパートナーとなることが期待されています。
- こうした動きに対応するため、まずは重要なお客様との関係性をより強化し、そのビジネスやITシステムの事情を深く知ることで、最適な解決策を提案・実現していくことが必要だと考えています。
- それと同時に、アプリケーション開発の分野では、アジャイル開発やDevOps(デブオプス:開発と運用を組み合わせた言葉)といった迅速で柔軟な開発手法、コーディングをほとんど必要としないローコード、ノーコード開発といった新たな技術を積極的に活用していきます。これまでCTCはITインフラの構築やサポートで高い評価を頂いていました。今後はさらに、そのインフラ上で稼働するアプリケーションについても開発力を強化し、お客様と一体となって付加価値の高いシステムやサービスを迅速に開発・提供していかなければなりません。
- 桔梗原
- アプリケーション開発の分野で特に力を入れていくところはどこでしょうか。
- 菊地
- まずは、アジャイル開発のエンジニア育成やプロジェクト推進の体制を大幅に強化しています。昨今のお客様ニーズの高まりも受け、7月にはプロジェクトの関係者が一堂に会することができる、アジャイル開発に特化したワークスペース「アジャイルオフィス」を東京と豊田に開設しました。アジャイル開発推進のためのローコード開発基盤であるOutSystemsをはじめ、ほかの拠点と常時接続されたTV会議システム、チャットやバックログ、画面共有などのコミュニケーションサービスを準備しています。
- また、基幹系システムに特化した当社のクラウドサービス「CUVICmc2(キュービックエムシーツー)」の促進も含めて、最新のSAP S/4HANAのスキルを持つエンジニアも増やしています。こうしてインフラとアプリケーションレイヤーの双方で強みを強化し、お客様のビジネス成長を支援していこうと考えています。
インフラ・ネットワーク分野での圧倒的な存在感の確立目指す
- 桔梗原
- 2つめの「前に伸ばす」は、どのような意味を込めているのでしょうか。
- 菊地
- 強い分野をさらに強くすることが経営戦略としては重要です。そこで具体的な目標として「No.1クラウドインテグレーターへの挑戦」「インフラ・ネットワーク分野における圧倒的存在感の確立」「リカーリングビジネス拡大の加速」の3つを挙げました。
- CTCの強みと自負しているのが、最新技術への“目利き力”を生かした、インフラ・ネットワーク分野での有力ベンダーとの強いパートナーシップと製品販売力です。CTCではエンジニアの意見やお客様からの要望などをベンダー各社と定期的に意見交換し、より品質の高い製品開発の一翼を担っています。米国の大手ベンダー製品の国内販売量は常にトップクラスであり、スケールメリットによる価格競争力もあるため、強みをさらに強くして今後もこの分野では圧倒的な存在感を維持できると考えています。
- 2020年に向けて本格化する5G時代に向けては、ネットワークインフラの機能拡充やネットワーク仮想化をはじめとする新技術への対応を進め、通信キャリア各社やIoTを活用する企業のお客様と一緒に、新たなビジネスモデルを共創していきます。
- 桔梗原
- CTCの強みは、多様なIT製品やサービスの中から、お客様にとって最適なものを選び出し、組み合わせ、システムとして動かす「つなぐ力」だと思います。クラウドの潮流にはどう対応していくのでしょうか。
- 菊地
- CTCではマルチベンダーの強みを生かし、AWSやMicrosoft Azureなど主要ベンダーのクラウドのほか、当社独自のTechnoCUVICやCUVICmc2なども提供しています。オンプレミスのシステムとプライベートクラウド、パブリッククラウドの環境を有機的につなぎ、お客様に最適なシステムへと組み上げるハイブリッドインテグレーションもCTCならではの大きな特長です。今後もお客様が適材適所でクラウドサービスを使い分け、業務課題を解決していただけるよう、ハイブリッドクラウドのノウハウを生かした、様々なサービスを提供していきます。
- また、クラウドを含めたリカーリング(継続課金型)ビジネスの拡大も重点項目に掲げています。クラウドサービス、基幹系システムの運用サービス、セキュリティサービス(MSS)を強化していきます。グローバル化が進み、ミッションクリティカルなビジネスが拡大する中、お客様のITシステムやデータセンターの運用管理、ビジネス継続を担保するシステム保守・サポートがさらに重要性を増していきます。
- 複雑化するサーバー攻撃からシステムを守るセキュリティ対策も重要で、この分野でもマルチベンダーの強みを生かして、CTCのセキュリティ・オペレーション・センターからお客様のシステムへの脅威を24時間365日監視し続けています。さらに、世界の様々な箇所で発生している脅威や脆弱性の情報を収集し、独自の脅威データベース「Threat Intelligence Lab」も構築しています。
- 私たちが長年マルチベンダー環境で培ってきた高い技術力と問題解決能力が、様々な分野で必ずお役に立つと信じています。
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