IT Terminology
エッジコンピューティング
これから時代は、クラウドとエッジのハイブリッドへ移行する―。
そんな文脈で「エッジコンピューティング」という言葉を目にする機会が増えています。
「データをクラウドに送らず、端末の近くで処理や計算を行うこと」という意味は周知されていても、その具体的な効用や意味合いについてはそれほど知られていないかもしれません。
エッジコンピューティングは、私たちに何をもたらし、未来をどう変え得るのでしょうか。
文/近藤 雄生
「未来は、エッジにある」
2019年10月、アメリカ・ワシントンDCで、政府やIT業界のリーダーたちが集まって開かれた“Microsoft Government Leaders Summit”において、MicrosoftのCEO、サティア・ナデラ氏は次のように話しました。
「コンピューティングの未来は、エッジにある」
IoT技術の発達によって、2030年には、ネットワークに接続される機器は500億台規模になるとも予測されています。
その数は、現在全世界で使われているWindowsマシンが10億台で、スマートフォンが数十億台であることを考えれば、驚異的と言えるでしょう。そのような時代に大きな役割を果たすのがエッジコンピューティングだと、ナデラ氏は言うのです。エッジコンピューティングとは、一体どのようなものなのでしょうか。
「中央」から「端(=エッジ)」へ
現在、各種デバイスやセンサ、スマートフォンなど、ネットワークに接続された端末は、多くの場合、データを一度、クラウド上のサーバに送っています。そして、そこで各種処理や計算を行った後に必要な結果を返してもらう、というのが一般的なデータの流れになっています。データを保存する際も、手元のコンピュータにではなく、Dropboxなどのサービスを利用してクラウド上に置いておくことの方が既に多いかもしれません。
そのように近年、クラウドの利用が広がって、データの処理や保存のためにユーザーが自前のコンピュータ資源を持つ必要がなくなったことは、私たちのコンピュータに対する概念を大きく変化させました。しかし、IoT技術が発展し、より多様な機器がネットワークに接続されるようになったことで、状況は変わりました。ネットワークを行き来するデータの量が劇的に増え、また、リアルタイム性が重視される機器が増えたことで、クラウド以外のコンピュータの利用形態も必要だと考えられるようになったのです。
すなわち、膨大な量のデータが行き交うことでネットワークにかかる負荷が大きくなりすぎたことや、端末とクラウドとの間の通信にわずかながら時間がかかることが、クラウドを中心とする現在のネットワークの課題として新たに認識されるようになりました。
そこで登場したのが、データをクラウドに送ることなく、端末に近い場所、つまりネットワークの端(=エッジ)で処理や計算を行うエッジコンピューティングという概念です。クラウドに関わる課題を補完的に解決できるため、注目を集めているのです。
エッジの利用で生まれるメリット
エッジコンピューティングのメリットとして挙げられるのは、主には次の3点です。
- 通信データ量が削減できる
- 通信時間を短縮し、遅延の発生を抑制できる
- セキュリティを強化できる
まず、前述のように、今後500億台もの機器がネットワークに接続され、常時クラウドとデータをやり取りするようになれば、データが渋滞を起こし、ネットワークが正常に機能しなくなると予測されます。そこでエッジコンピューティングによって、データのやり取りの多くを端末の近くで完結させれば、ネットワークの負荷が減り、安定化が見込めます。これは、ユーザーにとっては通信コストの削減にもつながります。
また、データがクラウドとの間を行き来するには通信時間がかかりますが、端末との距離が近いエッジを使えば、その時間を短縮できます。時間の違いはわずかに見えるかもしれませんが、例えば製造現場で複数の機械が高精度な同期性によって複雑な作業をこなす場合、わずかな遅延が重大な問題になり得ます。自動運転の場合では、ミリ秒単位の遅延が命取りになりかねません。
そして3点目について、データをクラウドへ送る必要がなくなれば、情報を外部にさらさなくてよくなるため、セキュリティリスクを減らすことが可能です。エッジコンピューティングにおいても、特に多数のIoTデバイスがエッジ側とつながる場合などはシステムが複雑になることが多く、適切なセキュリティ対策が重要になりますが、クラウドとの間でのデータのやり取りがなくなることは、セキュリティ面で大きくプラスに働くと言えます。

図 クラウドとエッジコンピューティングの構造
記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。