|特別対談:2|AIで「世界をGOODに」するために
バーティカルな知識が新規事業創出のカギ
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- AIを活用した新規事業の創出についてお聞かせください。どのような点がカギになるか、また、可能性が大きいのはどういう分野か。いかがでしょうか。
- 馬渕
- シリコンバレーでは今、AI領域で新規事業を立ち上げるベンチャーが毎日のように出てきています。1つの分野に特化して、バーティカルな知識(=その分野における深い専門知識)やデータをAIに取り込んで新しいビジネスを作ろうという動きが特に活発です。分野で言えば、マーケティングや営業、人事、ヘルスケアや金融などの領域から変革が始まっており、共通点はバーティカルな知識やデータが得やすく、まだ産業実装が進んでいない領域だということです。その意味で私は、バーティカルな知識をどう組み合わせていくかが新規事業を起こす上でのキーになっていくと思っています。
- 安藤
- 同感です。バーティカルな知識が蓄積されていながらも、データをAIに落とし込んで活用する知見がまだ十分ではない産業は多数あります。情報通信や製造業などを含めた産業で、これからAIを活用した新規事業が色々と出てきそうですね。一方、私は、科学技術の研究領域でのAI活用にも期待しています。新素材開発、創薬、環境技術などにおいて研究員間でデータを共有することで、研究開発の期間の大幅短縮などが実現すれば、現在の社会課題や環境問題の早期解決にもつながっていくのではないかと考えています。
- 馬渕
- 新しいテクノロジーを社会課題の解決に活かすベクトルは、とても大事だと思います。特に日本は、人口減少が世界の中でも著しいなど、社会課題の先進国とも言える状況です。直面している各種課題の解決にAIをどう活かせるかを私たちが世界に先駆けて示していくことは、日本の役割のようにも思います。先ほど安藤さんが、CTCの中で、AIを使い倒すメンバーがいるとおっしゃいましたが、とても素晴らしいことだと思って聞いていました。そういう人たちが、楽しみながらAIの技術を習得して、自ら新しいことにチャレンジしていく。それがきっと、企業や社会の発展へとつながっていくのですよね。
- 安藤
- それは本当にそうですね。
- 馬渕
- ちなみに私たちXinobiAIは、ビジョンを打ち立ててはプロトタイプを作って検討し、また壊しては次を作るという方法で開発を進めているのですが、シリコンバレーから来た当社のエンジニアは、1日に1つのペースでMVP(=必要最小限の機能を持つプロトタイプ)開発を行っています。今はAIに精通した人が、そのようなスピード感で新しいものを作っていく時代なのだなあと、つくづく感じさせられています。
生成AIからAIエージェントへ、そしてその先の未来は
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- 生成AIから今後、AIエージェントの時代へ向かうというお話がありましたが、その先の未来、AIはどう進化していくとお考えですか。
- 馬渕
- 今後、AIエージェントの時代になれば、つまり本当の意味で自律的に人間の業務を代替するAIエージェントが登場すれば、それはかなり革命的な出来事になると考えています。しかしAIの進化はそこでは止まらず、その後には物理空間との融合が進むはずです。つまり、ヒューマノイドです。実用的なヒューマノイドが普及した世界、私はそうした進化が起きる未来を今からとても楽しみにしています。
- 安藤
- おっしゃるように、これからAIはデジタル世界から物理空間へと広がっていくのだと思います。ただ、そうした進化が現実になるためには、AIを支える基盤技術のさらなる発達が必要です。そうした技術のうち今後すぐに問題となりそうなのは、新たな学習データをどう確保するかだと考えています。現在のLLMは、インターネット上の公開情報は既にほとんど学習済みという段階ですが、品質は担保されていません。そこでこれからは、企業が保有する莫大なデータの活用が重要な意味を持つはずです。真正性を持つデータを学習させることでAIのアウトプットの品質が向上し、また今まで取得できなかった製品やサービスの市場展開後の新たなデータの採掘も可能になります。流通するデータの質も量も上がっていけば、今度はしっかりとしたデジタルプラットフォームが必要になる。つまり、世界で協調してAI、データ、デジタルプラットフォームの3つが共に進化し、さらにそれらが適切な形で広く開放されること、すなわち民主化することで、AIの進化は現実のものになるのではないかと考えています(図表2)。そうした状況が整ってこそ、先の時代への道が開けるのだろうと思います。
- 馬渕
- その通りだと思います。企業データの活用については、例えばそうしたデータを産業内で集めて、プライバシーや企業秘密は守られる形にしたものを産業固有の学習データとしてAIを作る、ということが考えられますね。活用されればその産業の競争力は高まるはずで、そうした流れも今後進んでいきそうですね。
- 安藤
- またデータが増加すると、莫大なコンピューティングやネットワークのリソースが必要になり、2050年には枯渇すると言われています。この課題解決には量子技術が重要になると考えており、まだ研究開発の途上ですが、今後AIとデータの関連で発展し、広く使われるような気がしています。
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- 人間の働き方は、AIの進化によってどう変わりそうでしょうか。
- 馬渕
- 働き方がどう変わるかは人によって様々かなと思いますが、いかに早くAIありきの働き方を確立できるかは重要でしょう。AIによって特定のタスクの生産効率をどう上げられるか。マルチタスクをより効率良くこなすためにどうすればいいか。そうした方法をできるだけ早く確立し、その分人間は考えたり、趣味を楽しんだりすることも含めて自分を広げることにもっと時間を使えるようになれば、ビジョンが豊かになり、イノベーションが生まれるチャンスも増えていくのではないでしょうか。
- 安藤
- 場所と時間の制限から解放されるということが、一つ、これからの働き方の特徴になるでしょうね。様々な作業が人間なしで進み、人間はその確認をするだけになって、働き方はますます自由になる。そんな想像をしていますが、我々の世代はその変化になじめずに、いつまでも会社に行っているということもあるかもしれません。
- 馬渕
- そうですね。一方でこれからは医療や介護にもAIが入ってくるでしょうし、我々世代は、人生の終わりまでのあらゆることをAIにお世話になる最初の世代になるかもしれないですね。
図表2:AIの技術進化と共に社会にもたらすインパクトを享受するためには、基盤技術の発達と意思決定プロセスにおける公平性・安全性の担保が重要になる。
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