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|特集・対談|脱炭素を推進する「CCS」への挑戦──社会課題の解決を目指す科学システム本部の取り組み

|特集|脱炭素を推進する「CCS」への挑戦──社会課題の解決を目指す科学システム本部の取り組み

今後も検討が必要な「シール層」の問題

高市 和義

高市 和義

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
エンタープライズ事業グループ
科学システム本部 エネルギービジネス部

1986年、入社。1995年、Landmark社ソフトウェアを担当。2016年、海洋基盤情報管理装置、2017年には、超臨界地熱場における革新的モニタリング及びシミュレーション技術の詳細検討、NEDO受託研究。2018年、地熱データベースシステム開発、2019年にはIoT-AI適用による小規模地熱スマート発電&熱供給の研究開発、NEDO受託研究に携わるなど、技術職として数多くの研究、プロジェクトに従事。

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2030年にCCSの事業開始を目指すというロードマップの中で、いま、長縄先生が特に注力して研究されているのはどのようなことでしょうか。
長縄
CO2の漏洩に関して、先ほど井戸を通して漏れ出てくる可能性についてお話ししましたが、それと別にもう一つ考えなければならない点があります。これは石油の場合も同じなのですが、油が貯留されている層や、CO2が貯留される地層の上には、油やCO2が通り抜けできないような、シール層(または遮蔽層)と呼ばれる、緻密な粘土質の地層があります。そのおかげで、CO2を貯留した後も地上には漏れて来ないということになっているのですが、その下にCO2を多量に圧入し、圧力が高まっていったら、シール層の強度は果たしてもつのだろうかという点は、まだ十分に解決されていないと私は考えています。
これは、ジオメカニクスといって、地下の地層に何らかの力が加わった時にどのように変形するかといったことを考える領域の問題で、私が専門とする分野の一つです。専門家として、ここには強い問題意識を持っており、CO2を貯留することによる影響を明らかにしなければいけないと考えています。ただ、この場合も、実際に穴を掘って確かめるわけにはいきません。やはり、物理的、数学的なモデルを作り、どのくらいの量のCO2であれば、圧入してもシール層は壊れないかをシミュレーションして、確かめたいと思っています。
「CCS安全性評価への取り組み」

出典:公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)
   CO2貯留研究グループ
   「CCS安全性評価への取り組み」(https://www.rite.or.jp/co2storage/safety/

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シミュレーションの結果によっては、貯留できる量が、今想定している数値より減るという可能性もありそうでしょうか。
長縄
ありうると思います。シール層の問題を明らかにすることで、貯留できるCO2の総量の限界もある程度見えてくるでしょう。現状のシミュレーションでも一応はその点を考慮していますが、現在のモデルは、私としてはまだ不十分だと思っています。今後の研究によって、より正確な値を見出していきたいです。また、どれくらいのスピードで圧入するかによっても、シール層が壊れる、壊れないというのは変わってくると考えられるので、CO2を圧入、貯留する時のオペレーションの条件にも影響してくると思います。

ITの力で、より透明性の高い技術、事業を目指す

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今後CCSに関して、長縄先生とCTCはどのような点で連携できそうでしょうか。考えられていることがあれば教えてください。
長縄
昨年6月からCCS委員会の委員長を務めさせていただいていますが、ここには、これからメンバーを募る領域も含めて、探査、掘削、貯留、分離・回収、輸送、IT、法律など、関連する各分野の専門家たちが集まっています。この中にCTCさんも入っていただいています。これから本格的に動き出すことになるので、今後ますます様々な意見交換をしていきたいです。CCSにおいてITはとても重要なので、CTCさんのお力を借りられることは心強いです。
下野
CCS委員会での活動はこれから本格的になっていくものと考えています。今後、新たな問題点や課題も浮上してくるのではないかと思いますが、そうした中で、ITを駆使しなければ解決できない場面において、長縄先生ともよく意見交換しながら、できる限りの貢献をしていきたいです。そのために私たち自身も、自らの技術をブラッシュアップしていきます。
坂口
弊社は、IT技術やシミュレーションに長けているメンバーは多いものの、現場を直接見て知っている人間は少ないのが正直なところです。可能であれば、長縄先生のお力も借りながら現場に行くような機会も持たせていただき、現地ではどんな議論が起きているかを直接見聞きし、ITを駆使する上でも生かしていけたらと考えています。
高市
具体的な点を一つ言うと、CCSには色々な分野の方が参加されるので、それぞれのデータを包括的に共有し、総合的に研究を進めるためのプラットフォームがあることが重要だと考えています。その点は私たち科学システム本部の強みです。取得に高いコストがかかる地下の貴重なデータを、いかに蓄えて利活用するか。そのための仕組みは、非常に重要だと考えています。
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最後に改めて、CCSを学術的な面から支えていかれる立場として長縄先生から、そして、IT技術によってCCS事業化への貢献を目指す立場としてCTCから、社会に伝えたいことをお願いします。
長縄
先ほどの繰り返しになりますが、現実問題として、当面のあいだは化石燃料をある程度燃やし続けないと維持できないのが私たちの現代の生活です。そう考えたときに、排出されたCO2をどうするかという点で、技術的にも今一番実現可能で有用な方法がCCSであると考えています。ただ、反対される立場の方もいる中で、私は研究者として、メリットもデメリットも、できる限りの情報を提供し、かつ、一般の方にわかりやすい形で説明していくことが責務だと考えています。その上で、ぜひ皆さんと一緒に、どうしていくべきかを話し合っていけたらと思っています。
下野
今、私たちは、脱炭素社会への移行を一刻も早く実現させなければならない状況にあります。その中で、ITの専門家集団としてCTCが貢献できることは多くあると感じています。CCSの事業化に向けて役割を果たすことは、その重要な一つです。これからのCCSの動向にぜひ注目していただければと思います。

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