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Platform Engineering入門【前編】│経営・ITリーダー層が知っておくべきソフトウェアの生産性を劇的に高める基盤作りの新潮流

- 1. ソフトウェア開発の生産性が意味するところ
- 2. 生産性を鈍らせる要因
- 3. 「Platform Engineering」の本質的な価値
- 4. 国内で加速するPlatform Engineeringの普及
- 5. Platform Engineeringが経営・ビジネスにもたらす4つの効果
- 5-1. ソフトウェアの生産性向上とビジネス機会の拡大
- 5-2. セキュリティガバナンスの自動化
- 5-3. クラウドネイティブ技術活用の促進
- 5-4. AI活用基盤の整備
- 6. 経営・ITリーダー層が知っておくべきPlatform Engineeringを成功に導くポイント
- 6-1. 「現状の見える化」から始める
- 6-2. スモールスタートを心掛ける
- 6-3. 適切なパートナーを選ぶ
- 6-4. 「技術の導入」ではなく「組織変革の施策」として捉える
1. ソフトウェア開発の生産性が意味するところ
企業によるDXの取り組みが本格化・常識化している近年、自社の商品・ビジネスの付加価値を高めるソフトウェアをいかにスピーディにリリースし、ニーズの変化に応じて強化・改良していけるかが、経営戦略上の重要課題になっています。
そのため、多くの企業がソフトウェア開発チームの生産性向上に取り組んでいます。
ここでいう「生産性の向上」には、リリーススピードだけでなく、サービス品質を高く保つことも含まれます。実際、開発のスピードがいくら速くても、成果物の処理性能(パフォーマンス)や稼働の安定性、セキュリティレベルが低ければ、商品・ビジネスの付加価値向上にはつながりません。それどころか、低品質のソフトウェアは、自社の業務効率やビジネススピード、さらには社会的な信用・信頼を損なうリスクをはらんでいます。
2. 生産性を鈍らせる要因
とはいえ、開発スピードと品質を両立させるのは簡単ではありません。大きな理由の1つは、開発チームの多くが、本来の開発業務とは別の作業に相当の時間と労力を取られているからです。
例えば、開発チームが新規プロジェクトを立ち上げる際には、以下のような作業を事前に処理しなければならないのが通常です。
使用する開発ツールの調査と取捨選択
ツールのメンバーへの教育
運用チームへのインフラ準備の依頼(開発・テスト・本番稼働用インフラリソース確保の依頼)
開発・テスト環境の構築
これらの作業には相応の時間が取られ、実際の開発に着手する(コードを書き始める)までに数日を要することもあります。
加えて、近年はソフトウェアの構造が複雑化し、機能の追加・変更によって想定外のトラブルが発生したり、セキュリティ上の脆弱性が混入したりするリスクが大きくなっています。そのため、ソフトウェアの全体構造を把握し、相当のスキルと経験を有する一部の上級エンジニアに品質維持の責任が集中し、その入念なチェックを経なければ、開発が前に進められなくなることがあります。この少数の個人に依存した体制も、ソフトウェアの生産性を鈍らせてきた一因といえます。
さらに、ソフトウェアの複雑化は、監視・運用の難度を高め、システムトラブルの発生時にその原因がどこにあるかを突き止めるプロセスも煩雑にします。結果として、運用・監視業務の属人化を招き、担当者の不在時に原因究明や対処が困難になるという問題につながります。
こうした課題は、CTCの調査データ「クラウドネイティブ取組実態調査レポート2026年4月版」(以下:CTC調査/年商1,000億円以上の大手企業が対象)でも裏付けられています。ソフトウェア(アプリケーション)開発・運用における最大の課題として、最も多くの企業(35.9%)が「運用・監視作業の属人化」を挙げ、「運用への引き継ぎの煩雑さ」(26.4%)や「インフラリソースの効率的な配布・管理」(20.4%)を挙げる企業も増えています(図1)。

図1:ソフトウェア(アプリケーション)開発・運用を巡る課題
出典:伊藤忠テクノソリューションズ「クラウドネイティブ取組実態調査レポート2026年4月版」から引用
この結果から分かるのは、個人の経験やスキル、勘に頼った開発・運用からの脱却がソフトウェアの生産性向上には不可欠であることです。つまり、経験の浅いエンジニアでも、品質の高いソフトウェアを速やかにリリースできるシステムを構築することが必要であり、そのための取り組みが「Platform Engineering」です。
3. 「Platform Engineering」の本質的な価値
Platform Engineeringをひと言でいえば「開発エンジニアが、使いたい時にすぐ使える標準化された開発環境を、セルフサービスで利用できるようにするプラットフォーム構築の取り組み」です。開発エンジニアは、Platform Engineeringによって実現されたポータル画面を通じて、必要な環境を数クリックで呼び出せるようになり、ツール選定や開発環境構築に煩わされることなく、本来の開発業務に専念できるようになります(※1)。
この取り組みの本質的な価値を理解する上で欠かせないのが「シフトダウン」という概念です。
シフトダウンとは、セキュリティ・信頼性・パフォーマンスの確保といった、品質にかかわる責務を開発プラットフォームに組み込み、開発エンジニアが意識せずとも自動でルールに準拠できるようにするアプローチです。
これまで、品質にかかわる責務履行を開発工程の早い段階(設計段階など)へ前倒しする「シフトレフト」というアプローチが注目を集めてきました。
このアプローチは、開発品質を高める上で有効ですが、開発エンジニアに品質確保の作業負担・責任を全て背負わせる点で問題がありました。その負担を人ではなくプラットフォームに担わせて、品質管理のプロセスを自動化するのがPlatform Engineeringの考え方です(図2)。

図2:「シフトレフト」と「シフトダウン」の違い
Platform Engineeringは、開発チームの在り方を大きく変革しうる取り組みでもあります。従来の開発チームは、特定の上級エンジニアの知識・経験・ノウハウの上で成り立ってきました。Platform Engineeringは、そうした上級エンジニアの「職人技」を標準化・抽象化し、誰もがセルフサービスで利用できる形に作り変えます。これにより、開発チームの業務モデルは、個人の力に依存した労働集約型から「システム化されたサプライチェーンモデル」へと転換されます。
※1 参考コラム:開発者の認知負荷を軽減する「Platform Engineering」の基本と実践|クラウドネイティブ技術の活用をより簡単にするソリューションとは?
4. 国内で加速するPlatform Engineeringの普及
ソフトウェア開発の方法論はウォーターフォールからアジャイルへ、そしてDevOpsへと発展してきました。
DevOpsとは「開発(Development)」と「運用(Operation)」を組み合わせた造語であり、開発チームと運用チームを一体化させ、ソフトウェアの設計から開発・テスト・デプロイ(本番環境への展開)・運用・監視・改善のサイクルを効率的に回すための方法論です。その実践により、ソフトウェアのリリーススピードと品質を両立させることが可能になります。
ただし、DevOpsは、チームごとに活用するツールが異なっていたり、品質を確保するプロセスが属人化したりして「スケールの限界」に直面しました。
その中で、共通の指標・ツール・手法のもとでDevOpsのスピードと信頼性を両立させる取り組みとして「SRE(Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング)」が登場し、企業での導入が活発化しました。Platform Engineeringは、このSREの取り組みをシステム的に支えるもの、あるいは自動化するものといえます。まとめれば、Platform Engineeringは、DevOpsの理想を、多数のチームからなる開発・運用組織全体にスケールさせるための実践的アプローチであるといえます。
そうしたPlatform Engineeringの普及を後押ししているのが、開発現場におけるクラウドネイティブ技術の浸透です。
CTC調査を見ると、クラウドネイティブ技術の中心をなす「コンテナ技術」の企業(大手企業)の導入率は7割強で定着しています。これは、技術浸透が一巡し、企業の関心が「コンテナ技術を使うかどうか」から「どう活用して成果を出すか」へ移行しつつあることを示しています。
その変化の中で、コンテナ技術を有効活用する手法として注目を集め、急速に普及し始めているのが、Platform Engineeringです。CTC調査でも、コンテナ技術を利用している大手企業の18.4%がPlatform Engineeringを「全面的に導入」しており、「部分的に導入」と合わせた導入率は72.5%に達しています。さらに、導入を「検討中」とする企業も20.7%に上っています(図3)。

図3:国内大企業におけるPlatform Engineeringの導入状況
出典:伊藤忠テクノソリューションズ「クラウドネイティブ取組実態調査レポート2026年4月版」から引用
5. Platform Engineeringが経営・ビジネスにもたらす4つの効果
Platform Engineeringの導入には、様々な効果が期待できます。今回のCTC調査では、期待する効果として「運用チームの業務効率化」(49.6%)や「開発者の生産性・自律性の向上」(49.6%)、「システム全体の信頼性向上」(49.6%)などが上位に挙げられています(図4)。

図4:Platform Engineeringに期待する効果
出典:伊藤忠テクノソリューションズ「クラウドネイティブ取組実態調査レポート2026年4月版」から引用
以下、こうした効果を大きく4つに整理します。
5-1. ソフトウェアの生産性向上とビジネス機会の拡大
Platform Engineeringの導入によって開発エンジニアは本来の開発業務や商品・ビジネスの付加価値創出に集中できるようになります。これによって企業は、ソフトウェアの生産性を向上させ、市場変化や顧客要求への対応スピードを向上させられます。結果として、より多くのビジネス機会を手にできる可能性が広がります。
また、標準化された開発環境をセルフサービスとして提供することで、開発チームの自律性が高まります。結果として、現場の斬新なアイデアや革新技術を取り入れたソフトウェアを市場にタイムリーに投入できる可能性が大きくなります。
5-2. セキュリティガバナンスの自動化
Platform Engineeringにより、開発のセキュリティガバナンスを自動化できます。これは、ソフトウェアの生産性向上に非常に有効であり、その効果への期待は大きく、CTC調査でも、開発現場が生産性向上のために最も重要と考える領域として「セキュリティ・コンプライアンスの自動適用」(53.7%)が挙げられています(図5)。

図5:開発現場が生産性向上で重視する領域(トップ3)
出典:伊藤忠テクノソリューションズ「クラウドネイティブ取組実態調査レポート2026年4月版」から引用
5-3. クラウドネイティブ技術活用の促進
Platform Engineeringは、開発チーム(あるいは、DevOpsチーム)によるクラウドネイティブ技術の有効活用を促進する取り組みでもあります。
コンテナ技術をはじめ、コンテナ化されたソフトウェアのデプロイ・スケーリング・ネットワーキングなどを自動化する「コンテナオーケストレーション」ツールや、ソフトウェアの変更・テスト・デプロイを自動化する「CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)」ツール、さらには、アプリケーションとインフラの状態を可視化する「オブザーバビリティ(可観測性)」ツールといったクラウドネイティブ技術は、DevOpsの理想を実現する上で有用な仕組みです。ただし、これらの扱いは難しく、多くの企業が導入・活用を外部ベンダーによる支援のもとで推し進めています。
一方で、クラウドネイティブ技術を自力で有効活用したいと望む企業も多く、CTC調査でも回答企業の半数近い44.9%が「自走を促す環境の提供」をパートナー企業に求めています。
Platform Engineeringは、クラウドネイティブ技術の複雑性を意識させず、機能を抽象化して開発エンジニアが簡単に活用できるようにします。そのため、当該技術に精通していなくても有効活用が図れます。
5-4. AI活用基盤の整備
Platform Engineeringは、AI活用を支える基盤そのものを整える取り組みでもあります。
CTC調査では、企業の約半数(45.2%)が、クラウドネイティブ技術の主な適用領域として「データ分析基盤・AI基盤」を挙げています。クラウドネイティブ環境は、すでにAIを動かすための基盤として位置づけられ始めているということです。加えて、クラウドネイティブ技術を使った開発環境(あるいは、DevOps環境)でのAI活用率も54.8%と過半数に達しており、AIを「動かす場所」としても「使う場所」としても、クラウドネイティブ環境への期待が高まっています。
こうした傾向は世界的な潮流でもあり、Platform Engineeringは「AIによる開発プラットフォームの強化」と「AI/機械学習(ML)ワークロードに最適化されたプラットフォームの構築・整備」という2つの責務も担っています。
例えば、Platform Engineeringの推進により、AIシステムをコンテナ化し、リリースと改善のサイクルを効率的に回すプラットフォームが実現されます。また、Platform Engineeringでは、開発・運用のワークフローをコードで定義し、実行履歴がログとして蓄積されるため、AIが開発プロセス全体の文脈(コンテキスト)を学習・理解する土台にもなります。それを通じてAIは、コード生成や品質改善提案の精度を高められます。
6. 経営・ITリーダー層が知っておくべきPlatform Engineeringを成功に導くポイント
Platform Engineeringを成功させるために経営・ITリーダー層が押さえておくべきポイントは、以下の4点に整理できます。
6-1. 「現状の見える化」から始める
出発点は、自社の開発組織のどこにボトルネックがあるかを把握することです。
例えば、開発チームのエンジニアが「本来の開発タスク以外の作業に1日何時間を費やしているのか」「インフラ確保の申請・承認やソフトウェアのデプロイにどれだけのリードタイムがかかっているか」といった点を計測して可視化することから始めます。
また、「属人化」や「引き継ぎの煩雑さ」といった問題は、定量的に計測されないまま放置されがちです。ただし、Platform Engineeringに着手する際には、こうした課題も計測・可視化し、効果を定量的に把握できるようにしておくことが大切です。
6-2. スモールスタートを心掛ける
Platform Engineeringの導入当初から、全ての機能を揃えた完璧なプラットフォームを目指す必要はありません。逆にそれを目指すと、構築に時間がかかりすぎ、現場が直面する課題へのタイムリーな対応ができなくなります。
したがって、着手時には、セキュリティの自動適用や開発環境の標準化など、最も解決が急がれる課題領域に焦点を絞り、スモールスタートで取り組みを始めることが大切です。要するに、最初に構築するプラットフォームは「MVP(Minimum Viable Platform:最小実用構成)」であることが望ましいといえます。その上で成果を積み上げ、Platform Engineeringの適用範囲を段階的に広げていくことが大きな成功につながります。
6-3. 適切なパートナーを選ぶ
企業へのPlatform Engineeringの導入は進んでいますが、技術的なハードルは低くなく、多くの企業が外部ベンダーの支援を受ける形で導入を進めています。この傾向は今回のCTC調査にも表れており、Platform Engineeringの導入プロセス(導入手段)として最も多かった回答は「ベンダーからの技術者派遣」(64.3%)であり、自社単独での導入(34.4%)を大きく上回っています(図6)。

図6:Platform Engineeringの導入プロセス
出典:伊藤忠テクノソリューションズ「クラウドネイティブ取組実態調査レポート2026年4月版」から引用
この結果からは、Platform Engineeringの成否にはベンダーの力量が少なからず影響することが分かります。ゆえに、導入支援ベンダーを選ぶ際には、その力量を見極める必要があります。
なお、CTCは2026年6月、ドイツのPlatform Engineering Masters社が運営する認定制度において、国内で初めて「認定サービスプロバイダー(Certified Service Provider)」に認定されました(※2)。これは、お客様企業に向けてPlatform Engineeringを実運用レベルで実装してきた実績が評価されたもので、その実績を土台に支援に力を注いでいます。
6-4. 「技術の導入」ではなく「組織変革の施策」として捉える
Platform Engineeringは、単なる技術導入ではなく、開発組織を変革して生産性を向上させ、それを企業競争力の強化につなげる取り組みです。
ゆえに、この投資は、単なる「ITコスト」ではなく、経営上の「戦略投資」として捉えることが大切です。
とりわけ、生成AIの登場以降、DXを巡る企業間競争は激しさを増し、AIによる業務・ビジネス変革をいかにスピーディに実現できるかが問われ始めています。このDX競争の時代で勝ち残るには、AI活用基盤を整えることが急務であり、そのための有効な手段がPlatform Engineeringです。この取り組みにどの程度の力を注ぐのか、あるいは、どのような投資でいかなる基盤作りを目指すかは、次の時代での勝ち残りをかけた経営判断です。その意味でもPlatform Engineeringには、経営層の積極的な関与が不可欠です。
なお、本稿の後編では、CTCでPlatform Engineeringを担当するエンジニアが、この取り組みの実践ノウハウと導入を成功に導く進め方をより具体的に示します。
※2 参考:国内初、CTCがプラットフォームエンジニアリングの「認定サービスプロバイダー」に認定(2026年6月19日)
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