|特別対談:2|AIで「世界をGOODに」するために
日本がAI導入に後れを取っていると言われる中、世界では、AIを活用した新規事業が次々に生まれています。アメリカ、日本のデジタルマーケティング業界などで長く活躍してきた馬渕邦美氏は、AIで新規事業を生み出すためには「バーティカルな知識」がカギとなると言います。CTCの安藤俊CTOは、日本においてもAIの活用が進むように、CTCの様々な取り組みを牽引しています。日本は、生成AIの登場によるこの変革の波をどう乗りこなし、未来を切り拓いていけるのか。AIはどんな未来を創り出すのか。デジタル世界の変革を見続けてきた両氏が語り合いました。
取材・文/近藤 雄生
インターネット、スマホに続く大変革時代へ
安藤 俊
Shun Ando
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
執行役員
テクノロジー戦略グループ担当役員代行
兼 CTO
1987年、CTC入社。汎用コンピュータの保守業務やネットワークビジネスの立ち上げに参画した後、通信事業者向けインターネット設備やモバイルネットワーク設備などの案件に従事。フェローなどを経て、2025年から現職。
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- まずはご自身の紹介と共に、これまでのAIとの関わりや現在の取り組みについてお聞かせください。
- 馬渕
- 私は現在、XinobiAIというAIベンチャーの共同CEOを務めています。昨年、起業家の孫泰蔵さんと立ち上げた会社で、主に「パーソナルAIエージェント」(=様々な作業を人間の指示なしで自律的に実行する個人向けAI)の開発を行っています。それ以前は、Meta(旧Facebook Japan)やPwCコンサルティングの役員を務めるなどしており、その意味で私は、経営者であると共に、長くデジタルマーケティングやエマージングテクノロジー(=社会を大きく変革しうる先端技術)を追いかけてきたことがキャリアの中心にあります。インターネットやスマホに続く大きなテクノロジーチェンジである生成AIの時代が始まろうとしている今、日本から大きなチャレンジを仕掛けたいと考えています。
- 安藤
- 私は1987年にCTCへ入社して以来、ネットワークなどに関連する各時代の新しい技術に携わってきました。90年代に日本でインターネットの商用サービスが始まった頃には、それをどうビジネスに活用するかを考えるといったことを担当し、2000年代後半のスマホ登場期には、某キャリアのモバイルインターネットのシステム構築をお手伝いするなどしました。例えばモバイルインターネットの黎明期、移動時のデータ通信切断を防ぐ「シームレスローミング」の仕組みの開発に携わりました。そして生成AIによる変革の時代に入った今は、AIの技術を活かしてお客様の事業や社会に貢献する方法を色々と探っています。
- 馬渕
- OpenAIがChatGPT(GPT-3.5)を一般公開したのが2022年11月ですが、私はそれより前、PwCにいた時代に東京大学の松尾豊教授と共に「AI経営寄附講座」を立ち上げて、当時公開されていたGPT-3を念頭に「これからすごいことが起こるかもしれない」などと話していました。そのまさに半年後くらいにGPT-3.5が出て大ニュースとなったのですが、それからまだ3年もたたない今、既にGPT-5が誕生し、リーズニングモデル、すなわち「考えるAI」も出てきた。そしてAIエージェントの時代へと入ろうとしています。とてつもない変革の中にいることを感じています。
- 安藤
- 生成AIの進化の速さには本当に驚かされています。ただ、企業が自らの事業にすぐに生成AIを活かせるかと言えば、それは必ずしも簡単ではありません。AI導入には、法規制や業法の遵守など多くの制約があり、何よりもお客様や社会に便益をもたらす仕組み作りが重要です。当社は、ユーザー企業やその先のお客様、社会の安全・安心を大前提として、多様な業界へのイノベーション提供を目指しています。さらに、米スタートアップLiquid AI社との協業を開始し、同社が開発したAI処理の電力消費を削減する技術を活用することで、イノベーションの促進と社会課題の解決の両立にも取り組んでいます。
AI導入に「迷う」日本企業に必要なもの
馬渕 邦美
Kuniyoshi Mabuchi
XinobiAI株式会社 共同CEO
一般社団法人Metaverse Japan 代表理事
一般社団法人Generative AI Japan 理事
米国でのエージェンシー勤務を経てデジタルエージェンシーを起業し、事業拡大後にバイアウト。WPPグループ傘下のOgilvy One JapanのCEOを務め、デジタルマーケティング業界で計4社のCEOを歴任。2018年にFacebook Japan(現Meta)のディレクターに就任、PwCコンサルティング、デロイト トーマツ コンサルティングのパートナーを経て、現職。最新著作は『AI駆動マーケティング 業務効率化を超える生成AI実践術』(インプレス)。
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- 日本はAIの導入が他国に比べて後れていると言われています。その現状へのお考えを聞かせてください。
- 馬渕
- 日本でAIの活用があまり進んでいないことに対しては、かなりもったいないなと感じています。人口減少による人手不足が進む日本では、AIによる業務効率化は大きなメリットになるはずです。活用の拡大に向けて、より活発に議論されて欲しいと思っています。
一方、大規模言語モデル(LLM)やGPUの開発競争が既に世界で激化する中、今後日本がAIにおいて世界をリードできる可能性がある領域はAIアプリケーションだと考えています。その意味でも、日本発のパーソナルAIエージェントを開発して世界に打って出ることは重要なチャレンジだと考えて、私たちはその開発に取り組んでいます。 - 安藤
- 日本はAIの導入が後れているとよく言われますが、実際には皆さん、決して消極的なわけではなく、「迷っている」のだと感じます。社内の機密データ漏洩のリスク、投資対効果が見えづらい、倫理問題をどう考えればいいかわからない、といった点から動けずにいる印象です。
アジアでAIへの投資に積極的な国では、いずれも政府が率先して強力なAI支援策を講じています。例えばシンガポールでは、政府が政府系機関や組織に技術や資金援助を行い、積極的なAI活用を推進し、実装を加速させています。この実例にナレッジと経験を積み重ね、一般企業へのAI実装を進めています。それらが企業にとってAI投資に踏み出す大きな後押しになっていると考えます。日本では政府がAI利用の推進とルール作り、企業はAIの開発と実装を担い、社会の安全性と信頼性を確保する共通の目標を掲げ相互補完しながら進めています。また、シンガポールの企業で先日、CDOやCAO、CTOが全権を持ってAIのプロジェクトを進め、成功している様子を見聞きし、そのようなリーダーのもとトップダウンで一歩を踏み出し、その後にボトムアップで浸透させていくようなやり方が、日本でも必要なように感じました(図表1)。
- 馬渕
- なるほど、AIへの投資を行いやすい環境づくり、そして企業側のリーダーの必要性、共に同感です。他方、日本企業は、海外に比べてAI教育をよくやっている印象で、それは今後、日本の強みになるのではないかと思っています。社員全体のリテラシーがどんどん上がるし、その結果、社内に知見が貯まっていく。今、日本は若干出遅れてはいるものの、教育を徹底してやっていけば、これからきっとチャンスが巡ってきそうに思います。
- 安藤
- 教育の重要性は私たちも感じており、当社もAI人材の育成には力を入れています。今はまず、皆に使ってもらうべく、MS Copilotを導入して社内で自由に使える環境にしています。また、生成AIを使ったソフトウェア開発に関しても、プログラム開発スキルを持つエンジニアが誰でも使えるガイドラインを作成しました。いずれは、生成AIの進化に合わせてガイドラインをAIが自らアップデートしてくれるような仕組みを作ることも目指しています。ただ現状では、AIを使い倒してすごく詳しくなる人と、あまり使わない人とに分かれています。当社としては、皆がAIに精通して、どのメンバーも積極的にお客様にAI活用を提案できるようになって欲しいので、その点は課題ですね。
図表1:民間セクターのAIに対する投資額は、アメリカが約1,090億ドルと飛び抜けて多く、日本の投資額は9.3億ドル。
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