Technical Report
DX時代のバリューチェーン
~デジタルヘルスの未来を考える

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
ライフサイエンス事業部長代行
長尾 剛司
ヘルスケア業界においても、IT業界においても、私たちは社会課題を解決できる企業でありたいと考えています。
DX時代に最適なサービス(解)を世の中に提供していくべく、ライフサイエンス事業部を再編し、バリューチェーンの最適化を目指しています。
2つの業界における2025年問題
ヘルスケア業界における2025年は、いわゆる団塊の世代(1947~1949年の第1次ベビーブームに生まれた世代)が75歳以上を迎え、社会保障費全体が増加する時期にあたります。日本の社会保障制度の持続可能性確保のため「社会保障と税の一体改革」も進められており、社会保障の充実には医療と介護の一体的な改革が含まれ、「地域包括ケアシステム」※1の構築もその一部です。「地域包括ケアシステム」が実現する2025年には、住まいを中心に医療・介護・予防・生活支援がシームレスに形成されることが期待されています。
一方、IT業界にとっての2025年は、経済産業省が2018年9月7日に発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」にある通り、「ITシステム 2025年の崖」と呼ばれ、企業の経営面、人材面、技術面において複数の課題が重複する時期にあたります。この複数の課題を克服しなければ、2025年以降、大きな経済損失が生じる可能性があるというものです。そのために、CTCを含めたITサービス企業には、最先端のデジタル技術分野に人材・資金をシフトし、クラウドベースのアプリケーション提供型ビジネスモデルに転換し、プロフィットシェアできるパートナーの関係を構築することが期待されています。
求められるバリューチェーンの全体最適化
一般的に、ヘルスケアのデジタル化は欧米が進んでおり、日本は遅れていると言われています。これは日本においては、保険証、診察券、カルテ、処方箋、お薬手帳など、まだ紙やプラスチックカードが主流で、原則的に人対人の対面で医療サービスが提供されているので事実と言えます。欧米では、スマートフォンやウェブによる遠隔診療で、検査キットで診断に必要な検体を郵送することができ、電子処方箋により医薬品が自宅に届き、患者自らカルテを参照できるシステムが存在します。自宅に居ながら医療サービスが受けられ、まさに「地域包括ケアシステム」が目指す、住まいを中心にシームレスにつながるヘルスケアが実現できています。
そこで私たちライフサイエンス事業部では、このDX時代に適応するべく、2019年度よりヘルスケアのバリューチェーンに基づいて再編成を行いました。モノづくり時代のバリューチェーンは川の流れに例えられ、川上にメーカー、川下にサービスというように、創る、運ぶ、売る、選ぶ、支払う(図1)が構成されていました。DX時代は、流れるデータを中心に置いた円型(図2)であると再定義し、各ステークホルダーの部分最適ではなく、業界バリューチェーンの全体最適を支援できる組織としました。

(図1)モノづくり時代のバリューチェーン

(図2)DX時代のバリューチェーン
- 「地域包括ケアシステム」とは、厚生労働省が推進する政策です。国民が、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されることを目的としています。保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことも求められています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
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