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|特集|シリコンバレーで起きている変革を理解し、活用するために

特集 シリコンバレーで起きている変革を理解し、活用するために シリコンバレーと日本企業とをつなぐ櫛田健児氏が語る 【特別インタビュー】櫛田 健児 スタンフォード大学アジア太平洋研究所 リサーチスカラー、Stanford Silicon Valley – New Japan Project プロジェクトリーダー

設計思想や競争の軸が根本から変化する

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シリコンバレーが価値を破壊し創造する場所である、という点について、破壊や創造がどう起こるのか、そのプロセスを具体的に教えてください。
櫛田

シリコンバレーのスタートアップが目指しているのは、大企業を中心とした従来のビジネスとは異なる方向に競争の土俵を持っていくことです。例えば、これまで自動車開発の競争は、主に、燃費の良さ、頑丈さ、メンテナンス性、価格、といったスペック面が勝負でした。しかし今後は、自動運転のソフトウェアが入っていることで事故率をぐっと下げられるのなら、車のスペックよりもソフトウェアのクオリティの方が重要になります。例えば、イーロン・マスクが率いるテスラの車は、全く新しい設計思想を導入しました。発売時の仕様では使わないプロセッサやセンサーを埋め込んでおき、新たな機能が開発されたらその時点でソフトウェアをダウンロードすれば車に機能を追加できるようにしたのです。そのようにシリコンバレーでは、様々な分野において、ものすごいスピードで古い価値が破壊され、新しい価値が生み出されています。

サンフランシスコからサンノゼにかけて広がるシリコンバレーにはIT系大企業と共にスタートアップが集中。周辺のフリーウェイにも渋滞が頻発
サンフランシスコからサンノゼにかけて広がるシリコンバレーにはIT系大企業と共にスタートアップが集中。周辺のフリーウェイにも渋滞が頻発

サンフランシスコからサンノゼにかけて広がるシリコンバレーにはIT系大企業と共にスタートアップが集中。周辺のフリーウェイにも渋滞が頻発

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近い将来、世界を席巻しそうだと櫛田さんが考えているスタートアップや新技術はありますか。
櫛田

今、「面白いな」と思っているもののほとんどは、数年後には淘汰されているのがシリコンバレーの世界です。大抵もっと面白いものが、予期せぬところからひゅっと出てくるのです。つまり、これが何年後には出てきそうです、みたいな予測はほとんど外れます。そのため安易には言えませんが、その前提で一つ事例を紹介するとすれば、自動運転の価値をより高める分野で、活発に開発競争が進んでいます。具体例でいえば、アクティブサスペンション。自ら伸縮するなどして揺れを吸収するサスペンションの分野です。自動運転によって車内の時間が自由になるとしても、乗っている人が揺れで酔うようではその価値は半減します。移動中の車内で、長時間パソコンの操作などをしても酔わないよう、揺れを吸収することは新たな価値となるため、その方法が複数検討されています。

一つは、道路の詳細な3Dマップを作り、それに応じてサスペンションをアジャストしながら走行する方法です。他方、走行しながら高速センサーで瞬時に道路表面の凹凸を測っていく方法もあり得ます。それぞれの方法に関連して、3Dマップを随時アップデートしていくシステムを作っているスタートアップもあれば、凹凸を瞬時に測るセンサーを開発しているところもある。最終的にどの方法が主流になるかはわかりませんが、いずれもAIが使われるため、より良いシステムを作るためには、より多くのデータを集めることが重要になります。そのため、最初に使われるようになった方法に、ユーザーからの情報がより集まってクオリティが上がっていく。そして、更に使われるようになり、ますますその価値が上がっていく、という循環ができるでしょう。そうして他の方法を選んだスタートアップは全部淘汰される、ということが起こるのです。

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