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|特集2・座談会|脱炭素を推進する「CCS」への挑戦──社会課題の解決を目指す科学システム本部の取り組み

|特集|脱炭素を推進する「CCS」への挑戦──社会課題の解決を目指す科学システム本部の取り組み

CCSとは、“Carbon dioxide Capture and Storage”の略。排出された二酸化炭素を回収し、地中深くに貯留する技術を指します。脱炭素へ向けた取り組みの一つとして、日本では2030年までに事業化することを目指しています。現在、石油技術協会 CCS委員会の委員長を務める秋田大学の長縄成実教授と、IT技術を通じてCCSの事業化に貢献すべく連携を深めているCTCの技術者が、CCSの技術とその重要性、今後について語りました。

取材・文/近藤 雄生

この記事は2024年3月8日の「Best Engine」Web記事から抜粋して掲載しています。
(2024年3月時点の肩書・所属名を記載しています。)

技術的に現在実行可能で有効性の高いCCS

長縄 成実 教授

長縄 成実

秋田大学大学院国際資源学研究科
資源開発環境学専攻 教授

1965年岐阜市生まれ。東京大学工学部資源開発工学科卒業、同大大学院工学系研究科資源開発工学専攻修士課程修了。同大助手、助教を経て、2018年1月から現職。2019年4月から2021年3月まで国際資源学教育研究センター長、2021年7月から同センター教授を兼任。博士(工学)。第2種及び第1種情報処理技術者のほか、日本サッカー協会(JFA)サッカー4級審判員の資格も持つ。

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2030年までに日本でCCS事業を開始することを目指して、昨年6月、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下、JOGMEC)が「先進的CCS事業」をスタートさせました。CO2を回収して地中に貯留するというCCSが今、必要な背景を教えてください。
長縄
日本では、2030年までに電源構成のうち再生可能エネルギーの割合を36~38%まで増やし、化石燃料を41%に減らすという目標を掲げていますが、当面は化石燃料を燃やさざるを得ず、CO2が排出され続けることは確実です。そうした中、CO2そのものを回収し地中に貯留して、気候変動への影響を極力減らそうというのがCCSです。現状において技術的にも実行可能で、かつ有効性の高い対策です。他国でも既に行われており、日本でも実行するのが望ましいと考えています。
CCSは大きく、「分離・回収」「輸送」「貯留」の3つの工程に分けられます。一般的な方法としては、まずは発電所や工場で発生するCO2を分離・回収し、アルカリ性溶液を利用した「化学吸収法」によって液化。それを、陸上の場合にはタンクローリー車などの専用車両で貯留地点まで輸送し、その後、掘削して作られた井戸を通じて1,000メートル以上の地下に貯留します。この中で特に検討すべき点が多いのが、最後の貯留の工程です。私は、その工程において重要な掘削技術の研究を長く行ってきたことから、CCSに関わるようになりました。

石油開発、地熱開発、CCSの共通点と違い

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長縄先生が携わられてきた掘削技術の研究について、またCCSとの関わりについてさらに詳しく教えてください。
長縄
私が研究してきたのは、石油や天然ガスを採掘するために深い井戸を掘る掘削技術です。井戸は、数千メートルまで掘っていくと、堀りながら井戸が崩れないようにどう保持するかが問題になります。石油や天然ガスの場合、掘った後にケーシングパイプという鉄のパイプを井戸の内側に入れ、周囲の岩石との隙間をセメントで固め、井戸の周りを流体が移動しないようにします。
石油を専門に掘削技術の研究をしてきた中で、十数年前からは地熱開発の研究も始め、前後してCCSの研究にも携わるようになりました。いずれも、基本的な掘削技術は同じですが、それぞれ特徴があります。石油の場合は、高圧の環境下へ井戸を掘るため、井戸の周りの地層に加わる圧力をいかに抑えるかが一番の問題になります。一方、地熱開発の場合、石油よりも格段に高温の地層まで掘ります。石油開発における高温が200℃前後なのに対して、地熱の場合は300℃前後(より深くまで掘る「超臨界地熱開発」の場合は400~500℃)です。つまり、温度に対する技術開発が重要になります。
そしてCCSでは、地中にあるものを地上に出す石油開発とは反対に、地上にあるCO2を地中へ送り、地層に圧入するというのが特徴的です。いかにCO2を漏洩させないようにするかが技術開発の中心になるのです。

CO2貯留のための基本技術はできつつあるが…

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CO2を漏洩させないためにはどのような技術的工夫が必要になるのですか。
長縄
まず、CO2を地中に入れる方法から説明すると、簡単に言えば、液化したCO2を井戸を通じて地下に送り、地層中の岩石の隙間に圧入するということになります。ただ、井戸は、ケーシングパイプとセメントで保持されており、そのままでは周囲の地層とはつながっていません。そのためケーシングパイプを固めた後、特殊な火薬で穴を開ける装置を井戸に下ろして、複数の穴を開けます。場合によっては、最初から穴やスリットの開いたパイプを下ろし、セメントで固めずに、それらの穴からCO2を地層へと入れます。
そうして地層に入ったCO2がどう漏洩し得るかといえば、一つは、井戸自体が漏洩経路になり得ます。CO2を入れた後、井戸は封鎖しますが、CO2は周りの地層中の水に溶解すると腐食性の流体になります。するとケーシングパイプとその周りのセメントが腐食して、CO2が漏洩する可能性があるのです。そのため、耐CO2特性を持つセメントの使用などが考えられていますが、ここが一つ難しい技術となります。この他に、いかにセメントをきっちり充填するか、貯留を終えた後にいかに井戸をしっかり埋め戻すか、といった点にも難しさがあります。
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日本は、2050年には1.2~2.4億トンのCO2貯留を目指しています。近年の日本のCO2排出量の1~2割ほどにあたります。実現できそうでしょうか。
長縄
日本のCCSの研究開発は、地球環境産業技術研究機構(RITE)という機関を中心に行われており、掘削そのものの技術としては、既に実行できる段階にきています。2016年から苫小牧で実施された国内初の大規模実証実験でも成功といえる結果を得ています。
ただ、事業化のためにはコストの削減が必要で、その点でさらなる技術開発が求められています。また、貯留地の選定の問題もあります。貯留に適した海域が絞り込まれてきているものの、実際に事業を始めるとなれば、地元の方々の理解を得ることが必要です。CO2の漏洩リスクなどを懸念する声もあるからです。そうした点の解決はまだこれからです。
出典:Best Engine Vol.16

記載内容は掲載当時の情報です。最新情報と異なる場合がありますのでご了承ください。

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