世界中で人気を博すゲームタイトルを多数抱える株式会社カプコン(以下、カプコン)。同社はオンプレミスで構築・運用していたゲームクリエイターの業務を支援する社内システムをCTCの支援でオラクルのパブリッククラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)」へ移行した。スキーマを保ったまま既存のOracle Databaseをクラウドリフトし、スムーズな移行を実現。Oracle Database関連コストの大幅な削減を見込んでいる。他にも、スケールアップ/ダウンの柔軟性向上をはじめ、様々な効果を得ている。
課題と効果
- 課題
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- Oracle Databaseを含め既存システムの確実なクラウド移行を実現したい
- オンプレミスに起因するコストを削減したい
- 処理のピークに応じてスケールアップ/ダウンしたい
- 効果
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- Oracle Databaseと親和性の高いOCIの採用で円滑なクラウド移行を実現
- クラウド移行で運用やライセンス関連のコストの大幅な削減を見込む
- 柔軟かつ迅速なスケールアップ/ダウンが可能に
導入事例インタビューデータ
- 会社名
- 株式会社カプコン
- 創業
- 1983年6月(設立:1979年5月)
- 所在地
- 大阪市中央区内平野町3丁目1番3号
- URL
- https://www.capcom.co.jp/
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株式会社カプコン
技術研究統括
基盤技術研究開発部
業務システム開発室 室長寺畑 雅人氏
オンプレミスの社内システムが老朽化 クラウド移行で課題解決を図る
カプコンは「バイオハザード」や「モンスターハンター」、「ストリートファイター」などの人気ゲームソフトで広く知られる企業である。2024年3月には、「モンスターハンター:ワールド(モンスターハンターワールド:アイスボーン マスターエディション含む)」の販売本数が全世界で2,500万本を突破。また、「バイオハザード」はシリーズ累計1億5,700万本、「ストリートファイター」はシリーズ累計5,400万本を出荷している(2024年03月31日時点)。開発したゲームをグッズや映画などにも多面展開する「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」を強みに、収益拡大とブランド価値向上を進めている。
同社ではゲームクリエイターの業務を支援するシステム「NIT」(Networked & Integrated Title Creation System)を構築・運用している。クリエイターのワークスタイルに合わせた勤怠管理や休暇申請など、ヒューマンリソース管理が主な機能だ。ユーザー数は2,400以上にのぼる。
NITは2012年にオンプレミスで構築したが、近年はいくつかの課題が深刻化していた。
株式会社カプコン 技術研究統括 基盤技術研究開発部 業務システム開発室 室長 寺畑雅人氏は、「ハードウェアの老朽化やOSなどのサポート終了が次々に迫っていました。リプレースするにも、直近で別システムのリプレースに非常に多くのコストを費やした経験があり、NITでも同様の結果が予想されました。作業に要する時間と手間も少なくありません」と振り返る。
普段の運用管理でも悩みを抱えていた。「オンプレミスゆえ、ハードウェア面でのスケールアップ/ダウンが困難でした。しかも、数年前から動作の安定を欠くようになっており、大きな障害が発生した場合の不安がありました」と寺畑氏は明かす。あわせて、セキュリティリスクのさらなる低減も課題であった。
同社は2021年4月、それらオンプレミスに起因するNITの課題を解決すべく、クラウド移行に取り組んだ。スムーズな移行と、安定して稼働できることを大前提に、スケールアップ/ダウンの柔軟性向上などを狙っていた。
既存のOracle Databaseをスキーマなどを含め「OCI」へ丸ごと移行
移行の際に焦点の一つとなったのがデータベースだ。NITではデータベースにOracle Databaseを採用しており、既存のデータベースをいかにスムーズにクラウド移行できるかが問われた。
そうした要件から採用されたのがOCIである。「OCIはOracle Databaseとの親和性が高く、オンプレミス環境のデータ、スキーマ(構造)、ストアドプロシージャのソースコードなどをそのまま持ってこられるため、スムーズに移行できます。OCIの稼働率の高さも魅力でした」(寺畑氏)
また、NITではRAC(Oracle Real Application Clusters)構成を採用しているが、「クラウド移行後もRACを適切なライセンス費で利用し続けられる点も、OCI採用の大きなポイントでした」と寺畑氏は振り返る。
NITのOCIへの移行を全面的に支援したのが、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)である。
「CTCは当社のシステム全般を長年支えてくれている一社です。今回のNITのクラウド移行でも、私たちの意図や狙いを深く理解するとともに、NIT自体はもちろん、ネットワーク構成など周辺状況を熟知していました。そのため、改めてのNITの現状把握や説明の手間もありませんでした」(寺畑氏)
さらにカプコンはOCIとあわせて、CTCのパブリッククラウド運用サービス「マルチクラウドマネージドサービス(MCMS)」も導入。リモート監視をはじめ、オンプレミス環境と同等のサービスレベルの維持を図った。
コスト削減と柔軟性向上を実現 安定性やセキュリティも向上
カプコンはより確実にクラウド移行できるよう、事前検証・準備に力を入れた。まずは影響調査など検討や計画立案を行い、次にプロトタイプによる検証を2022年6 ~11月に実施。12月から移行本番に取り掛かり、2023年5月末にカットオーバーを迎えた。
「プロトタイプフェーズでは、Oracle Databaseのコンフィグ変更など、CTCにアドバイスをいただきながら課題を洗い出し、本番では確証を持って移行できました。また、CTCが間に入ることで、問い合わせがスムーズになり大変助かりました」(寺畑氏)
さらに今回はクラウド移行にあたり、Oracle Databaseやアプリケーションのバージョンアップも行い、しかも既存環境を稼働させたまま移行することになった。寺畑氏は「難しさはありましたが、大きなトラブルもなく予定通り終えられ、CTCにお願いして良かったと感じています」と評価する。
OCIの導入効果はカットオーバーからまだ1年未満であるものの、コストについては既に手ごたえを感じている。「NITのシステムがクラウドにあるのは、アドバンテージですね。EOLによるハードウェア交換、故障対応などが不要になり、Oracle Databaseにまつわる費用をトータルで大幅に削減できる見込みです」(寺畑氏)
スケーリングについては、はやくも具体的な成果をあげている。「サービスイン直後、システムのリソースが足りない事態が発生しましたが、システム停止せず、リソース増強をオンタイムで行えました」と寺畑氏は満足そうに語る。
同時にシステムの安定性向上も果たした。「処理のピークに、より耐えられるようになりました。NITの画面はWebブラウザで表示するのですが、以前はスタイルシートが反映されずレイアウトが崩れる事態が時々ありました。今ではほぼ皆無です」と寺畑氏は述べる。その上、ハードウェア性能をピークに合わせて用意する必要がなくなった点も、コスト最適化に寄与している。
あわせて、バックアップの最適化も実現している。従来はバックアップシステムが複雑であったため、操作に手間取るなどの要因で確実性を損なう恐れがあった。「バックアップは現在、OCIの中で完結できます。バックアップシステムをシンプル化でき、操作も容易なので確実性を高められました」と寺畑氏は話す。
セキュリティリスク低減も達成した。オンプレミスではハードウェアの古さなどで、最新のOSやミドルウェアにバージョンアップできないケースがあったが、OCIなら常に最新版を利用できる。加えて、今回のクラウド移行にあわせてネットワーク設計を見直し、より厳格なネットワーク管理を可能とするなど、セキュリティ全体を底上げしている。
「今まで当社にとってクラウドは“挑戦”でしたが、今回のNITで好感触を得られました。今後はコストなどを吟味しつつ適材適所で導入し、クラウドならではのメリットを社内に広げていきます」(寺畑氏)
- ※ Oracle、Java、MySQL及びNetSuiteは、Oracle Corporation、その子会社及び関連会社の米国及びその他の国における登録商標です。NetSuiteは、クラウド・コンピューティングの新時代を切り開いたクラウド・カンパニーです。