約30名のシステム利用者と共に、基幹システムの新たな指針を作り、システムを「ツール」から「パートナー」へと再定義
導入事例インタビューデータ
- 会社名
- スズキ株式会社
- 所在地
- 静岡県浜松市中央区高塚町300
- 事業内容
- 四輪車・二輪車・船外機・電動車いす等の製造・販売
- URL
- https://www.suzuki.co.jp/
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左から、グッドパッチKai氏、グッドパッチ遠藤氏、スズキ三浦氏、スズキ川井氏、スズキ竹内氏、スズキ大井氏、スズキ正畑氏、CTC友井、CTC垂水
インタビュープロフィール:
スズキ株式会社
ITシステム部 技術システム課
課長 竹内 希茂氏
係長 大井 一樹氏
正畑 和彦氏
川井 愛里奈氏
三浦 裕真氏
株式会社グッドパッチ
デザインストラテジスト 遠藤 英之氏
UIデザイナー Kai Qin氏
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
中日本営業本部 中日本営業第3部 主任 友井 大輔
中日本技術本部 中日本SI第4部 垂水 奏太
基幹システムリニューアルに踏み切った背景
スズキ様の情報管理を20年にわたり支えてきた図面管理システム「STAGE」と文書管理システム「SUIT-DB」。自動車の設計から生産までをつなぐ全社共通の基幹システムとして、国内外の幅広い現場で活用されてきました。長年の運用を経て、今回大規模なシステムリニューアルに踏み切った背景には、現場で抱えていた複数の課題がありました。
左から、大井氏、正畑氏
大井氏:ユーザーの要望に応えるかたちで部分的な改修を重ねてきた結果、システムが次第に複雑化し、自分たちでは管理しきれない状態になっていました。さらに膨大な情報を扱う基幹システムだからこそ、「下手に触って止めるわけにはいかない」という心理的なハードルもあり、改善したくても手をつけにくい状況が続いていました。
正畑氏:加えて、運用とサポートで手一杯で、新しい技術動向をキャッチアップする余裕がない状況でした。
大井氏:このように改善に踏み出しにくい状況が続く中、「このままでは将来的な事業成長に必要なスピードや柔軟性に対応できない」という危機感が、今回のシステムリニューアルの大きな決断につながりました。
デザイン思考という新しいアプローチとの出会い
基幹システムのリニューアルにあたっては、従来の延長では解決できない複数の課題が見えてきました。そこで求められたのは、システムの作り方そのものを見直し、ユーザー視点で未来を構想する「デザイン思考」というアプローチです。
友井
友井:2023年、文書管理・図面管理システムを新しいパッケージへ置き換える案が検討されました。しかしお話を聞く中で、スズキ様特有の業務フローや運用ルールが多く、既存のパッケージではフィットしないことに気づきました。いくつかデモを見ても、そのまま置き換えるアプローチでは限界がある。そこで、“取り組み方そのものを整理するフェーズが必要だ”という結論に至り、その中で出てきたキーワードが「デザイン思考」でした。
竹内氏:ITシステム部門としても、単にシステムを提供するだけでなく、社内にSaasを提供するような視点で取り組みたいという考えがありました。ユーザーの声を吸い上げながら、より良いサービスとして磨き続ける――。そのアプローチとしてデザイン思考は非常に相性が良いと感じました。
友井:CTCにはデザイン思考を取り入れて新規ビジネスやシステム構想を共創する「Buildサービス部」という部署があります。同部はデザインファームの株式会社グッドパッチ(以下、グッドパッチ)と資本業務提携しており、人材交流も活発です。その強みを生かせば、SIerだけでは提供できない“デザインの力”を組み込んだ提案ができ、私たち自身も納得感を持ってプロジェクトを進められると感じました。グッドパッチを巻き込んだ共創は、他社にはない大きな差別化ポイントになると考えました。
大井氏:全体として、「手厚く寄り添ってくれそうだ」という安心感に加え、担当者の熱意がまっすぐに伝わってきました。また、人員体制が明確で、進め方も具体的に示されていたことで、このチームなら確かなアウトプットに導いてくれるという信頼感が生まれたことが、選定の決め手になりました。
未来から発想し、システムの役割を再定義
今回のプロジェクトは、リニューアルに向けて課題や理想の姿を丁寧に整理するため、システム利用者に参加いただく全4回のワークショップを開催することからスタートしました。設計・生産・デザインなど、所属が多岐にわたる約30名が参加し、6つのグループに分かれて議論を進めました。そして、本ワークショップの最大の特徴は、「2040年の未来」から発想するバックキャスティングの手法を取り入れたことです。
遠藤氏
大井氏:従来のように“今の課題”から入るのではなく、未来起点でスタートすることで、“ユーザーが本当に必要とする姿”を起点にシステムを考えたかったのです。
遠藤氏:参加者の反応はどうでしたか?
大井氏:最初は戸惑いがありました。「これはシステムの話ではないのでは?」という声もありました。
遠藤氏:ワークショップのアンケートでも、「いつシステムの話になるのか」といった質問が寄せられていましたね。
垂水:システムの議論ではなく、“実現したい未来”をテーマに語り合うことで、参加者の皆さんが生き生きと意見を交わしていたのが印象的でした。2040年という未来を想像しながら自然に対話が深まっていく様子は、こちらにも良い刺激になりました。
左から、大井氏、正畑氏
正畑氏:課題から入ると、どうしても現状の不満に意識が向きがちですが、今回は “現状の問題点”ではなく“将来こう使えたらいい”という前向きな視点が多く出てきました。未来を見据えた発想が自然と生まれたのは、このアプローチならではだと思います。
遠藤氏:全4回のワークショップは、段階的に「STAGE」「SUIT-DB」へと議論を寄せていく構成でした。最初からシステムの話をすると、どうしても現行システムを前提に考えてしまいます。そこで遠回りに見えるかもしれませんが、まずは“未来”という大きな視点からスタートする設計にしました。その一歩を踏むことで、参加者の視点が現状から解き放たれ、“あるべき姿”からシステムを考える土台が形づくられたのだと思います。
本プロジェクトのプロセス
未来を起点に議論を進めたことで、多くのアイデアが生まれました。その中でも特に多く挙がったのが、「AI」と「パートナー」というキーワードです。
左から 川井氏、三浦氏
三浦氏:全体的にAIというキーワードが多く挙がり、参加者の発想が未来へ向かっていることを強く感じました。
川井氏:特に印象的だったのが、AIの上司がいて、その人に仕事を見てもらうというアイデアです。忙しい上司の代わりに、AIと一緒に仕事をするシーンが描かれていて、ユーザーの皆さんがAIを自然に“チームの一員”として捉えていることが伝わりました。
友井氏:ちょうど9月30日にスズキのDX戦略が発表されたのですが、そこでも「人×AIの融合でインフラモビリティへの歩みを加速する」というメッセージが掲げられています。参加者の皆さんは、その発表より前の段階で、すでに同じ未来像を描かれていました。
正畑氏:もう1つ印象的だったのは「パートナー」というキーワードです。情報管理システムを単なるツールではなく、“一緒に働く仲間”としてイメージしている声が多くありました。システム部門だけはどうしても“使ってもらうものを提供する”という発想になりがちですが、ワークショップでは “パートナー” “仲間” という意識が自然と生まれていました。これはまさに、システム利用者の皆さんを巻き込んで進めた成果だと感じています。
未来像を“体験”に変える
ワークショップで生まれた未来のイメージを言葉だけで終わらせないよう、本プロジェクトでは“実際に触れて確かめられる形”としてプロトタイプを制作しました。ワークショップ参加者にも再び集まっていただき、自分たちのアイデアがどのように形になったのかを、UIを操作しながら体験してもらいました。
遠藤氏:未来構想のワークショップは“楽しかった”で終わってしまうケースも少なくありませんが、今回はリニューアルをやり切るところまでがゴールだからこそ、ワークショップで生まれたアイデアを“実際に触れられるプロトタイプ”として形にし、より多くの人に未来を実感してもらう必要がありました。そしてそのプロトタイプは、参加者のみなさんから出たアイデアを基に、AIを活用することを前提にしながら、「パートナー」と「ゲーム」という2つの異なるテーマで制作しました。
Kai氏:あえて「ゲーム」という形にしたのは、提供価値を一番尖らせた形を探るためです。例えば歴史館の展示のように、その部分だけを最大限に楽しめる体験として成立するように仕上げました。
正畑氏:図面の登録や変更のような定型業務もゲーム感覚でできたら楽しいだろうと感じました。また、“パートナー”のシナリオも、ワークショップで出たキーワードをよく汲み取ってくれていました。現行システムの延長線がカスタマイズカーだとしたら、今回のプロトタイプはコンセプトカー。未来のニュアンスをしっかり感じられた、という声が多かったです。
遠藤氏:ワークショップの時点では「AIに全て任せたい」と仰っていた方が、プロトタイプに触れてみて「こんなに楽していいのだろうか」という発言をされていました。頭の中で思い描くだけでなく、実際に触れて体験することで、改めて気づくことがあったのだと思います。
パートナー:対話型AIアシスタント
スムーズな目的達成をサポート。データベースから情報を先回りして提供。人の知見や技術継承も支援。
ゲーム:コンストラクションゲームのような共創体験
ゲーミフィケーションの要素を取り入れ、楽しみながらデータ登録や図面作成ができる体験。
企画構想フェーズの成果―次のフェーズへつなぐもの
企画構想フェーズでは、ワークショップで描いた未来像を起点に、システムの“あるべき姿”を具体的なコンセプトへと落とし込みました。ここで整理した価値観やアイデアは単なる構想にとどまらず、次の要件定義フェーズへと確かな形で継承されています。
竹内氏
正畑氏:“あるべき姿”から考えることで、ワクワクする未来が描けました。機能から入ってしまうとどうしても現行の延長になってしまいますが、今回はコンセプトそのものを新しくすることができました。そのためには、今回のようなプロセスが不可欠だったと思います。
大井氏:当初不安もありましたが、ワークショップを通じて、ユーザーが本当に求めている機能を吸い上げることができました。CTCとグッドパッチの伴走により、未来に必要な機能を整理し、次のフェーズへ確かな形でつなげることができました。
竹内氏:今回のプロジェクトで大きかったのは、システムを「ツール」から「パートナー」へと再定義できたことです。これまで情報を登録・検索する道具として捉えていたものが、未来の業務に寄り添う存在として見えるようになりました。こうした視点の転換は、今回の取り組みがなければ生まれなかったと思います。
友井:今回の取り組みを通じて、デザイン思考の考え方が広がり、新たな価値が生まれていくきっかけになればと考えています。これは単なるシステム刷新ではなく、“未来のスズキをどうつくるか”を皆さまと描いた時間でした。未来への率直な対話から方向性を共につくれたこと、そしてその第一歩をご一緒できたことを嬉しく思っています。
垂水
垂水:企画構想で整理した機能一覧やアイデアは、既に要件定義のインプットとして活用が進んでおり、具体的なシステム像への落とし込みも始まっています。新システムは“各システム・技術データ・人・組織をつなぎ、資産活用を促進するハブ”として位置付けており、その実現に向けて、適切なソリューション選定やスクラッチ/ローコード開発を組み合わせたアーキテクチャ検討も進行中です。
すぐに実現できない機能については、フェーズ2以降で段階的に拡張していく計画で、2040年という大きなゴールに向けて、一歩ずつ着実にプロジェクトを前進させていきます。
要件定義フェーズへのインプット
約半年間の企画構想フェーズを経て、スズキの基幹システム刷新プロジェクトは、要件定義フェーズへと進んでいます。2040年を見据えながら、まずは2026年度末の第一フェーズ稼働を目指し、その後も段階的に進化させていく計画です。
ワークショップから生まれた「AI」「パートナー」、そして体験を楽しむ「ゲーミフィケーション」というキーワードは、今後の開発方針を示す指針としてプロジェクトの中で生き続けています。
CTCは、要件定義フェーズにおいても引き続きスズキ様と伴走し、企画構想で描いた未来像が確かな形になるよう支援を続けてまいります。