Technical Report
DX時代のバリューチェーン
~デジタルヘルスの未来を考える
情報の非対称性と医薬品の価値
他の業界と比較してヘルスケア業界には、「情報の非対称性」が存在します。
情報を持つ者と、持たない者の差が大きいのが特徴です。ただ、ヘルスケアにおける「情報の非対称性」は、モノづくり時代の川上が情報を持ち、川下が情報を持たないという非対称性だけでなく、業界のステークホルダー全てが情報を持ち、バリューチェーンの中でそれぞれに情報を必要としているのです。この情報の不均衡な状態を解決しない限り、「地域包括ケアシステム」による医療・介護・予防・生活支援がシームレスにつながることは難しいと考えています。
併せて、モノが持つ価値を考える必要もあります。製薬企業が生み出す医薬品は、医療サービスに関わる化学工業としてのモノづくりです。モノとしての医薬品が、医療サービスの中で届けている価値とは「疾患の治療や症状の改善」です。医療サービスの中ではヘルスケアデバイスも、最近増えてきている治療アプリも、将来期待されている再生医療も、医薬品と同列に「疾患の治療や症状の改善ソリューション」として選択肢が増え、多様化していくと考えられます。
ITの活用で事故を未然に防ぐ
現在の医薬品は、化学物質を起源とした薬で成り立っています。体内に投与し、なんらかの変化を起こさせ作用を発揮し、疾患の治療や症状の改善につなげています。治療効果を高める目的や、患者の罹患する疾患も複数になると併用される薬も増えます。しかし、併用薬が増えることで、ふらつきや転倒などのリスクも増えることから、最近では「ポリファーマシー」※2として多剤併用を抑制し、服用する薬を減らす方向にあります。
そもそも医薬品には、副作用があります。製薬企業として、既に把握している副作用であれば添付文書に記載し、注意喚起されています。具体例をあげると、花粉症などの抗アレルギー薬には、眠気を催すことがあるのはよく知られていると思います。他には、抗てんかん薬、抗うつ薬にも、眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下があります。また、生活習慣病である高血圧薬の副作用には過度の血圧低下やめまい、糖尿病薬には低血糖症状により、意識がもうろうとする副作用もあるので、添付文書には「自動車の運転など危険を伴う機械操作には十分注意する」よう記載されています。
しかし、外来治療されている患者の服薬は、患者自身で管理しなければならず、不幸にも歩行中にふらつき転倒して骨折したという事例や、自動車の運転中に事故を起こしたという事例も聞きます。
そこで、服薬中の体調管理も、医師や薬剤師と情報が共有され、体調変化も24時間モニタリングでき、転倒や事故も未然に防ぐことができたら、大きな社会課題解決に近づくのではないかと考えます。将来的に登場すると思われるヘルスケアデバイスには、心拍、血圧、血中酸素濃度、血糖値など、複数のバイタルセンサーを組み込んだ製品もあります。未来のヘルスケアデバイスを装着した利用者は、ヘルスケアバリューチェーンの中に自らのバイタルデータを預け、医療従事者からサポートを受けることができ、また自動車など機械とつながることで、万が一の時にはブレーキをかけ、不幸な事故を未然に防ぐことも可能です。これも、期待されるI Tシステムの役割の一つであると感じます。
DX時代のヘルスケア
2025年まで残された時間は多くありません。バリューチェーンの全体最適化を支援し、皆様のビジネスパートナーとして貢献できればと考えています。
- 「ポリファーマシー」とは、「ポリ(poly)+ファーマシー(pharmacy)」という造語が示す通り、必要以上に多くの薬剤が処方されている状態のことを指します。多剤併用による弊害も見られるようになったため、医療従事者には患者の状態をモニタリングし、服用する薬剤を減らすことが求められます。まだ明確な定義はありませんが、一般的には薬剤を6種類以上併用する症例が当てはまるようです。
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