|特集2・座談会|脱炭素を推進する「CCS」への挑戦──社会課題の解決を目指す科学システム本部の取り組み

石油開発や資源分野で培ったIT技術をCCSへ

下野 祐典
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
エンタープライズ事業グループ
科学システム本部 科学システム開発部
システム開発第2課長
2005年に入社後、Landmark社ソフトウェアを担当。2005年、成果公開用地理情報システム構築(AIST)、2007年から地下情報の没入型可視化システムの開発(AIST)、2008年からは地球統計学的手法を用いた衛星データ補間アルゴリズムの開発(NIES)。2020年以降はメタンハイドレート生産データへの機械学習手法適用検証など、多くの資源関連情報を扱う案件に携わり豊富な実務経験を持つ。
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- CTCの皆さんのCCSとの関わりについて教えてください。
- 下野
- 私は入社時から石油開発関連技術のソフトウェアの販売や開発に携わってきました。その後、他の分野を経て、昨年10月から資源分野の部署に戻り、CCSを担当することに。今は、長縄先生が委員長を務められている石油技術協会のCCS委員会にも参加しており、CCSの事業化にCTCも貢献すべく調査やヒアリングを行っています。
- 坂口
- 私は、資源分野で広く使われているLandmark社のソフトウェアの保守や解析業務を担当し、その後2011年から2019年までは、JOGMECの国内石油・天然ガス基礎調査に従事しました。そこで石油や天然ガスの埋蔵場所を探すプロジェクトに参加し、音波探査で得られた3次元データをもとに地下構造を明らかにするといった解析を行ってきました。その技術が、CO2貯留の適地を見つけるのにも有用ということもあり、2019年にCTCに戻って資源やエネルギー分野を担当する中で、昨年からCCSに関わる機会が増えてきました。
- 高市
- 私は、1986年に入社しました。当時はサンシャインプロジェクトという地熱開発のプロジェクトが盛んな頃で、測定会社が取得したデータを解析処理するという業務を担当し、以来その関連の仕事に携わってきました。CCSについては、今後、データ解析の面などで関わっていく予定です。
ところで、前出のLandmark社のソフトは、1995年から当社で扱い始め、長縄先生には2013年から使っていただいています。ITASCA社のソフトは、そのさらに前から使っていただいていますよね。 - 長縄
- はい。Landmark社のソフトは、90年代後半頃から、坑井や掘削のシミュレーション、坑井の設計においてどの石油会社でも標準で使われています。CCSも技術面はかなり石油開発と重なるため、このソフトは有用です。

出典:「CCSの流れ」資源エネルギー庁(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html)を加工して作成
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- 石油開発やCCSの分野において、ITはどのような役割を果たしているのか、教えてください。他の分野に比べてどんな点が特徴的でしょうか。
- 坂口
- この分野の特徴として一つ感じるのは、データの重要性です。地下というのは見えませんし、掘ることも容易にはできません。そのため取得したデータは貴重です。国土に関わるデータなので機密性も高い。データの扱いに長けたITの専門家が必要とされる分野だと感じます。
- 長縄
- 地下は、見えないことに加え、そもそも探査自体が困難で、得られるデータは限られています。CO2を貯留すべき広大な領域(貯留層)について知りたくとも、井戸を何本か掘ってデータを取っただけでは全体像はわかりません。そこで、貯留層中のCO2の挙動を、シミュレーションを用いて理解することが重要になります。井戸自体についても、ケーシングパイプやセメントの材料選定、オペレーションの最適な条件の検討にシミュレーションは必須です。
- 高市
- 地下は不確実性が高いため、多くのデータを取って処理、解析することが必要で、データ量が多いことも特徴かもしれません。
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- 先ほど、貯留地の選定に関して、地域住民からCO2の漏洩などを心配する声があるとのお話がありました。懸念されるリスクとはどのようなものでしょうか。またその点でITはどんな役割を果たせそうでしょうか。
- 長縄
- CO2漏洩によるリスクについては、まだ研究や議論が行われている段階です。漏洩によって海中のCO2濃度が高まると水中の生物に影響し得ると考える研究者もいます。その一方で、CO2は人間への健康被害をすぐにもたらす類の物質ではありません。
2010年に、メキシコ湾で海底油田の掘削作業中に原油が流出する事故があり、1本の井戸からの油の漏洩が環境に甚大な被害を及ぼしました。CO2の漏洩について同様な懸念を抱く方もいますが、石油とはリスクの種類が違うことは確かでしょう。ただ、そのことを十分な根拠に基づいて説明できる人は現状おそらくいないのです。私自身も含めた“事業者側”が、まずはその点を正しく理解し、原油流出のようなリスクはない、ただ、これくらいのリスクはあり得るということを説得力のある形で示せるようになることが必要です。その際、データやITの力はとりわけ重要になるはずです。 - 下野
- CO2がどれだけ海水に溶けると、どれほど酸性濃度が上がり、海洋生物にはどう影響し得るかといったことをシミュレーションする。さらに、その結果や影響を十分に理解してもらうためには、VRやARによる可視化技術なども有用でしょう。こうしたIT技術の活用において私たちは貢献できると考えています。
シミュレーションやデータ解析、可視化の重要性

坂口 弘訓
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
エンタープライズ事業グループ
科学システム本部 科学システム開発部
主任
2009年、入社。Landmark社反射法地震探査データ処理ソフトウェア "ProMAX/SeisSpace®"技術サポートを担当。2011年から2019年にかけて国内石油・天然ガス基礎調査の三次元反射法地震探査処理に従事。2019年、IoT-AI適用による小規模地熱スマート発電&熱供給の研究開発、NEDO受託研究などに参画。2020年からJOGMECの委託研究でBSR自動抽出ワークフロー開発に携わる。
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