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戸田建設株式会社 様

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緊急地震速報により揺れが届く前に警報 工事現場の災害を最小限に抑える「ユレキテル」

地震による災害を最小限に留め、ビジネスを継続すること。これは、地震国日本でビジネスを展開する企業にとって、避けることのできない重要な経営課題である。とりわけ、ゼネコンにおいてはいっそう深刻な問題となる。通常重要業務に加え、災害発生時には被災建物調査や社会インフラ復旧も求められるからだ。そこで、戸田建設株式会社(以下、戸田建設)の開発したシステムが現場地震速報「ユレキテル」(以下、ユレキテル)である。気象庁が提供している「緊急地震速報」の情報と全国の工事現場の所在地・地盤データを瞬時に照合し、被害の予想される建設現場に揺れの強さ(予測震度)や到達予測時間を配信し、地震による揺れが到達する前に警報を発するシステムだ。このシステムを構築したのがCTCである。配信の基盤となっている戸田建設のイントラネットTC-NETを構築していたことと、「緊急地震速報」配信のノウハウと設備を持っていたことが採用につながった。

課題と効果

課題
  • 地震による現場のリスクを軽減したい
  • 導入に関して現場側の手間とコストを極力抑えたい

気象庁の緊急地震速報と全国の工事現場の情報をサーバ側で照合し、既存イントラネットで震度4以上が予想される現場へのピンポイントで再配信。受信端末はCTCにて初期設定し、現場に発送。

効果
  • 全国どこの工事現場へも緊急地震速報を発信でき、地震被害を最小限に抑えることが可能
  • 専用の警報端末の現場のLAN(TC-NET)に繋ぐだけですぐ受信できるので、導入が容易でメンテナンスフリー
  • 既存のTC-NET回線を使うので、新たなインフラコストは不要
  • 転送データを小さくすることで細い回線でも瞬時に転送

導入事例インタビューデータ

会社名
戸田建設株式会社
所在地
東京都中央区京橋1丁目7-1
資本金
230億円(2007年3月31日現在)
創業
1881年(明治14年)1月5日
設立
1936年(昭和11年)7月10日
従業員
4,002人(2007年3月31日現在)
URL
http://www.toda.co.jp/index.html新しいウィンドウで開く
  • 戸田建設株式会社 建築工務部 工務課 池端裕之 氏 (一級建築士 一級建築・土木施工管理技士)

    戸田建設株式会社

    建築工務部 工務課

    池端裕之 氏 (一級建築士 一級建築・土木施工管理技士)

  • 戸田建設株式会社 建築企画部 営業情報課 主任 佐藤康樹 氏

    戸田建設株式会社

    建築企画部 営業情報課 主任

    佐藤康樹 氏

導入背景

明治期に創業し126年 日本の象徴となるビルを建設

1881年(明治14年)の創業以来、日本史に残る数多くの建物を手がけてきた戸田建設。その代表的なものは、早稲田大学大隈講堂、慶應義塾大学創立50周年記念図書館、村井銀行本店、東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)、横浜税関庁舎、大井ダムなど。近年に至っては、宮ヶ瀬ダム、ヨコハマインターコンチネンタルホテル、東京三菱銀行本店、関西国際空港、東京湾アクアライン、六本木ヒルズレジデンス、丸の内オアゾなどがあり、まさに日本の近代建築・土木と共に歩んできた総合建設業者である。

「事業継続計画(BCP)の必要性が叫ばれる中、最近の傾向として弊社既存顧客の建築物の耐震性強化・免震化の依頼が増えています」と同社 建築工務部 工務課 池端 裕之 氏は語る。「歴史的建物の外観や内部空間を保存しつつ耐震性能を高くしたい」という要望や、「建物を”使用しながら”、”営業しながら”耐震補強工事を行ってほしい」という要望は多い。戸田建設ではこれらの要望に最新の技術で応えている。最近では例えば横浜税関庁舎、愛知県庁舎、横浜市庁舎、栃木県庁などの耐震性強化・免震化を実施している。

「緊急地震速報」の検証を開始 有効性と課題を確認しシステム化を検討

既存建築物の耐震性強化・免震化の工事が増えていることからわかるように、日本は世界有数の地震国であり、その危険性に対する関心は年ごとに大きくなっている。この地震の揺れを速報として伝えるのが気象庁の「緊急地震速報」だ。

地震の初期微動をキャッチすると同時に、被害を及ぼす危険性のある範囲に揺れの強さ(予測震度)や到達予測時間を配信するサービスである。情報が配信されてから実際の揺れまで、わずか10秒、あるいは5秒程度かもしれない。だが、工事現場で火気作業をしていた場合、数秒あれば火を止めることができる。電動のこぎりを使っていた場合は、電源を切ることができる。「クレーンで資材をつり上げていた場合は、たとえ降ろすことはできなくとも、人のいない方向にクレーンを旋回できます。足場の上に乗っていた作業員は、建物に移ったり、降りたりすることができます。これだけでも、地震による事故の危険性を大幅に回避できます」(池端氏)。

そこで同社では、2006年6月から東京都内の建築工事現場を例に、「緊急地震速報」の効果を検証することにした。その結果、期待どおりの効果の得られることがわかったが、同時にシステム構築の課題も浮かび上がった。

導入経緯

工事現場にいかに素早く情報を届けるか 現場の負担をいかに軽減するか

システム化の課題として浮かび上がった最大のものが、全国の工事現場へいかに「緊急地震速報」を迅速に届けるかであった。毎月多くの工事が開始され、短ければ数ヵ月、長くても数年で工事は終了する。そのような回転の速い現場に、ネットワークをどのように引き込むか。また、工事現場は都市部だけとは限らない。山奥などの遠隔地に、確実に警報を転送するにはどうすればいいのか。

例え引き込む回線があったとしても、それをどのようにして警報に変換するか。パソコンに情報を表示するだけなら、簡単にできるかもしれない。だが、それでは警報にならない。大きな音なり、光なりに変換する手段が必要だった。

さらに、警報装置があったとして、それを誰が取り付け、誰がメンテナンスするのか。現場に駐在する社員の負荷になったり、技術の習得に時間がかかったりするようでは使い物にならない。

イントラネットTC-NETを構築したCTCに相談 CTCは「緊急地震速報」配信のノウ

「緊急地震速報が役立つことはわかったのですが、どれ1つをとっても極めて大きな課題でした。それをこともなげにクリアして、極めて短期間で構築したのがCTCでした」と、建築企画部 営業情報課 主任 佐藤 康樹 氏は振り返る。

戸田建設からCTCに相談が持ち込まれたのが2006年8月のことである。CTCは、同社が抱えていた課題を1つひとつクリアしていく。CTCは、「緊急地震速報」データ配信と受信システム構築のノウハウを(株)ANETとの協業のなかで、すでに取得していた。これが他社にない大きなアドバンテージになった。(株)ANETは、財団法人鉄道総合技術研究所のグループ会社であり、首都圏の鉄道事業者へ緊急地震速報の配信をしている。このシステムを主に構築したのがCTCであり、現在ではCTCのデータセンターで運用・管理している。

さらに、CTCは戸田建設のイントラネットTC-NETを構築しており、これが情報の伝送経路として採用された。また、建設現場に設置する情報端末には、(株)パトライト社製の緊急地震速報表示端末を提案し、これが採用される。
正式な受注は同年11月。以降、詳細設計に入り、機器の接続完成は2007年2月。テスト調整が3月、4月からまずは全国10ヵ所の工事現場で本稼働を開始し、順次各現場へ導入を行っている。システム構築は、実質2ヵ月ほどで終了しており「他社に依頼していたら1年以上かかっても不思議ではありませんでした」と佐藤氏は認めている。

システム概要

全国の工事現場を自在に接続 現場に負荷をかけずセンター側で集中制御

ユレキテルは、気象庁が提供している「緊急地震速報」の情報を受けると同時に、CTCデータセンターのサーバで全国の建設現場の所在地データを瞬時に照合。サーバには工事現場の地盤データも入っているので、より正確な予測計算をすることができる。その予測計算をもとに、戸田建設社内のイントラネットを通じて震度4以上の揺れが予想される建設現場に対し、地震が到達する数秒から数10秒前に揺れの強さや到達予測時間を配信する。

既にインフラとして活用されているイントラネットTC-NETは、全国の作業現場を結ぶインターネットVPNによる社内ネットワークである。CTCのデータセンターを核に、電話回線さえあれば、全国のどこの拠点も容易に接続できる。

このネットワークを利用してユレキテルの表示端末として採用されたのが(株)パトライト社製の緊急地震速報表示端末だ。同社の既存製品を改良し、ユレキテル専用端末として導入した。

現場側で、ネットワーク端子に接続し手順書をもとに数回の操作でセンターのサーバに登録されテスト・設置が完了し、以降メンテナンスフリーで運用可能となる。

情報を瞬時に転送するため、配信するデータ量は最小限にし64Kbyteの細い回線でも瞬時にデータを送れるように工夫している。

システム構成イメージ

システム構成イメージ

今後の取り組み

一般のオフィスや病院、学校など、さまざまな分野に「ユレキテル」を展開

戸田建設では、2007年4月からの稼働以降、次第に拡張しカバーする地域を全国に広げている。「予想外だったのが顧客からの問合せの多さです」と、池端氏は語る。新聞雑誌等の報道で知った、新たな顧客からの相談が多いという。

「戸田建設で施工した物件であれば、地盤ボーリングデータや建物構造特性データを利用して、個別の建物や設備に応じた警報を出すことができます。戸田建設以外の竣工建物であっても、建物診断等の手順を踏むことで同様のフォローが可能です。これが弊社の強みです」(佐藤氏)。お客様のビルの特徴に合わせた情報提供という付加価値もあり、都内の大規模なオフィスビルが、テナントへのサービスの一環としてユレキテルを採用するケースもあるという。

「特に弊社のお客さまには学校、自治体、病院、工場など公共性の高い建物が多くあります。いずれも地震対策は不可欠です。そのような顧客へのサービス拡大につながると期待しています」と、池端氏は構想を語る。
地震対策は、あらゆる日本企業にとって、必須の課題である。緊急地震速報の活用はそんな日本企業にとって大きな魅力となる。ユレキテルは戸田建設のユニークな戦略商品として期待されており、それをCTCの技術力が支えている。

用語解説

緊急地震速報

地震の発生直後に、震源や地震の規模を推定し、これに基づいて各地への到達時刻や震度を計算し、可能な限り素早く知らせる。地震波には、地中を速く伝わるP波(いわゆる初期微動)と、伝播速度は遅いが大きな揺れを伴うS波(主要動)がある。「緊急地震速報」は、はじめに到来するP波の数秒間の揺れを解析し、その周期からマグニチュード、振幅の最大値や震源の位置を瞬時に推定する。
2006年8月1日から先行的に緊急地震速報の配信が始められ、一般へは2007年10月1日から配信する。

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