コーヒーハンター José. 川島 良彰の珈琲をめぐる冒険
第2話
いざ、ブルーマウンテンへ あらがえぬ障害、あくことなき前進
José. 川島 良彰[ホセ・かわしま・よしあき]
株式会社ミカフェート 代表取締役社長
日本サステイナブルコーヒー協会 理事長
チャレンジコーヒーバリスタ 実行委員長
1956年静岡県生まれ。大学留学のためエルサルバドルへ。当時、世界の3大研究所の1つであった国立コーヒー研究所に入所。大手コーヒー会社で農園開発を手掛けたのち、2008年、株式会社ミカフェートを設立。CTCひなり運営の「HINARI CAFE」の監修も手掛ける。主な著書に『私はコーヒーで世界を変えることにした。』(ポプラ社)、『コーヒーで読み解くSDGs』(ポプラ社)、『コーヒーと内戦』(平凡社)など。名前のJosé.(ホセ)は外国での愛称。
1981年11月、25歳の僕はカリブ海の島国、ジャマイカの空港に降り立っていた。
経緯はこうだ。エルサルバドルの政情が安定するまでと避難していたロサンゼルスに、直々に訪ねてきた神戸のコーヒー会社の会長から、あるプロジェクトの技術者として誘いを受けた。コーヒー研究所に戻る気だった僕は誘いを断ったが、エルサルバドルの政情は、さらに悪化。天職だと思っていた研究所に戻ることは、不可能だと観念し、失意の中、帰国した。会長から、帰国したら連絡をくれ、と言われていたことを思い出し、連絡をすると、あれよあれよと入社が決まった。僕に託されたミッションは、日本初の海外のコーヒー農園開発。しかもその舞台は、ジャマイカの最高峰ブルーマウンテンだ。
高級コーヒー豆の名として知られるブルーマウンテンには、昼間に霧が出る影響で、1日に2度の寒暖差ができるエリアがある。そのおかげで、おいしいコーヒーチェリーが実る。1982年の元日から、僕は会社が最初に購入した山脈の南斜面に位置する、東京ドーム7個分の面積の農園を手掛けることになり、農園内で暮らし始めた。植民地時代の1805年にイギリス総督が建てた邸宅は、治安の悪いキングストンより安全だったが、1人で住むには大きすぎて、暗闇に包まれる夜はとても怖かった。英語もしゃべれず、初めてのことばかり。不安なことは多々あったが、研究所に戻れず意気消沈していた僕にとっては、不安より、コーヒー栽培に関われる喜びで、新たな挑戦への希望が勝っていた。
とはいえ、現実はそんなに甘くはない。ジャマイカの栽培技術は、エルサルバドルに比べ20年は遅れていた。すぐさま農園に近代技術を導入したかったが、その前に労使問題が立ちはだかった。前オーナーが賃金未払いの代替に「正社員」として素人の「従業員」付きで農園を売り渡していたのだ。農園スタッフの大半は読み書きができず、何の経験もないのに、新オーナーの日本企業にいきなり賃上げを要求してきた。
コーヒー栽培には手間がかかる。だからこそ、農園で働いてくれる人々との信頼関係が何より大切だ。スタッフに、彼らの持っていない技術をやって見せ、それを教えてできるようにしてあげることで、信頼関係が生まれた。その中から、本当に技術を身に付けたい社員がリーダーとなり労働者をまとめてくれるようになった。やっと近代的農園管理の一歩が踏み出せた。
一難去ってまた一難。会社が所有する3農園のうちの1つが、隣接地からの出火で延焼してしまった。総出で消火に当たり、数時間で鎮火したが、植えたばかりの苗の半分が被害に遭った。この時ジャマイカ人労働者達から、風下から縦列になって下草を刈って火を付けるという山火事の消火方法を教えてもらった。2度目の山火事はさらに大規模で、僕は「消防車を呼べ」と叫んだが、「呼んでも意味がない」とスタッフは相手にしてくれない。どうにか連絡をしたが、消防車が到着したのは2時間後。その上、消防士は「いくらくれるんだ」と、初めから消火をする気もない。山火事は自分で消すしかないと、自分達で鎮火させたが、被害は甚大で東京ドーム1個分ほどの畑が燃えてしまった。気落ちはしたが、それでも逃げ出したいとは思わなかった。自分は、この農園の開発を託されて、ジャマイカまで来たのだ。「どんな時でも、何とかする。自分を必要とする全ての人のために最大限の努力をする」。この地でも、ベネケ大使から学んだストリート・スマートの精神に支えられた。
その翌々年、再び農園がもらい火で激しい山火事に見舞われた時は、三日三晩、不眠不休の消火活動を続けた。中が真空の竹に火が付くと、ヒューと火の玉が頭上を越していき、いつの間にか火の真ん中にいるような状況になった。防火帯を作るのは本当に大変だったが、何度も山火事に遭ううちに上達していた。
コーヒーノキは、根が生きていれば、幹を切って新芽を出させて再生できる。新たに植えると収穫までに3年から4年かかるところを、根が無事であれば2年目から実がなる。大きな被害を受けたが、それでも適切な対処を早急に、地道に行い続け、農園事業は前進することができた。
この後、さらに大きな試練が訪れることを、あの時は、まだ知る由もなかった。
(次回につづく)
第2回 『おいしいコーヒー豆』
写真下、右側のような黄ばんだ豆や欠点豆が
コーヒーのえぐみ、雑味の原因となる。
コーヒー本来のおいしさに出合うためには、豆を選ぶ必要があります。おいしいコーヒー豆とは、きれいな褐色に焙煎された丸みのある形のもの。皆さんが思い浮かべるであろう“あの”コーヒー豆です。そんな当然のことを、と思われるかもしれませんが、市販のコーヒー豆の袋には、そうでない豆が含まれていることが多いのです。試しに、市販のコーヒー豆を買い、白い紙の上に出してみてください。大抵、黄ばんだ豆や欠けた豆、虫食い豆などが含まれています。完熟したコーヒーの実から取り出したコーヒー豆は、焙煎すると、こんがりとした褐色になります。しかし、未成熟の豆は他の豆より色が明るく黄ばんでいます。これがえぐみ、雑味の原因となるのです。割れた豆や空洞・虫食いのあるような欠点豆も味を落とす要因の一つです。皆さんが買ったお米の中に、欠けたり虫食いや変色したお米があったら、返品しますよね。しかし多くの消費者は、不揃いな豆を見てもそれがコーヒーだと思ってしまっています。挽いた状態で購入したコーヒー豆では、元がどんな品質の豆であったかを知ることができません。ぜひ一度、ご自分が飲んでいるコーヒー豆を、じっくり観察してみてください。不揃いな豆を取り除くとコーヒーがおいしくなります。
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