ONE TEAM - 一人ひとりの仕事の信条
AIを使いこなすプロジェクト・マネージャがそれでも手放さない仕事
AIが人間の代わりに働く領域が広がっている。
「AIに任せられることは全部任せてみました。そうしたら、任せられないものが見えてきたんです」と言う社員が、
それでも手放さなかった仕事とは。
人を「動かす」のではなく、人に「動いてもらう」
グランドデザインの合意後は、各方面の関係者と調整をします。メンバーだけでなく、その上長や役職者とも、たくさん話をします。
メンバーと向き合う時に大事にしているのは“どう動いてもらうか”という姿勢です。人を“動かす”対象として見るのではなく、一人ひとりが力を発揮できるように向き合い、何でも話してもらえる関係をつくることを大切にしています。PMの姿勢次第で、プロジェクトの結果は大きく変わるからです。
技術者の間には、「銀の弾丸はない」という言葉があります※1。どんなプロジェクトにも効く万能の手法は存在しない、という意味です。1つとして同じプロジェクトがないように、人もそれぞれ違いますので、相手に合わせて向き合い方を変えています。
最も大事なのは、「期待をマネジメント」すること
全方位の進行役として大切にしているのは、全ての関係者の「期待をマネジメントする」※2ことです。金額、期間、技術のそれぞれで、できること、できないことを誠実に伝え、過度な希望や失望を与えないこと。期待値の範囲から逸脱しないよう状況をコントロールできるかが、成否を分けます。
失敗の多くは、期待のマネジメントがうまくいかなかった時です。“技術的にできる”と“適度なコストでできる”は違います。例えば、ある要件定義の場で「この作りでは工数が大きくなり過ぎます」と確かに伝えている。お客様も理解されたように見える。でも、ご要望は増え続け、気づけば予算に収まらない。伝えた、では足りないんです。相手の中で判断が本当に変わったかまで確かめる。それが期待をマネジメントするということだと思っています。
苦手を知るからスキルアップできる
聞く、伝える、確かめる、という話をしてきましたが、実は私は話すことが苦手で、休日はたいてい、木工DIYや電子工作など、黙々と手を動かしています。周りからは「コミュニケーション能力が高い」と言ってもらえることがあるのですが、苦手と自覚しているからこそ、研修を受け、実践してきました。アサーティブコミュニケーションやチームビルディングなどを研修で体系的に学べたことがとても役に立っています。
テクニカルスキルも同じです。文系出身ですが、仕事が終わってから同僚とプログラムを書いたり、電子工作の延長で自作キーボードを作ったりしています。ヒューマンスキルもテクニカルスキルも、才能ではなく、学べるものだと思っています。
人間に残るのは、本質的な仕事
AIによって仕事のしかたが変わっても、人にしかできない仕事は残ります。なくなったのは「作る」ための時間で、「何を作るべきかを決める」ための時間は、そっくり残っています。
ブルックス※1は、ソフトウェア開発の難しさを、本質的なもの(何を作るべきかを決めること)と偶有的なもの(作る手間)に分けました。AIが圧縮したのは後者です。どれだけ良い答えが出ても、問いを立てるのは人間の仕事です。
むしろ、難しくなった面もあります。速く、簡単にできるようになれば、お客様の期待も同じだけ大きくなるからです。その分、期待のマネジメントの難易度は上がっています。ただ、特別な才能が要るわけではありません。私自身、苦手を自覚してから学んだことばかりです。
また、これから働き方がさらに変わっても、お客様に向き合い、心に響くことを伝え、価値を創出する姿勢は変わりません。相手の感情の動きを読み取るノンバーバルなコミュニケーションや、人を巻き込み、協力してもらう力は、これからも人間の仕事です。期待のマネジメントとは、速さと確かさ、できることとできないことの間で、ちょうど良いところを探し、理解してもらう仕事です。AIもまた、銀の弾丸ではありません。全てはバランスであり調和だと思っています。私の仕事は、そのバランスを探し続けることです。明日もまた、お客様に向き合い、「それはできます。ただ、その方法よりもっといい方法があります」と申し上げるところから始まります。
※1 フレデリック・P・ブルックス Jr.の論文「銀の弾などない」(1986年)で示された考え方。『人月の神話』に収録。
※2 エンジニア向けに書かれたジョナサン・ラスマセン著『アジャイルサムライー達人開発者への道』で紹介されている考え方。
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