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IDは新しい境界線|認証・認可、特権管理、APIセキュリティ概略

セキュリティ

公開日:2026.04.22

IDは新しい境界線|認証・認可、特権管理、APIセキュリティ概略

    IDは新しい境界線|認証・認可、特権管理、APIセキュリティ概略

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    4月は新入社員の入社や人事異動が重なり、IDの新規追加や権限変更といった対応が一気に殺到する時期です。
    利用者の立場からすると、「システムごとにIDやパスワードが必要で、管理が大変だ」と感じる場面は少なくないでしょうし、管理者にとっても、アカウントの新規作成や更新、削除対応に追われ、運用負荷が高くなりがちです。

    とはいえ、こうしたID管理を適切に整理しないまま運用を続けていると、脆弱なパスワードの放置や不要なアカウントや権限の残存といった問題が生じ、看過できないセキュリティリスクにつながります。

    また、「認証や認可をどう捉え、どう設計すべきか」という認識が薄いと、クラウドやAPIが当たり前の現代のシステム環境において、重大なセキュリティ事故につながりかねません。

    本記事では、IAM/PAM/IGA/ISPM/ITDR/NHI/API SecurityといったID関連領域を整理しながら、なぜセキュリティにおいてID管理が重要なのかを今後の展望とあわせて解説します。
    S【毎月上書き】攻撃観測レポート

    なぜID管理・認証認可が重要なのか?

    クラウド利用の拡大、SaaSの普及、リモートワークの定着化、それにともなうゼロトラストアーキテクチャの浸透により、企業システムの構成はここ数年で大きく変化しました。このような環境の変化において、セキュリティ対策の中で重要度が著しく増したのが IDと認証・認可 です。

    もちろん、旧来からセキュリティ対策における1丁目1番地として知られていましたが、セキュリティではなく、IT運用の単なる1要素として扱われてきた側面もあるのではないでしょうか。

    現在のITシステムでは、すべてのアクセスは必ず何らかのIDが伴います。
    ユーザー名やメールアドレスなどが代表的なものですが、人間のユーザーIDに限らずアプリケーション、バッチ処理、API、CI/CDパイプラインなども全て何らかのIDが含まれます。

    こうしたIDや権限を適切に制御し、「誰が、何を、どこまで実行できるのか」を明確に管理することが、ID管理における最も重要なポイントとなります。その中核をなす原則は、次の2点です。

    • 認証(Authentication)
      その主体が、本当に正当な利用者であるかを確認すること

    • 認可(Authorization)
      その主体に、その操作や権限が与えられているかを制御すること

    この認証と認可を適切に制御できなければ、本来アクセスを許可すべきでない外部の第三者や、権限を制限すべき一般ユーザーに対して、社内システムや重要なデータへのアクセスを許してしまうことになります。

    さらにゼロトラストという考え方が広まり、場所を問わずあらゆるアクセスを検証する必要がある中、「誰が何に対してアクセスしようとしているのか」を判別する唯一の鍵となるのが「ID」です。

    すでにオンプレミスの認証サーバなど物理的なネットワーク境界で守られていた時代から、「IDこそが新たな防御境界(Identity is the new perimeter)」として、セキュリティの核を担う時代へとシフトしました。IDの掌握がシステム侵害に直結するからこそ、その管理には何よりも優先して取り組む必要があります。

    認証・認可の侵害がもたらす致命的リスクと実例

    ID関連の侵害は、技術的に派手ではなくとも、被害が非常に大きくなる傾向があります。

    代表的な被害例としては以下のようなものがありますが、最終的に攻撃者が正規のIDを使って侵入している点が特筆すべき点です。この状態ではログ上も通常操作と区別がつきにくく、検知が遅れやすいという側面があります。

    ひとたび内部への侵入を許せば、そこから先は攻撃者に主導権を握られ、ランサムウェア被害や情報の窃取、データ破壊など、これまでにも繰り返し報告されてきたような甚大な影響を及ぼすインシデントへと連鎖していくことになります。

    1. ID・認証情報の漏えいと窃取

    • 認証情報の窃取:フィッシング等でユーザーIDを収集。

    • 認証情報の露出: GitHub等の公開リポジトリへAPIキーやトークンを誤設定により露出してしまい、クラウド環境へ直接侵入される。

    • 認証基盤への攻撃(※): 認証サーバ自体の脆弱性を突き、セッションハイジャックや認証トークンの偽造(ゴールデンチケット攻撃など)を行う。

    • 管理の形骸化: 退職者・委託先アカウントの削除漏れや、管理者IDの使い回しによる「身元不明の正規操作」の発生。

    ※実態として認証基盤への直接的な攻撃よりもフィッシング等での認証情報収集およびなりすまし行為が多く報告されています。

    2. 認可ロジックの改ざんと権限昇格

    • 過剰権限の悪用: アプリケーション用(サービスアカウント)に付与された広範な権限を悪用し、システム全体をスキャンして大量の情報を隠密に取得する。

    • 権限昇格: フィッシング等で奪った一般ユーザーIDを起点に、設定の不備を突いて管理者権限へ段階的に昇格(ロールの乗っ取り)する。

    • 認可制御の不備(BOLA/IDOR ※): APIのパラメータを書き換えることで、本来アクセス権のない他人のデータにアクセスしたり、操作権限を不正に取得したりする。

    ※BOLA/IDOR:自分以外のデータに不正にアクセスできてしまう」という認可制御(権限のチェック)の不備。主にアプリケーションやAPIの文脈で用いられる。

    3. ID侵害に共通する脅威の本質:検知の困難性

    • ログの死角: 既存のセキュリティ製品からは、正規の認証を経た操作が「異常」に見えにくく、不審な挙動として検知されるまでに長い時間を要する。

    「Identity is the new perimeter(IDこそが新たな境界線)」と言われる理由は、まさにここにあります。ID情報の漏洩や認可ロジックの改ざんによって被る影響は致命的なものとなり、そのため、ゼロトラスト環境では「一度の認証」に留まらず、操作ごとにコンテキスト(誰が、いつ、どこから、何を)を検証し続ける下記の様な継続的な認証・認可が不可欠となります。

    • 動的な検証: ユーザー名とパスワードだけでなく、多要素認証(MFA)、デバイスの状態、場所、時間帯などを組み合わせて「本人であること」を常に厳格に確認。

    • 最小権限の原則: 認証されたIDに対しても、業務に必要な最小限のリソースへのアクセス権限(認可)しか付与しない。

    ID関連セキュリティ領域の整理

    ここからは、よく登場する用語を役割ごとに整理します。

    IAM(Identity and Access Management)

    認証と認可の中核となる基盤です。「システムに入るための鍵」を提供する存在と言えます。

    • ユーザー認証(パスワード、MFAなど)

    • アクセス制御(RBAC、ABAC)

    • シングルサインオン(SSO)

    • 条件付きアクセス

    IGA(Identity Governance and Administration)

    IDと権限が常に正しい状態であることを保証する仕組みです。IAMが「ログインできるか?」を扱うのに対し、IGAは「そもそもその権限を持つべきか」を判断します。

    • 入社・異動・退職に伴うIDライフサイクル管理

    • 権限付与・剥奪の申請と承認

    • 定期的なアクセスレビュー(棚卸)

    • 監査証跡の維持

    PAM(Privileged Access Management)

    特権IDの利用を安全に制御するための領域です。侵害された際の影響範囲が極めて大きいため、一般ユーザーIDとは明確に分けて管理する必要があります。

    • 管理者IDやroot権限の貸し出し         

    • パスワードや秘密情報の保管

    • 特権操作の記録・監視

    • Just-In-Timeアクセス

    ISPM(Identity Security Posture Management)

    ISPMは、ID設定の健全性やリスクを継続的に可視化する概念となり、クラウド環境におけるCSPMのようにID設定の状態監視を行い不備を防ぐための重要な視点です。

    • 過剰権限の検出

    • MFA未設定アカウントの発見

    • 攻撃経路(Attack Path)の可視化

    • クラウドID設定のドリフト検知

    ITDR(Identity Threat Detection and Response)

    IDを起点とした攻撃を検知・対応するための領域で、EDRが端末挙動を見るのに対し、ITDRはIDの振る舞いに注目します。

    • 不審なログイン挙動の検知

    • 権限昇格や横移動の兆候把握

    • IAM/PAM/EDR/SIEMとの連携

    • インシデント対応の自動化

    NHI(Non-Human Identity)

    非人間IDを指します。クラウド環境やAPI、AIエージェントなどが頻繁に多用されるシステムでは、これらの数は人間のIDを大きく上回り、管理されないまま放置されやすい点が大きなリスクとなっています。

    • サービスアカウント

    • APIキー

    • OAuthトークン

    • 証明書、シークレット

    API Security

    直接的に認証・認可の範疇ではないですが、APIに対する認証・認可、利用制御全般を扱いNHIと密接に結びつく領域です。

    • APIキーやトークン管理

    • スコープ・権限設計

    • 異常なAPI利用の検知

    • 内部APIの露出防止

    これらソリューションの大まかな連携イメージはこちらとなります。

    IDセキュリティ主要コンポーネント(IAM・IGA・PAM・ITDR・ISPM・NHI・APIセキュリティ)の連携構成図

    セキュリティにおけるIDの今後の展望

    今後のセキュリティにおいて、IDは単なるログイン管理の仕組みではなく、システムやサービスがどのような行動を取れるかを制御する基盤として、より重要な役割を担っていくと考えられます。

    クラウドサービスの高度化や自動化の進展により、APIやサービスアカウントなどの非人間ID(NHI)はすでに人のIDを大きく上回る規模となっています。今後も、自動化処理や業務支援ツール、分析基盤の増加に伴い、「人が直接操作していないにもかかわらず、権限を使って処理が実行される」場面はさらに増えていくでしょう。このような環境では、下記の様な項目を継続的に見直すことが不可欠になります。

    • すべてのIDが監視できているか?

    • どのIDにどこまでの権限を与えるべきか?

    • その権限が現在も適切か?

    • 想定と異なる使われ方をしていないか?

    そのため、IAMによる認証・認可に加え、IGAによる統制、ISPMによる可視化、ITDRによる挙動検知といった考え方は、今後ますます重要性を増していくでしょう。

    また、ここ数年で生成AIやAIエージェントの利活用が急速に進み、ツールやAPIを呼び出しながら複数のシステムを横断的に処理する仕組みが爆発的に増えており、その結果、「その処理は、適切なIDと権限のもとで実行されているのか」という問いが、新たな課題として顕在化してきています。

    AIが人の代理として操作を行うケースもあれば、サービスアカウントやトークンを用いた非人間IDとして振る舞う場合もあり、もはや「人のID」だけを前提とした設計では不十分です。
    これからのシステムには、人とAI、自律的に動作するエージェントの存在を前提とした、より包括的で厳密なIDおよび権限設計が求められるでしょう。

    まとめ

    クラウドやSaaS、AIの普及により、ID・認証・認可はセキュリティの中核として改めて再認識されています。ランサムウェア攻撃における内部侵入フェーズでは、攻撃者が正規のIDを窃取し、正当な利用者を装って“正規ルートで侵入する”ことが当たり前の手法となっており実際、多くの被害事例において、侵入口として有効な認証情報の悪用が確認されています。

    この実態を踏まえると、この実態を踏まえると、IAM による認証・認可だけでなく、IGA による統制、PAM による特権管理、ISPM や ITDR による可視化と検知を組み合わせ、ID のライフサイクル全体を守ることが不可欠です。

    また、人だけでなくAPIやサービスアカウントといった非人間IDへの対応も日に日に重要性が増しており、「人中心」から「人とシステム双方を含めて管理する」方向へと進化していくでしょう。

    将来的には、侵害や誤動作を前提にしつつ、影響を最小化するためのID設計と運用が、セキュリティの基本となっていくのではないでしょうか。


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    執筆者情報

    鵜重 翔一

    OT環境における物理防御システム設計および計装エンジニアを経て、ネットワークセキュリティ、エンドポイントセキュリティ製品のプリセールスSEとして幅広く活躍。現在は脅威インテリジェンスサービスやクラウド、AIなど先進的なセキュリティの提案活動と並行して、普及・啓もう活動に従事。

    保有資格:CISSP, CCSP, 情報処理安全確保支援士

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