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特集 シリコンバレーで起きている変革を理解し、活用するために シリコンバレーと日本企業とをつなぐ櫛田健児氏が語る 【特別インタビュー】櫛田 健児 スタンフォード大学アジア太平洋研究所 リサーチスカラー、Stanford Silicon Valley – New Japan Project プロジェクトリーダー

AIは、技術を取り巻く環境そのものを変化させる

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先のアクティブサスペンションの例のように、最近はAIの普及によって、あらゆる分野においてデータをいかに集めるかが成否のカギになったように感じます。
櫛田

そうですね。今のAIが行うのはパターン認識です。参照できるデータが多いほど精度が上がるため、より多くのデータを集めることが重要になっています。ただし、注意すべきなのは、データを集められるから価値を提供できるというわけではありません。価値を提供しているからこそ、データを集めることができるのです。グーグルがあらゆるデータを集めることができるのは、例えば、グーグルマップの質が高いから皆が利用するのでデータが集まり、更に質も高まっていくからと言えます。まずは、いかに高い価値を提供できるかを考えることが重要です。

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AIが様々な技術の重要な部分を担うようになって、技術そのものの考え方が大きく変化したように思います。今、AIによって起きている変化の本質とはどのようなことなのでしょうか。
櫛田

近年、コンピュータの発展によって起きた技術革新の大きな流れとは、それまでは人間が行っていた活動をコンピュータが代わって行うことで効率化して生産性を上げる、そして完全自動化を目指すというものです。AIは、この流れを圧倒的に加速させる技術だと言えるでしょう。そして重要なのは、AIはただその流れを加速させるのみならず、AIの核となるディープラーニングという技術が従来の技術と大きく異なるために、周辺の様々な状況を変化させるということです。それは例えば、データそのものの価値であったり、データを集めるためのセンサーの技術の重要性だったり、または、社会のルールや業界の仕組みだったりします。その結果として、旧来の価値が破壊され、新たな価値が生まれていると言えるでしょう。

相手に何を与えられるかをまずは考えてみる

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こうした流れの中で、シリコンバレーに拠点を持つ日本企業が増えています(図2)。櫛田さんは、日本企業がシリコンバレーをうまく活用することが大切だとおっしゃっています。具体的に何を心掛けて、どのように行動すれば良いのでしょうか。
図2 ベイエリアの日系企業数の推移

図2 ベイエリアの日系企業数の推移

シリコンバレーを含む北カリフォルニアのベイエリアに拠点を持つ日系企業は、2018年には過去最高に。かつてはIT分野が中心だったのに対し、近年は製造業をはじめ幅広い産業に広がりを見せている。

【出典】「ベイエリア(北カリフォルニア)日系企業実態調査 −2018年調査− 2018年8月 ジェトロ・サンフランシスコ」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/28f0243211557f33/survey2018.pdf

櫛田

従来の日本企業にとって、シリコンバレーのスタートアップは脅威にばかり見えがちですが、いい形で手を組めば、大きな成果につなげることも可能です。そのためには、どうすればお互いにとって利益になるかを考えて関係を築くことが重要です。

スタートアップに会いに行く場合、ただ漠然と話を聞かせてもらおうというのではなく、自分たちが相手に何を提供できるかを考えておかなければなりません。それは多くの場合、お金ではありません。提供すべきなのは、スタートアップ自身では得ることができないデータや、リーチできない顧客との関係性です。実際に協業して成功した好例としては、建設機械メーカーのコマツがあげられます。工事現場の三次元計測をドローンで行えたら有用であると考えて、ドローンによる3Dマッピング技術を持つスタートアップと組みました。その際、スタートアップにとっては、コマツと組むことで顧客が世界中に広がり、コマツの仕事から多くのデータを集めることで、より高精度な3Dマップを作ることができるようになるというメリットがあります。スタートアップのペインポイント(課題)をしっかりと把握して、それに対するソリューションを提供する。その意識が重要ですね。

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櫛田さんは、SV-NJを通じて日本企業とシリコンバレーをつないでこられましたが、コマツのようにスタートアップとうまく関係性を築けている企業は多くありますか。
櫛田

現状ではまだ多くはありませんが、少しずつ増えていると感じています。その際、こうすればうまくいく、ということを言うのは難しいですが、やってはいけないワーストプラクティスというのはあります。それは、ビジョンなしにとりあえず事務所を開設して駐在員を送り込むことや、日本流のアピール方法を貫いてしまうことなど、図3のような点があげられます。いずれにしても、日本企業と組めばメリットがあると思ってもらえるよう、それぞれの企業が意識を高めて行動することが重要です。そのためにも、トップのリーダーシップとコミットメントが大切ですね。

図3 シリコンバレーの日本企業が陥りやすいワーストプラクティス

図3 シリコンバレーの日本企業が陥りやすいワーストプラクティス

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最後に、シリコンバレーとの向き合い方を考える日本企業へ、櫛田さんからメッセージをお願いします。
櫛田

シリコンバレーの動きを脅威と捉える向きは強いかもしれませんが、そもそもシリコンバレーは、日本の製造業が強かった時代に、日本に負けないようにという意識から発展してきたものとも言えます。とすれば、現在のシリコンバレーが、旧来の日本のやり方よりも強いのは当然です。今度は日本が彼らにアジャストして強くなる番です。戦後の日本の製造業が強くなる前には、アメリカが強く、日本が弱い時代があったことを考えると、力関係の強弱は繰り返すものであり、今後については前向きになっていいと思っています。ここ5年ぐらいを見ても、日本企業は確実にシリコンバレーに対する向き合い方が良くなっていますし、危機感も増している。これからチャンスはどんどん来るはずです。そう思って、積極的に動いていって欲しいですね。

シリコンバレーと日本をつなぐオープンイノベーションサミット「シリコンバレー・ニュージャパン・サミット2019」にて講演

シリコンバレーと日本をつなぐオープンイノベーションサミット「シリコンバレー・ニュージャパン・サミット2019」にて講演

出典:Best Engine Vol.8

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